経済損失は年間1.2兆円!最新情報で読み解く「男性更年期」の現在。

いま更年期を巡る空気が変わりつつある。セレブの告白、社会の動き、驚きの研究データ。カラダにも社会にも密接に関わる更年期を、まずはニュースからアップデート。

取材・文/石飛カノ イラストレーション/ハラケイスケ 取材協力/上符正志(銀座上符メディカルクリニック院長)、森田 豊(医学博士、ジャーナリスト)

初出『Tarzan』No.907・2025年7月17日発売

更年期の常識
教えてくれた人

上符正志(うわぶ・まさし)/米国抗加齢医学会専門医、日本抗加齢医学会専門医。米・ニューヨークの最先端治療プログラムを習得し日本に導入。

更年期カムアウト。セレブの間ではもう常識に!?

更年期カムアウト

自らの生理不順やホットフラッシュをざっくばらんに口にするドリュー・バリモア、更年期が自然な生理現象であると理性的に述べるキム・キャトラル、40歳で更年期に突入したことを公にしたアンジェリーナ・ジョリー。今やハリウッド女優たちがこぞって更年期をカムアウトする時代だ。

「アメリカのエンターテインメントの世界では更年期対策は常識。隠さずに前向きに対処してその努力の結果綺麗でいることは女性にとっての憧れ。成功者の証しでもあるんです」(銀座上符メディカルクリニック院長・上符正志さん)

海外セレブが積極的に発信していることも相まって、女性の方が職場でも「更年期の悩み」を相談しやすい傾向にあることが、近年の調査で分かっている。

職場の先輩・同僚に相談した人の割合(%)

職場の先輩・同僚に相談した人の割合

症状レベルにかかわらず周囲の人間に更年期の相談をする割合は男性より女性の方が多い。女性は「更年期」に対しオープン。

パーソル総合研究所「更年期の仕事と健康に関する定量調査」

日本は更年期後進国。「よく知っている」男性は2割未満。

日本は更年期後進国

一方で厚生労働省が行った更年期に対する意識調査によると、やはり男女差が目立つ結果に。「男性にも更年期にまつわる不調があることを知っているか」との問いに対し、「よく知っている」と答えた男性は最も割合が高かった世代でも16.5%。全世代では2割未満。

「生活習慣病もメタボメタボとみんなが言い出してから気をつけるようになった。男性更年期も同様に啓蒙が必要だと思います」(医師・ジャーナリスト森田豊さん)

無知な状態で来るべき更年期を迎えることは、手漕ぎボートで海を渡ろうとするようなもの。

男性更年期障害の存在認知度(%)

更年期症状・障害に関する意識調査

男性更年期について「よく知っている」と答えた50代以降の女性は4割以上。逆に当事者である50代以降の男性は3割以上が「知らない」と答えた。

厚生労働省「更年期症状・障害に関する意識調査」(令和4年)

男性更年期障害の経済損失は年間1兆2000億円!

男性更年期障害の経済損失

経済産業省は24年、男性の更年期症状による経済損失が年間1兆2000億円に上るという試算を発表した。更年期症状による欠勤や業務効率の低下でこれだけの損失が見込まれるという、なかなか衝撃的なニュース。

下のグラフでも分かるように更年期障害による仕事のパフォーマンスの低下は女性より男性の方が著しい。

「女性は知識があるから更年期の不調に早く気づくし、同性同士で助け合う。男性は予測不能でいきなり深みにはまってしまう。早めの対処が必要です」(上符さん)

症状レベル別ジョブ・パフォーマンス(役割遂行度)
症状レベル別ジョブ・パフォーマンス(役割遂行度)

※ジョブ・パフォーマンス(役割遂行度)任された役割を果たしている、会社から求められる成果を出しているなど5項目の平均値

対象者は更年期による軽度以上の症状がある人。男性の重度レベルの人は平均値よりかなり低い結果に。

パーソル総合研究所「更年期の仕事と健康に関する定量調査」

大手企業が続々更年期対策をスタート。

大手企業が続々更年期対策をスタート

男性更年期の認知度は女性更年期に比べて全般的に低い。その一方で経済損失はやたらにデカい。これは何とかせねばと名だたる企業が動き出した。

オンラインセミナーを開催したり更年期休暇を導入したりと、更年期に関する情報提供やいざ症状が表れたときの対策に乗り出している。下の表はその代表例。

「たとえば医療機関で診断がついただけで体調が良くなる人もいますし、自分だけじゃないんだと気持ちが楽になることも。企業のこうした取り組みはとても重要だと思います」(森田さん)

