4月の山・尾瀬ヶ原|写真家・野川かさねが選ぶ今月の山

季節によって異なる表情を見せる日本の山。その時期だけに出会える風景や体験を求めて、写真家の野川かさねさんに毎月おすすめの山と、その歩き方を教えてもらいます。

取材・文/小林百合子 撮影/野川かさね

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今月の山 尾瀬ヶ原おぜがはら

標高/1400m(尾瀬ヶ原)
おすすめコース 1泊2日
1日目
鳩待峠(1時間)山の鼻小屋(1時間15分)龍宮小屋
歩行時間計:2時間15分
2日目
龍宮小屋(30分)見晴(30分)龍宮小屋(1時間15分)山の鼻小屋(1時間20分)鳩待峠
歩行時間計:3時間35分

 

冬から春へ、季節の流れを感じる4月の尾瀬。

4月、街では桜をはじめ様々な花が咲き、春爛漫という時期。でも、標高1000m以上の山では春の訪れはまだ少し先です。

登山をする人にとって、4月はちょっと難しい時期。すでに春めいている低山を歩くのもいいですが、少し高い山にも登りたいなと思って、登山地図を引っ張り出して頭を悩ませる人も多いかもしれません。

多くの山で冬と春が移り変わるこの時期、私は決まって尾瀬ヶ原に出かけます。尾瀬といえば春のミズバショウ、夏のニッコウキスゲ、秋の草紅葉が人気で、そのシーズンには多くのハイカーで賑わいます。どの風景も美しく、登山を初めて数年は私もベストタイミングを狙って出かけていました。でもある時、尾瀬をよく知る人から、「4月の尾瀬ヶ原もいいよ」と聞いて、半信半疑で出かけてみたのでした。

尾瀬ヶ原は日本有数の高層湿原で、初心者でも歩きやすいよう木道が整備されています。貴重な植物や湿原を守る意味もあり、ハイカーは木道以外の場所を歩くことはできません。でも4月の尾瀬ヶ原はまだ一面雪に覆われて、木道も雪の下。気の赴くままに、自由に尾瀬ヶ原を歩けるのです。

初めて雪の尾瀬ヶ原を歩いた時の気持ちは、今もよく覚えています。なんて自由、なんておおらか、そしてなんて楽しいのだろう。いつもは木道の上から遠くに見つめていた森へ近づくと、少し離れた雪原の上を、てくてくとツキノワグマが歩いていました。尾瀬にツキノワグマがいることは情報として知っていましたが、その姿を目にしたことで、尾瀬が内包する自然というものを、より近く、親密なものとして感じることができました。

少しだけ雪解けした水辺には、枯れて茶色くなったミズバショウの花がありました。まだ開花には早い時期ですが、きっと暖かい日に春が来たと勘違いして花を咲かせ、その後の冷え込みで枯れてしまったのでしょう。それは誰が見ても美しいという風景でないかもしれませんが、夢中でシャッターを切りました。

尾瀬といえば完璧に美しい、絵葉書のような風景を長らくイメージしていた私にとって、そのミズバショウは、それまでとは違った「美しさ」を教えてくれました。それは「季節の流れ」「自然の時間」というものの中にある、とてもさりげなく、けれど力強い「美しさ」でした。私がそこにいても、いなくても、季節は移り変わり、自然は変化している。そのことを実感として知ったことで、街にいても遠くの山の時間の流れを感じることができるようになりました。それは写真を撮るうえでも、ひとりの人として生きていくうえでも、とても大切な学びになりました。

「季節外れ」というのは登山ではネガティブな言葉として使われがちですが、ベストシーズンではないからこそ見えてくるものがあるような気がしています。

雪解け時期の尾瀬ヶ原は万全の装備で。

6月から10月ごろにかけての登山シーズンは初心者でも安心して歩ける尾瀬ヶ原。観光地のイメージも強く軽装で出かける人も多いが、4月から5月にかけてはまだ雪がたっぷり残り、気温も低いので注意が必要。

防水性のある登山靴、ゲイター、スノーシューや軽アイゼン、ストック、防寒具、保温ポットなど、基本的な雪山の装備は必携。木道が出ていない尾瀬ヶ原は目印がないので、地図読みの技術も必要になる。雪山経験のない人はガイドと一緒に歩くことを強くすすめる。雪解けが進んでいる箇所では雪を踏み抜いて池塘に足が落ちることがあるので、日帰りでも予備の靴下を持っていくといい。

冬季はすべての山小屋が休業する尾瀬は、4月中旬から下旬にかけて山小屋の営業が始まる。泊まりがけで出かける場合は山小屋の営業状況を確認し、必ず予約して行くこと。

積雪状況などは尾瀬保護財団や山の鼻ビジターセンター、尾瀬沼ビジターセンターなどに問い合わせて事前に確認を。鳩待峠までのバスの運行状況もあわせて確認すること。

おすすめスポット情報

土田酒造
創業1907年という歴史をもち、菌や微生物を活用した生酛(きもと)造りという手法で日本酒を造り続ける酒造。《尾瀬の木道》という日本酒は、売り上げの一部が尾瀬の木道修復プロジェクトへの支援に使われるなど、尾瀬と深い関わりを持っているのも素敵。
群馬県利根郡 川場村川場湯原2691
0278-52-3670
https://tsuchidasake.jp/

馬鹿旨
車で尾瀬へ向かう途中、沼田IC近くにある中華料理店。たっぷりのトマトを使い、ふわふわの卵でとじた名物のトマトラーメンを、ぜひ。餃子などほかのメニューもおいしくて、いつも地元の人たちで賑わっている様子。
群馬県沼田市久屋原町25-1
0278-24-3751
https://www.bakauma.co.jp/

片品そば 横坂製麺
尾瀬の麓、環境省名水100選にも選ばれる片品村の天然水を使って蕎麦やうどんなどの麺を作る製麺所。とくに生うどんは茹でるとツルツルした食感が心地よく、やみつきに。飲食はなく、麺の販売のみ。
群馬県利根郡片品村鎌田4078
0278-58-3137
http://www.yokosaka.net/

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