時代はNMNからNADへ?老化にまつわる最新トピック。

エイジングの最前線を追うなら、キーワードはNADにオートファジー、セノリシスなどなど。まるで呪文のようなこれらの研究が、老け顔解消の未来を叶えてくれるかもしれない。

取材・文/石飛カノ イラストレーション/中尾 悠 取材協力・監修/上符正志(銀座上符メディカルクリニック院長)

初出『Tarzan』No.902・2025年5月8日発売

老化にまつわる最新トピック
教えてくれた人

上符正志(うわぶ・まさし)/米国抗加齢医学会専門医、日本抗加齢医学会専門医。米・ニューヨークの最先端治療プログラムを習得し日本に導入。

40代からの強い味方・NADについて。

昨今、美容医療の世界で注目されているNMN(ニコチンアミドモノヌクレオチド)。ビタミンB3などから体内で作られる物質で、NADという物質に変換されてミトコンドリアの代謝をサポートする。長寿遺伝子にも働きかけることからエイジングケアに有効ともいわれている。ただし、どのような形で摂取するにしろ、数万円から数十万円とかなり高額。

「最近、アメリカではNMNではなく変換物質のNADがサプリメントとして登場しました。実際にミトコンドリアに作用するのはNADなのでこちらを摂取した方が確実ですし、コストも安い。近年の研究ではNADは加齢とともに減っていくことが分かってきたので、アメリカでは40歳を越えたらNAD摂取を考えるべきとされているようです」

時代はNMNからNADへとシフトしていく予感?

血液中のNADの加齢変化

血液中のNADの加齢変化

健康な20〜87歳のアメリカ人の男女29人の血漿を分析。血漿中のNADの量は加齢とともに右肩下がりに低下していくことが分かった。

Rejuvenation Res. Apr 1; 22(2): 121-130

「老化のパラメーター」ことエピジェネティック時計。

「老化のパラメーターのひとつです。遺伝子はメチル基やアセチル基など化学的な修飾を受けて機能するかしないかを使い分けています。メチル基が遺伝子の端にくっついてフタをするとスイッチがオフになります。生まれたときにスイッチのオンオフは決まっていますが、歳をとるとフタが外れたり、余計なところにフタがされたりすることがあります」

歳を重ねても肌がきれいでツヤがある人は、オリジナルのままの遺伝子修飾を保っている可能性が高い。反対に余計なところにフタがされて(あるいは外れて)、実年齢以上に顔にシワが刻まれてしまう可能性もある。

メチル化を促す因子はおそらく喫煙や睡眠不足、ストレスなどの諸条件だと考えられている。重なるほどにエピジェネティック時計は実年齢以上に進む。オリジナルを保つ努力が必要だ。

オートファジーの維持がタンパク質の若さを保つ。

オートファジーの仕組み

【オートファジーの仕組み】細胞内にウイルスなどの異物があるとどこからともなく隔離膜という小皿のような物体が現れて異物を包み込む。やがて袋状のオートファゴソームからオートリソソームとなり新たなタンパク質が再生される。

ノーベル賞受賞で話題となったオートファジーが再び老化研究の世界で注目を浴びている。オートファジーとは細胞内でさまざまな物質を回収して分解し、リサイクルする仕組みのこと。

細胞の中にゴミがあるとツボのようなものができてゴミを取り込み、オートファゴソームという新たな細胞ができる。この中にあるリソソームという成分がタンパク質を分解し、それを材料に新しいタンパク質が再生される。

「この仕組みが加齢によって低下することが分かっています。顔に年齢不相応のシワができたり髪の毛が細くなるのは、オートファジーの機能が低下してタンパク質をリサイクルできなくなっていると考えられます」

オートファジーの働きを維持する主な方法は、脂っこい食事や血糖値の急上昇を避け、腹八分の食事を心がけることだそう。

オートファジーの美肌効果。

オートファジーの美肌効果

角層が厚くなった肘の部分の皮膚組織を培養して行った実験結果。オートファジー活性化剤を加えた皮膚と加えなかった皮膚を比較したところ、前者の角層の肥厚がなくなりきれいに整った。

資料提供/花王

セノリシスで老化細胞のゾンビ化を防げ!

見た目の老化は細胞の老化に起因する。細胞を老化させる因子は酸化、糖化、NADの減少にメチル化にオートファジー機能の低下とさまざまなものがあるが、その影響を受けて最終的には正常な細胞が増殖することをやめ、老化細胞と呼ばれる細胞に変化する。するとどうなるか。

「本来なら、体内をパトロールしているマクロファージや白血球といった免疫細胞が老化細胞を退治してくれます。ところが加齢で免疫力が低下すると老化細胞がゾンビのように居座ってしまい、周りの細胞を誘い込んでさらに老化を進めてしまうのです。一人が泣くと周りのみんなが泣く“もらい泣き現象”です」

最先端の老化研究では薬剤などで老化細胞を選択的に除去する「セノリシス」という治療法が確立されつつある。自助努力をしつつ普及を待つべし。

セノリシスのイメージ

セノリシスのイメージ

加齢や外部からの刺激によって、正常な細胞の中に増殖することをやめた老化細胞が生じる。老化細胞は周囲の細胞の老化を促進。近年ではこの老化細胞を薬やワクチンなどで除去するセノリシスが注目されている。