2月の山・入笠山|写真家・野川かさねが選ぶ今月の山
季節によって異なる表情を見せる日本の山。その時期だけに出会える風景や体験を求めて、写真家の野川かさねさんに毎月おすすめの山と、その歩き方を教えてもらいます。
取材・文/小林百合子 撮影/野川かさね
今月の山 入笠山
標高/1,955m
おすすめコース 1泊2日
1日目/ゴンドラ山頂駅(30分)山彦荘(15分)ヒュッテ入笠
歩行時間計:45分
2日目/ヒュッテ入笠(40分)入笠山(35分)ヒュッテ入笠(45分)ゴンドラ山頂駅
歩行時間計:2時間00分
“怖くない山”で、雪山デビュー。
2月は標高の高い山では“厳冬期”という時期で、気温も低く、雪もたっぷりと積もっています。本格的な雪山登山には高い技術が必要とされるので、私はごくまれに山岳ガイドさんに同行を頼んで雪山修行をするくらいで、だいたいはのんびりと雪を楽しめる“やさしい雪山”に登っています。
でも、雪のある山に登ったことのない人にとって、どこが“やさしい雪山”で、どこがそうでないのか、わかりませんよね。かつての私もそうで、登山を始めたその年の冬、雪の山をどうしても歩いてみたくなって、初心者でも歩ける山はどこだろうと一生懸命探したのでした。
その時に見つけたのが八ヶ岳の近くにある入笠山。標高2000m近くある山ですが、スキー場があるために冬でもゴンドラが動いていて、一気に標高を稼げます。
ゴンドラの山頂駅から少し歩くと入笠湿原が広がっていて、雪の季節には一面の銀世界。雪がない時期には木道の上しか歩けないのですが、木道が雪に埋もれてしまったら、広い湿原を好きなように歩けます。
初めて冬の入笠湿原を歩いた時、風に舞って、空中でキラキラと輝く雪を見ました。それは初めて見る風景で、夢中でシャッターを切ったことを覚えています。雪の山とはこんなに美しいものなのかと感激して、それ以来ほぼ毎年2月には入笠山に足を運ぶようになりました。
入笠湿原だけ歩いて日帰りするのもいいですが、もう少し雪の山を楽しみたいなと思った時は、湿原の近くにある山小屋〈ヒュッテ入笠〉に泊まって、翌日にゆっくりと山頂まで登ります。
アップダウンはありますが滑落するような危険なところはなくて、40分ほどで山頂に着きます。山頂からは雪をかぶった富士山や八ヶ岳、北アルプスなどが見えて、自分が夏に登った山々が、冬にはこんな荘厳な姿になるのかと感極まりました。
ヒュッテ入笠には、のんびりと雪山を楽しむ人が多く泊まっていて、入笠山と同じく、どこまでも穏やか。
それまで漠然と持っていた「雪山=怖い」というイメージがすっかりなくなって、自分のペースで雪山を楽しめばいいのだと思えるようになりました。入笠山で“やさしい雪山”の魅力を知ってからというもの、私にとって2月は厳冬期とは真逆の、のびのびと雪と遊ぶ季節になっているのです。
手軽に雪山気分を味わえる山。
ゴンドラで標高1780mまで上れる入笠山は雪山の入門編として最適。コース途中にある入笠湿原は広々と開放的で、初めて雪の上を歩く人にとっては歩行練習にもなる。
例年1月中旬ごろから十分な積雪があり、状況によってはスノーシューが必要になることも。ゴンドラの乗り場がある富士見パノラマリゾートではスノーシューやトレッキングポールなどスノートレッキングに必要な装備のレンタルがあるので、必要に応じて利用するといい。
入笠山の山頂までは登山道の状況により軽アイゼンやチェーンスパイクが必要になることもある。ヒュッテ入笠に宿泊すれば無料貸し出しを利用できる。
危険箇所がないとはいえ雪山登山の基本的な装備は必須。ダウンなどの防寒具やレインウェア、ニット帽子、手袋、登山靴、保温ポットなど、ウェアや道具類の準備をしっかりとすること。
富士見パノラマリゾートまではJR富士見駅から無料送迎バスがあり、公共交通機関でのアクセスがいいのも魅力。マイカー利用の場合はゴンドラ乗り場近くの駐車場を利用できる。
おすすめスポット情報
ヒュッテ入笠
標高1800m、入笠湿原近くにある山小屋。入笠山山頂まで片道40分程度なので、ここに泊まって翌日にのんびり山頂まで登るのがおすすめ。グループ単位や、空室状況によってはひとりでも個室に泊まれる。山小屋には珍しくお風呂があるのが嬉しい。朝食には焼きたてパンが出る、料理自慢の山小屋。
長野県諏訪郡富士見町富士見11404-200
0266-62-2083
https://hutte-new-casa.com/
茶虎飯店
JR富士見駅近くにある小さな中華料理店。八ヶ岳の新鮮な食材を使った、やさしく、ていねいな味で、季節を変えて何度でも通いたくなる。カウンター席があるので、ひとりでも入りやすい。
長野県諏訪郡富士見町落合10007-9
080-4343-6769
https://www.instagram.com/chatorahanten/
よはく酒店
長野県内の地酒を中心に日本各地の厳選した日本酒と、国内外のクラフトビールを取り揃える楽しい酒店。角打ちもできるので、帰りの電車を待つ間に軽く一杯飲んでいくのもいい。
長野県諏訪郡富士見町富士見3579-3
0266-75-5371
https://www.instagram.com/yohaku_saketen/