
初秋の北アルプス・涸沢で、山々に囲まれる贅沢な紅葉狩りを。|9月の山・涸沢
季節によって異なる表情を見せる日本の山。その時期だけに出会える風景や体験を求めて、写真家の野川かさねさんに毎月おすすめの山と、その歩き方を教えてもらいます。
取材・文/小林百合子 撮影/野川かさね
今月の山 涸沢
標高/約2300m
おすすめコース 1泊2日
1日目
上高地バスターミナル(1時間)明神(1時間)徳沢(50分)横尾(1時間)本谷橋(2時間)涸沢
歩行時間計:5時間50分
2日目
涸沢(1時間10分)本谷橋(50分)横尾(50分)徳沢(1時間)明神(1時間)上高地バスターミナル
歩行時間計:4時間50分
穂高の山々に囲まれて、天空の紅葉狩り。
9月、北アルプスの山々では街より早く紅葉が始まります。10月中旬にはもう雪の気配が漂ってくるので、とても短い秋です。
各地の山から紅葉の便りが届きますが、やっぱり行きたいなと思うのは涸沢です。その地名から、山じゃないの? と思う方も多いかもしれませんが、涸沢は穂高連峰の山々に囲まれたカール(圏谷)で、険しい山の中にぽっかりとできた平らな場所です。
夏山シーズンには北穂高岳や奥穂高岳など、近くのスター級の山々を登る人々の中継地点として賑わい、健脚の人は涸沢でひと休みして、泊まることなく上へ、上へと登っていきます。
秋になり、ナナカマドが赤く色づき始めると、涸沢の紅葉が始まります。周囲の山肌も徐々に色づいてきて、最盛期には360度どこを見ても鮮やかな赤や黄色。山々に抱かれているという感覚で、これほど雄大な紅葉狩りはなかなかないのではといつも思います。
景色も素晴らしいのですが、私が秋の涸沢を好きなのには、もうひとつ理由があります。夏は人の往来が激しくて、どこか落ち着かない涸沢ですが、秋にはゆっくりと紅葉を楽しむ人が増えて、山小屋のテラスでコーヒーやビールを飲みながら日がな一日過ごしたり、テント場では鍋や焼き肉など、それぞれが豪華な食事を作ったり食べたりしながら山々を見上げています。
登山の楽しみとは、ただ山を登り下りするだけではなく、こうして山の中に身を置いて、その時間を自分たちなりに楽しむことなのだと秋の涸沢の風景を見ているとよくわかります。そんなときには、ああ、山登りをしていてよかったなと、心から思えるのです。
秋晴れの朝、テントから出ると穂高の山々が朝日に照らされて、より赤く燃えるように輝きます。山小屋で眠っていた人たちもテラスに出てきて、みんながその風景を見ています。いつもはできるだけ人が少ない、静かな山を好んで歩きますが、こと秋の涸沢では、そこにいる山を愛する人々と一緒に美しいその風景を分かち合いたい、そんな気分になれるから不思議です。
北アルプスの紅葉は一瞬で、すぐに冬の足音が聞こえてきます。だからこそかけがえがなく、一年に一度のほんのひとときを見逃したくないと思うのかもしれません。
日本一と言われる絶景の中の紅葉を。
涸沢で紅葉が綺麗に見られるのは例年9月中旬から10月上旬ごろ。ナナカマドやダケカンバが色づき、周囲の山々の山肌には鮮やかな紅葉のモザイクが見られる。
上高地バスターミナルから横尾までは梓川沿いの整備された登山道で、ほぼ平坦。それより先は本格的な登山道になるので、しっかりとした登山の装備が必要になる。9月に入ると朝夕の冷え込みが厳しく、フリースやダウンなどの防寒具は必須。10月に入ってからの登山は万が一の雪に備えて、軽アイゼンやチェーンスパイクを携帯すると安心だ。
涸沢より先、北穂高岳や奥穂高岳へ続くルートは経験者向け。初心者は涸沢までとし、安易に先に進もうとしないこと。紅葉時季の週末には非常に混雑するため、山小屋の予約は早めに済ませておくのがいい。
おすすめスポット情報
涸沢小屋
涸沢カール内にある山小屋。テラスからの展望が素晴らしく、ゆっくり紅葉狩りをするのに最適の場所。売店には生ビールやおでんなど豊富なメニューが揃い、山の中とは思えない充実ぶり。カール内にはもう1軒、涸沢ヒュッテという山小屋もあるので、混雑状況や好みで選ぶといい。
長野県松本市安曇上高地4469-1
090-2204-1300
https://karasawagoya.com/index.html
明神館
上高地バスターミナルから梓川沿いを歩くこと1時間。最初に出てくる休憩スポットがこちら。小さな山小屋で、売店では信州のりんごを使ったジュースなども。レトロなデザインのオリジナル手ぬぐいが素敵なので、ぜひチェックを。
長野県松本市安曇上高地4468
0263-95-2036
https://www.myojinkan.info/
五千尺ホテル
上高地・河童橋近く、大正7年創業のクラシカルなホテル。宿泊者以外でも利用できるティーラウンジでは、上高地の天然水から抽出した水出しアイスコーヒーや信州産ふじりんごのアップルパイなどが味わえて、山から下りてきたあとのお楽しみに。
長野県松本市安曇上高地4468
0800-800-5125
https://www.gosenjaku.co.jp/