3月の山・高尾山、小仏城山|写真家・野川かさねが選ぶ今月の山

季節によって異なる表情を見せる日本の山。その時期だけに出会える風景や体験を求めて、写真家の野川かさねさんに毎月おすすめの山と、その歩き方を教えてもらいます。

取材・文/小林百合子 撮影/野川かさね

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今月の山 高尾山たかおさん小仏城山しろやま

標高/599m(高尾山)670m(城山)
おすすめコース 1泊2日
高尾山口駅(15分)琵琶滝(1時間)高尾山(1時間)城山(20分)小仏峠(45分)小仏バス停
歩行時間計:3時間20分

早春の高尾山でスミレ三昧。

3月に入ると、町はだんだんと暖かくなってきます。この時期に必ず登るのが高尾山。東京に暮らす人にとっては最も身近で、登りやすい山だと思います。途中までケーブルカーやリフトで登れることもあって観光客も多いですが、じっくりと歩いてみると、驚くほど豊かな自然が広がっています。

早春に高尾山に登る理由は、スミレです。高尾山には60種以上のスミレが生育し、3月中旬から4月下旬にかけて花を咲かせます。上品な紫色のタチツボスミレ、淡い桃色のヒナスミレ、高尾で初めて発見され、その名を冠しているタカオスミレなど、この時期の高尾山はスミレの王国のよう。色も形も咲き方もみんな違っていて、何度歩いても新しい発見があります。

登山道の脇で人知れず開花しているスミレを見ると、ああ、春が来たんだなあと、しみじみ思います。冬の山は植物が枯れて、あまり色を感じない世界ですが、他の植物に先駆けてスミレが花を咲かせると、山に色が戻ってきたような気がして嬉しくなります。長い冬の間、土の中で春を待っていたのかと思うとき、山の季節の流れをたしかに感じられるのです。

多くの人はケーブルカーを使って中腹まで登りますが、スミレ観察をしたい私は高尾山口駅から徒歩で山頂を目指します。高尾山にはたくさんのハイキングコースがあって、それぞれ個性がありますが、好きなのは渓流に沿って歩く6号路。別名「水のコース」とも呼ばれていて、途中の琵琶滝では滝に打たれて修行をする水行者の姿を見られることもあります。

駅から歩いても、高尾山頂までは1時間半程度。もし体力に余裕があれば、隣の山、城山まで歩くのもおすすめです。高尾山頂は多くの人で賑わいますが、そこから一歩奥に入ると静かでのびやかな尾根道が続きます。城山までは1時間ほど。山頂にはお茶屋さんがあって、高尾山の麓で作られる豆腐が入ったなめこ汁や甘酒など、ほっと温まるメニューをいただけます。

山頂だけを目指して急ぎ足で歩いていては、足元の小さなスミレは目に入ってきません。とてもささやかな山の春の訪れを、ゆっくりと歩きながら見つめる。派手さはありませんが、私にとって高尾山のスミレは、季節を噛み締めながら歩く山の楽しさを教えてくれた場所です。

季節やコースを変えて何度でも楽しめる山。

都心から電車でのアクセスがよく、ケーブルカーやリフトで中腹まで登れる高尾山は、登山初心者だけでも登れるやさしい山。自然研究路の1〜6号路、稲荷山コースなどバリエーション豊かなハイキングルートが整備されていて、中にはスニーカーで登れるものもある。

6号路と稲荷山コースはやや足場の悪い箇所があるので、トレッキングシューズを用意すること。城山など高尾山より先の山へ足を延ばす際も、しっかりとした靴が必要になる。初心者で体力や装備に不安がある人は、ケーブルカーとリフトを利用して中腹まで登れる1号路がおすすめだ。

3月は町ではポカポカ陽気の日もあるが、高尾山の平均気温は10℃に満たないこともある。6号路や稲荷山コースを歩く場合は、しっかりとした防寒具を携帯し、風や雨を防げるマウンテンジャケットがあると安心だ。

城山まで足を延ばす場合は、その先の小仏峠まで歩き、そこから小仏バス停まで歩いて下る。京王線の高尾駅までバスが出ているが、平日は本数が少ないので事前に確認しておくこと。

おすすめスポット情報

高尾599ミュージアム
高尾山の自然をプロジェクションマッピングでダイナミックに表現する映像スペースや、四季折々の植物や昆虫を紹介する展示スペースなど、大人でも楽しめるミュージアム。スミレについても詳しく解説されているので、登山前に立ち寄るとより植物観察が楽しくなる。登山口のある京王線高尾山口から徒歩4分。
東京都八王子市高尾町2435-3
042-665-6688
https://www.takao599museum.jp/

京王高山温泉 極楽湯
京王線高尾山口のとなりにある温泉施設は、下山後の汗を流すのにありがたいスポット。地下1000mから湧き出る「天然温泉 露天岩風呂」や、木の香りが清々しい「檜風呂」、サウナも楽しめる。お食事処やマッサージもあるので、疲れた体を癒して帰ろう。城山まで歩くと下山が高尾山駅になるのでご注意を。
042-663-4126
https://www.takaosan-onsen.jp/

高尾山 蕎麦座 高橋家
古くから信仰の山として多くの参拝者を集めてきた高尾山では、山に登る人々に精をつけてもらおうと「とろろ蕎麦」を出したところ、名物に。現在でもたくさんの蕎麦屋が軒を連ねている。高橋屋は創業天保年間という老舗中の老舗。高尾山の水でさらした蕎麦は清らかな味で、店の佇まいも趣深い。
東京都八王子市高尾町2209
042-661-0010
http://www.takahasiya.com/

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