

Profile
ルイス・ロビン敬/1988年生まれ。〈mymizu〉共同創設者/一般社団法人Social Innovation Japan代表理事。国連開発計画(UNDP)や世界銀行(気候変動グループ)にて環境分野のコンサルタントを務めるなど、これまでに20カ国以上の国際機関や社会的企業のプロジェクトに携わる。2019年、日本初となる無料給水プラットフォーム〈mymizu〉を立ち上げ、身近な行動を通じて持続可能な社会をつくる仕組みを提案。現在は、女性起業家を対象としたインパクト支援プログラム「HELENA POWERS」や、東北沿岸をつなぐ「みちのく潮風トレイル」の英語発信・コミュニティ運営にも携わる。


日々を健やかにととのえる、4つの“well”
車を降りた瞬間、微かに潮の香りが鼻先をかすめた。ここは西伊豆スカイライン沿い、あせびヶ原の駐車場。標高800メートル近い高みで海の気配を感じるのは、伊豆トレイルならではだろう。
肌寒さが残る朝の空気に触れながら、ルイス・ロビン敬さんは〈マウンテンハードウェア〉の《コアエアシェルフーデッドジャケット》を羽織る。風を防ぎながら、動きを妨げない軽さ。走る日にはこうした身軽さが頼もしい。
「仕事柄、出張や移動が多いのですが、行く先でも走るのが習慣になっていて。だから旅先に持って行く羽織ものは荷物にならず、着ていて気持ちのいいアウトドアウェアを選ぶようになりました」
マイボトルと補給食を入れたザックを背負い、ルイスさんは軽やかに走り出した。
あせびヶ原駐車場から達磨山山頂までは、ランナーの足で20〜25分。最初に現れる高さの異なる木の段差に、呼吸とリズムを合わせながら脚を運ぶ。スタート直後に少し勾配はあるが、朝のカラダにはちょうどいい負荷だ。
「走ると考えが整理されるんです。アイデアが浮かんだり、気持ちが静かになる。だから毎日少しでも動きたい」
ラグビーに打ち込んでいた学生時代は、走ることがトレーニングの一部だった。けれど今は、心とカラダを整えるための欠かせない時間。呼吸を刻みながら、思考をほどいていく。

たおやかな稜線が続く気持ちのいいトレイル。


フードの縁には伸縮性のあるバインディングが施されており、頭部にしっかりとフィット。風の強い環境でも崩れにくく、視界を妨げない。
背の低い笹原を抜けると、360度の景色が開けた山頂に到着した。右手には駿河湾、背後には雲をまとった富士山。視界いっぱいに広がる若草色と青のコントラストを眺めながら、ゆっくりと呼吸を整える。
「こういう景色を見ながら、誰かと話す時間って、いいですよね」
ルイスさんが静かにつぶやいた。
「最近、“connect well”という言葉を自分の中で意識していて。メールやSlackだけだと、やっぱり伝わらないニュアンスってある。だから、できるだけ仕事仲間や家族、友人の声を直接聞くようにしているんです。電話でもいいけど、できれば一緒に歩きながら話す。社内でも、ライトなミーティングは外を散歩しながら行うことがよくあります。そのほうが自然と会話が深まる気がするから」
足元に目をやると、さっきまでの道が遠くまで続いていた。登ってきたばかりの脚にじんわりと温かさが残る。マイボトルの水を口にしながらルイスさんは続けた。
「意識していることは“connect well”のほかに、3つあって。“move well”は、一日10分だけでもカラダを動かすこと。走れない日はスクワットだけでもいいから、とにかく動くと気持ちが整う。“eat well”は、できるだけ地元の野菜や低農薬のものを選ぶこと。食べることは、誰とどう生きるかともつながっている気がしているから。あとは“sleep well”。しっかり眠ると、シンプルにカラダの調子がいいですよね。最近は子どもが生まれたばかりで理想の7時間睡眠には届かないけど、今はその時期と思って楽しんでいます」

《コアエアシェルフーデッドジャケット》はわずか138gで、持ち運びもストレスなし。晴れていても風が冷たいとき、登りで汗をかいて下りで冷えるときなど、こまめに体温調整をしたい場面で一枚あると心強い。

右側のハンドポケットに収納できるパッカブル仕様。手のひらサイズに収まるため、バックパックに入れても嵩張らない。

下山後は、次の目的地へ向かう前に「しおさいの湯」でひと息。
湯上がりに着替えたのは、さらりとした肌触りの《コアエアシェルシャツジャケット》。街中を歩くときも自然に馴染み、蒸れにくいこの一枚が、移動の多い旅にはちょうどいい。
湯の余韻をほんのり残したまま、海を目指して車を走らせる。



