
Profile
出口クリスタ(でぐち・くりすた)/1995年、長野県生まれ。3歳から柔道を始め、現在は日本生命所属。父親の母国であるカナダ代表を選択し、初出場となったパリ・オリンピックでは女子57kg級で金メダルを獲得。週4日、道場で練習を積む。
1日4試合を戦い抜くカラダへ。回復を極めた柔道家のストレッチ。
パリ・オリンピックの柔道女子57kg級でゴールドメダルを獲得した出口クリスタ選手。「子供の頃からカラダは硬い方でした」と言うくらい、柔軟性には自信がなかったそう。
「ストレッチは練習前の準備運動として取り入れています。ただ、股割りするほどの柔軟性は求めていません。柔道における“恵まれたカラダ”って定義しづらいんです。例えば、小柄なら相手の懐に入りやすいのが長所になりますよね。私の場合、カラダが硬いことが瞬間的に爆発力を発揮するパワーに繫がっています。そうやってカラダの特徴を最大限活かす戦い方を突き詰めることが柔道の本質だし、強さの秘訣になるんです」
大外刈りを得意とする出口選手の柔道スタイルは、意外にも怪我の功名で生まれたのだという。
「ストレッチは怪我防止の意味合いもありますが、不調を感じた箇所をほぐす目的もあります。腰まわりを入念に行うのは、小学生の時にヘルニアを患ったから。ただ、それがきっかけで、早い時期から背負い投げを諦め、腰への負担が少ない大外刈りを磨くようになりました。技数を絞り鍛錬を積むことで一つ一つの鋭さが増していく。これは世界で勝つためにまず必要な戦術です」
試合に勝ち続けるには、もう一つ大事なことがある。大会では1日に3、4試合をこなさなければならないため、いかに疲労をリカバリーするか。これもストレッチが重要な役割を果たしている。
「1試合4分を終え、同点の場合、時間無制限のゴールデンスコアに突入する現代柔道においては、もう道着が握れなくなるくらい疲労困憊なこともしばしば。それでは、勝ち進めても真の実力は発揮できません。次戦までに残された15〜30分程度の短いインターバルで、いかに疲れをリセットできるかにかかっています。特に前腕のストレッチは欠かせません。周りの選手に足裏で前腕を踏んでもらってマッサージすることもあります(笑)。あとは、腰、肩、首もほぐす。筋疲労は緩和しながらも筋肉の緊張状態は解かない。これが力を発揮するポイントです」
世界を熱狂の渦に包んだオリンピックの舞台裏でもストレッチが出口選手の強さを支えていた。
肩まわりをほぐす。(60秒)
- うつ伏せになって脚を開き、両手と両膝の4点でカラダを支える。
- 両手を突っ張りながら上体を捻り、重心を移動させながら、肩から背中、さらに腰にかけて伸びを感じる。たまに左右の手の位置をずらしたり、膝に近づけることで、伸びを感じるターゲットを変える。
手首から指先まで伸ばす。(張りが取れるまでずっと)
- 四つん這いになり、手の指が手前に向くようにして、両手の手のひらを床につける。
- 息を吐きながらゆっくりとお尻を床に近づけ、手首の内側が伸びるように少しずつ体重を乗せる。
- 次は、両手の手の甲を床につけて同じ動作。全て床から手が離れないように行うこと。
帯を使い、股関節とハムストリングスを伸ばす。(各10回)
カラダを傾け、腰と背中の伸びを感じる。(各10秒)
- 肩幅に立つ。
- 腰を曲げたり、上体を捻ったり、はたまた首を傾けたり、ゆっくりと重心を変えながら筋肉の張りを感じるターゲットを探し、見つけたら10秒キープ。
- 再び姿勢を変えて、ターゲットを見つけたら10秒キープ。体勢によっては、同時に2か所以上のストレッチも可能。