男性更年期障害に対する企業の取り組み。
ホンダ ヘルスケアサービスによる専門のオンラインセミナー、割引料金での医療機関受診支援、メールの社内報やウェブサイトでの関連情報提供。
SMBC日興証券 男女を問わず更年期障害の社員を対象に「マイケア休暇」を導入。
三菱UFJモルガン・スタンレー証券 男女を問わず更年期障害の社員を対象に「ヘルスケア休暇」を導入。
野村ホールディングス 男性更年期障害について社内報で情報提供、医師と幹部との対談動画を全社員の必修研修として配信。

アクション映画を観ると男性ホルモンが増える?

アクション映画を観ると男らしさを取り戻せる

更年期障害の原因は性ホルモンの分泌低下。これはある意味、加齢による生理現象なので仕方のないこと。とはいえ、日常生活のちょっとしたことで男性ホルモンは上がったり下がったりする。たとえばアクション映画は上昇を促す。

「アメリカのデータですが、シュワルツェネッガーなどが主演の映画を観た後、闘争本能が満たされて男性ホルモンが増えると報告されています」(上符さん)

ちなみに男性ホルモンが減ると怒りを促す脳内ホルモンが増え、キレやすくなるという話。キレる前に映画館へ行こう。

The Terminator
The Transporter

写真/Album/アフロ

The Transporter
The Transporter

写真/REX/アフロ

スピード感溢れる格闘シーンや圧巻のカーチェイス、スリル満点の銃撃戦を擬似体験できるアクション映画は男性ホルモンの底上げにひと役買ってくれる。

性欲が旺盛な人ほど長生きする可能性が高い?

性欲が旺盛な人ほど長生きする可能性が高い

イギリスの研究によると、45〜59歳の1000人弱の男性を10年間追跡調査した結果、性的興奮の頻度が高い人の方が長生きだったという。1か月に1度も性的興奮がないグループは1週間に2度以上性的興奮をするグループに比べて死亡率が約2倍高かった。

「性行為をすると認知症のリスクが減るという研究報告もあります。セックスという行為は有酸素運動をしながら相手を喜ばせるために次にすることを考える、デュアルタスクでもあります」(森田さん)

エッチな人は健康で長生き。そして更年期とは無縁かも?

スポーツカーのエンジン音で男も女も若返る?

スポーツカーのエンジン音で男も女も若返る

イギリスの自動車保険会社が行ったユニークな実験がある。高級車のエンジン音を男女40人に聞かせ、唾液に含まれる男性ホルモンの量を調べたというもの。

その結果、女性はマセラティのエンジン音で被験者全員の男性ホルモンが増加。また、男性は6割の被験者の男性ホルモンがランボルギーニのエンジン音で増加したそう。男女にかかわらず性欲をドライブしているのは男性ホルモン。

「マセラティはどちらかというと甲高く、ランボルギーニは野太いエンジン音。排気音で反応が異なる興味深い実験です」(上符さん)

 

スポーツカー

エンジン音で性的興奮が増すのなら高級車でのデートがより有効? ちなみにコンパクトカーのエンジン音では女性の男性ホルモンはだだ下がりだったとか。 写真・ロイター/Heritage Image/アフロ

更年期は「終わり」のサイン? いいや、第2の人生の始まりだ

第2の人生の始まりだ

「更年期障害」と診断されたら人生もうお終い……。かつてそんなふうに捉えられていた時代もあった。数十年前、更年期といえば女性の専売特許で月経がなくなり妊娠する能力を失って、後はもう歳を重ねていくだけ。長らくそんな負のイメージが強かった。

「でも今は人生100年時代。更年期の症状が表れるのは50代前後なのでちょうど人生の折り返し地点になります。60代、70代で寿命が尽きる時代ならともかく、今は更年期から第2の人生がスタートする時代なんです」(森田さん)

更年期を知り、人生を前向きに。

平均寿命

厚生労働省による簡易生命表の推移。1960年から2022年を比較すると女性では16歳、男性では15歳寿命が延びている。今や更年期以降の人生はかなり長い。楽しまなきゃ損。