走るように、汲む。日常のなかにあるアクション。
車で海沿いの道をしばらく走ると、世界的にも貴重な火山岩の断層が残る「西伊豆ジオパーク」の一角、黄金崎公園にたどり着いた。ランニングと温泉で火照ったカラダに、海から吹き上げる風が心地いい。ジャケットを羽織ったまま、松林の遊歩道をゆっくり歩く。
日中の黄金崎は、すべてがはっきりとした輪郭を持っていた。空は高く、海は深く、岩肌は光を反射して、深くあたたかい赤土色を帯びている。馬の頭のように突き出た岩が、海の向こうをじっと見つめているのが見えた。
そんな景色のなかに身を置くと、自然の美しさのすぐそばに、それを脅かすものが確かに存在していることに気づく。ルイスさんが問い続けてきたのは、そうした“見て見ぬふりをしてしまいがちな違和感”に、どんな行動で応えられるかということだった。


たとえば、自分のボトルに水を汲むという小さな行動が、社会を少しずつ変える力を持っているとしたら——。そんな発想から生まれたのが、全国の給水スポットをつなぐプラットフォーム〈mymizu〉だ。
きっかけは、旅先の沖縄で見た光景だった。透き通るような海のそばに、打ち上げられた大量のペットボトル。あまりにも強烈なコントラストに、「なぜこんなにもペットボトルがあるんだろう? 」と疑問を抱いた。
調べてみると、日本は容器包装プラスチックの消費量が世界第2位。その多くがリサイクルされることなく、川や海へと流れ出ているという現実があった。もっと多くの人がマイボトルを持ち歩くようになれば、ペットボトルの使用は自ずと減るはず。けれど外出先で水を補給できなければ、その習慣は広がらない。だからこそ、誰もが気軽に給水できる仕組みをつくろうと考えた。
〈mymizu〉は、アプリを開くだけで現在地周辺の無料給水スポットをすぐに見つけられる。カフェやレストラン、公共施設など、日常生活の動線上にある場所がマップ上に表示されるため、マイボトルに水を補給するのも簡単だ。
登録スポットは日本全国で13,000カ所以上、海外を含めれば20万カ所以上にも及ぶ。〈mymizu〉が目指すのは、新しいボトルや特別なツールを生み出すことではなく、すでにある行動のハードルを下げること。環境への配慮が特別なことではなく、日々の選択のなかに自然と溶け込んでいくように。

シューズ《PEAKFREAK™ II OUTDRY™ WIDE》カラー/010 Black, Shark 快適な内部環境を実現する防水透湿機能「アウトドライ」と高いグリップ力を発揮する「アダプトトラックス」が特徴。

耐摩耗性に優れた”Pertex® Quantum Air”素材を使用しているため、岩がせり出すトレイルなどでもタフに動ける。軽くしなやかな生地はストレッチ性もあり、カラダの動きに自然とフィットする。

《コアエアシェルシャツジャケット》は軽やかな着心地ながら、袖口は風をブロックするシェルジャケット仕立て。動きの多いシーンでも活躍する。

アプリ内のインパクトレポートでは「削減できたペットボトルの本数」や「CO₂排出の削減量」などが可視化される。自分がどれだけ環境に貢献できたかがひと目でわかり、日々のアクションに実感を与えてくれる。

〈mymizu〉は、ランニングや登山といったアクティブな時間とも相性がいい。どこでも水を補給できるという安心感が、行動の選択肢を広げてくれる。
未来をつくる、続けられる習慣。
〈mymizu〉を使えば、マイボトルを持つことが“無理なく続けられる習慣”になる。
そんな無理のない選択を、ルイスさん自身も日々の暮らしの中で実践している。再生可能エネルギーを導入する、環境に配慮した投資をする、プラスチックの使用を控える、そして使い終えたモノはメルカリで次の人へ。決して派手なアクションではなく、「自分が気持ちよく選べるかどうか」。その感覚を大事にしている。
「日本は環境意識が低いと言われがちだけれど、江戸時代あたりまでは循環の文化が根づいた国だったと思うんです」
ルイスさんはそう語る。たしかに江戸時代の暮らしを振り返れば、紙も布も金属も再利用され、壊れた道具は修理して使うのが当たり前だった。“もったいない”という言葉に象徴されるように、自然と共に生き、モノを大切にする知恵は、当時の暮らしにしっかりと根づいていたはずだ。
それは一度失われかけたものの、現代の暮らしの中にこそあらためて取り戻すべきものではないか。ルイスさんの選択と行動は、そんな問いかけそのものでもある。
旅の締めくくりは、〈瀬浜寿司〉でいただく地魚の握り。海の幸に手を合わせながら、小さな旅をふり返る。
マイボトルに水を汲んで歩くこと。土地の恵みを、その土地で味わうこと。そんな小さな選択の積み重ねが、未来につながる一歩になるのかもしれない。
Information

耐水・耐久・ストレッチ性を兼ね備えた”Pertex Quantum Air”を採用。ムレを逃がす高い通気性と「空気のような軽さ」で、長時間の行動も快適なエアシェルシリーズ。登山だけでなく、ランニングやファストパッキングでも頼れる一枚。
コアエアシェルフーデッドジャケット/19,250円
コアエアシェルショーツ/14,300円
同素材を使った〈コアエアシェルシャツジャケット〉は、街にも馴染むミニマルデザイン。UPF50の高い紫外線カット性能搭載で、強い日差しの下でも安心して過ごせる。脱いだあとは小さくたたんでザックに収まり、旅先でも無駄がない。
コアエアシェルシャツジャケット/19,800円