ホルモンの機嫌をとる8つの生活習慣。
年齢のせいにしがちな不調の裏には、ホルモンのゆらぎが潜んでいる。テストステロンの機嫌をとるには、日々の習慣がカギ。筋トレ、睡眠、食事。小さな行動を変えれば、カラダとココロは確実に変わり始めるはずだ。
取材・文/石飛カノ イラストレーション/イマイヤスフミ 取材協力/久末伸一(恵佑会札幌病院泌尿器科部長)
初出『Tarzan』No.907・2025年7月17日発売

1.笑う機会を増やす。

テストステロンが低い人ほどアトピーのように免疫システムが過剰に働く傾向があることが分かっている。で、こんな実験がある。
健常な高齢者とアトピーの高齢者に2種類の映像を視聴してもらった。一つは天気予報、もう一つは『Mr.ビーン』。すると健常な高齢者だけでなく、アトピーの高齢者のテストステロン値が格段に上昇した。『Mr.ビーン』がツボにはまるかどうかは別として、笑いのある生活でテストステロンは増えるのだ。
笑いはテストステロンを上昇させる。

天気予報を見た前後では唾液中のテストステロン量の有意な変化は見られない。一方、コメディ映像を見た後、アトピーの高齢者はとくに唾液中のテストステロンの量が上昇。
Kimata et al. Acta Medica 2007
2.定時に起きる。
睡眠不足はテストステロンの敵。しかしただ長時間寝ればいいというわけではない。睡眠には脳とカラダのどちらも休息させるノンレム睡眠と脳が覚醒状態のレム睡眠があるが、ホルモンにとって大事なのはレム睡眠。
理由はレム睡眠中に脳の下垂体から精巣に「テストステロンを作れ」という指令がなされるから。レム睡眠はひと晩に3〜4回出現するが、規則的な睡眠がとれてこそ。毎日定時に起きることが規則正しい睡眠のカギ。
3.お酒は適量に留める。

調子に乗って鯨飲して翌日はぐったり。むろん二日酔いのせいもあるが、ぐったり原因のひとつとしてテストステロンが低下している可能性も。というのもラットの実験ではアルコールを積極的に飲むラットとあまり飲まないラットの飲酒後のテストステロン値を比較したところ、どちらもかなりの割合で低下していたことが報告された。
くれぐれも大量飲酒者につられて飲みすぎないこと。ビールなら中瓶1本、日本酒なら1合まで。
飲酒とテストステロン。

もともとお酒好きのラットのグループはお酒をあまり好まないラットよりテストステロン値が高い。アルコール摂取後はともにテストステロン値が半減。
Etelalahti et al. Alcohol 2011
4.失敗経験を嚙み締める。
サッカーのW杯ではなんといっても初戦が大事。というのも初戦で黒星がつくと必ずと言っていいほどその後の戦績が振るわないから。
テストステロンは勝利のホルモンなので試合に負ければその数値が低下することは容易に想像できるし、実際、科学的データも存在する。ただし負けたゲームの映像を何度も見返し、客観視できるようになるとテストステロン値が改善するとか。仕事で失敗したら失敗の原因を掘り下げて分析すべし。
5.定期的に筋トレをする。

運動はカラダにとってある意味お薬。どんな運動でもやらないよりやった方がカラダにメリットがもたらされる。ところが、ことホルモンに限ってはそうとも言えない。有酸素運動はあまりテストステロン増に寄与しないことが分かっているからだ。
たとえば長距離マラソンを走っている間は数値は上がるものの、マラソン後はがっくり下がる。それに対して筋トレは運動後もテストステロン値が確実に上昇する。若者はもちろん高齢者でも同様。思い当たるフシがあるなら有酸素運動より筋トレを。
12週間の筋トレ後の血中ホルモン。

DHEAは副腎で作られるテストステロンの前駆物質、DHTはテストステロンの変換物質、IGF-1は肝臓で作られる成長因子。12週間の筋トレ後にはいずれも数値が上昇。
Sato et al. The FASEB Journal 2014
6.夕方以降はカフェインを摂らない。
興奮作用のあるカフェインは勃起を促す働きがあることでも知られている。ただし、睡眠にとっては大敵。起きている間、脳内ではアデノシンという睡眠物質が増え続け、これによって眠気が生じる。カフェインはそのアデノシンの受容体に先回りしてくっついて眠気を抑制する。夕方以降にカフェインを摂取してギンギンになるのはこのため。
一時的にテストステロンは上昇するが、習慣的な摂取で睡眠の量や質が落ちては元も子もない。
7.果物を食べすぎない。
果物は他の糖質食品と異なり、インスリンの力を借りずにダイレクトに肝臓に運ばれる。そして代謝できずに余った分は容赦なく脂肪肝として蓄積される。これ、単なる「隠れ肥満」では済まされない。実はテストステロンが低下すると脂肪肝のリスクが高まり、逆に脂肪肝の改善にはテストステロンの作用が不可欠。
ビタミンや食物繊維が豊富な果物を食べるなとは言わない。食べるなら1日にゲンコツひとつ分程度が適量と心得よう。
8.徹夜は絶対NG。

何度も言うが、睡眠はテストステロンキープの必須条件。その証拠に徹夜することによってテストステロン値がだだ下がりする。4日間睡眠をとらせなかったラットの実験では、徹夜の日数が増えるごとにテストステロンとエストロゲンは低下していった。
その後、自由に睡眠をとらせたところ、エストロゲンは少しずつ回復していったがテストステロンは低下した状態が続いたという結果に。というわけで、40代以降の徹夜はダメ!
徹夜明けの男性ホルモン低下は戻らない。

ラットの実験。4日連続徹夜を続けるとテストステロン値は後半2日で急激に低下。睡眠を再開すると女性ホルモンは徐々に回復していくがテストステロンのダメージは後を引いたまま。
Andersen et al. Sleep Res. 2005


















