60年代アメリカのムードが漂う1台《シボレー NOVA》|クルマと好日

アウトドアフィールドに、あるいはちょっとした小旅行に。クルマがあれば、お気に入りのギアを積んで、思い立った時にどこへでも出かけられる。こだわりの愛車を所有する人たちに、クルマのある暮らしを見せてもらいました。

撮影/五十嵐一晴 文/豊田耕志

初出『Tarzan』No.833・2022年5月12日発売

60年代のアメリカの大衆車が、 マイ・グランドファーザー。

横浜は元町、山手エリアに抜ける坂の途中、サンドイッチ店〈バイミースタンド 元町〉の前に年季の入ったアメ車が停まっていれば、それは店主・江口真吾さんの愛車だ。1969年式のシボレー《ノヴァ》。クエンティン・タランティーノの映画『デス・プルーフ』の主人公が駆るメインマシンと同じ3代目(1968年〜1974年)であり、60年代後半のアメリカを代表する大衆車である。

サンドイッチ店の内装は、さながら当時のアメリカ映画のようだし、コンテナで作り上げたサーフ&ライフスタイルショップも営む江口さん、さぞかし、かの地のクルマを乗り込んでいるのかと思いきや、「実は初めてのアメ車なんです」と照れ笑い。

「でも、横浜だし、アメ車はずっと乗りたくて。ある時、元町の洋服屋〈カスタムスタイル ソーキャル〉(古いアメ車の輸入販売も趣味で兼業)から“いいの入ったよー”と連絡を受けて、覗きに行ったら、この3代目ノヴァが停まっていたんです」

でも、江口さんにとってノヴァは、シェビーⅡと呼ばれたカクカクフォルムの初代や2代目のイメージ。

「残念!と見送ったものの、仕事中も家で寛いでいる時もなぜかこのノヴァの姿がチラついて。辛抱堪らず、もう一度お店の門を叩き、試乗させてもらって。改めて対峙した一台をじっくり眺めると、外装や内装もほぼ手を付けてないフルノーマルな状態。それに運転席も昔から憧れていたスカイブルーのベンチシート! エンジンの調子もだいぶ良く、この一台を逃したら、次はない!との思いで、すぐに銀行に走りました(笑)」

この手のアメ車はカスタムすることが多いのだが、60年代アメリカのムードを漂わせた雰囲気を崩したくなくて、今のところカスタムする予定はないそう。

「やったとしても、ピンストライプで線を引くくらいですかね。言っても60年前のクルマなので、やっぱり故障も多くて。いろいろ直して、調子が良くなった時の楽しみに取っておこうかなと。まずは、自分のおじいちゃんと思って、大切にケアしながら長く乗り続けたいですね」

自分よりだいぶ年上のクルマを年長者同様に敬う。古き良きものがたくさん残る横浜の街で聞く江口さんの言葉は、とても格好よかった。

CHEVROLET NOVA

こう見えて60〜70年代のアメ車の中ではコンパクトカーに分類されるモデル。江口さんは運よく格安で購入することができたが、現在は人気車種ゆえ高額で取引されているそう。

いつもの駐車場所、〈バイミースタンド 元町〉の店前にて。メタリックなスカイブルーのボディとスポーティなフォルムのコンビネーションは、横から眺めるのも格別だ。

“NOVA”とは、英語では「新星」を意味するが、スペイン語では「行かない」という意味になるらしい。

ベンチシートも、ハンドルも、ドアトリムもスカイブルー一色。

“ブオン、ドゥルドゥル”とアメ車らしい排気音をかき鳴らすスモールブロックV8エンジン。

横浜の先輩から差し入れされたノヴァのパーツカタログ。いまだに現役で、注文すればしっかり届く。国産車よりも修理しやすいのがいいところ。

  • 全長4,811×全幅1,839×全高1,331mm
  • エンジン=V8OHV、5,000cc
  • 乗車定員=5名。
Owner

江口真吾(〈BUY ME STAND MOTOMACHI 〉オーナー)
1984年、神奈川県生まれ。保土ヶ谷のサーフ&ライフスタイルショップ〈405FACTORY〉を運営しながら、横浜・元町の〈バイミースタンド 元町〉も手掛ける。