1月の山・北八ヶ岳/みどり池|写真家・野川かさねが選ぶ今月の山
季節によって異なる表情を見せる日本の山。その時期だけに出会える風景や体験を求めて、写真家の野川かさねさんに毎月おすすめの山と、その歩き方を教えてもらいます。
取材・文/小林百合子 撮影/野川かさね
今月の山 北八ヶ岳/みどり池
標高/2,095m
おすすめコース 1泊2日
1日目/稲子湯(30分)みどり池入口(40分)屏風橋(1時間10分)みどり池
歩行時間計:2時間20分
2日目/みどり池(55分)屏風橋(25分)みどり池入口(20分)稲子湯
歩行時間計:1時間40分
山初めはホームマウンテンで。
新しい一年が始まる1月。私は毎年、その年最初の登山には北八ヶ岳を選びます。八ヶ岳は南北に長くのびる連峰で、たくさんの魅力的な山があります。八ヶ岳は南部と北部では大きく様子が違っていて、南部は主峰の赤岳をはじめとして、ゴツゴツとした岩が多いダイナミックな山々が連なります。一方の北八ヶ岳は針葉樹のしっとりとした森が広がり、その中に愛らしい池が点在するおおらかな山が多いエリアです。
登山を始めたばかりの頃に北八ヶ岳を訪れて、その森の美しさに心奪われました。それ以来、何度歩いたかわかりません。それくらい好きな山域で、特に天狗岳の麓にあるみどり池と、そのほとりにたつしらびそ小屋は、年に何度も足を運ぶ場所。国内外、たくさんの山に登っても、やっぱりここが落ち着くな、一生通い続けたいなと思える、私にとっての“ホームマウンテン”です。
山を登る人の間では、新年最初の登山のことを“山初め”なんて言いますが、私の山初めは毎年決まってみどり池で、三が日に訪れることもあります。冬の八ヶ岳は雪深く、冬季休業する山小屋もありますが、しらびそ小屋は冬の間も営業。登山口から小屋のあるみどり池まではアップダウンが少なく、冬山の初心者でも歩きやすいので、のんびりとしたスノーハイクが楽しめます。
しらびそ小屋のお正月は昔ながらのスタイルで、お客さんたちみんなでお餅つきをしたり、ちょっとしたおせち料理が出たり、お昼からお酒をいただいたり。東京では感じづらくなった「新年をみんなでお迎えする」という賑やかで温かく、少し背筋が伸びるような感じがあって、私はとても好きなのです。行きは2時間半、帰りは1時間半くらいと十分日帰りできるコースですが、そんな新年の雰囲気を味わいたくて、いつも1泊でゆっくりとした時間を過ごします。
冬でも緑がある針葉樹の森は、雪が積もると緑と白、そして空の青のコントラストが美しくて、足元に目をやると、あちこちにウサギやカモシカ、テンなどの可愛らしい足跡が見つかります。みどり池が全面凍結している時には池の上を歩いたり、普段歩けない場所を探検できるのも楽しい。そして翌朝、みどり池の向こうにそびえる天狗岳が真っ赤に朝焼ける風景は、何度見ても美しく、感激します。
さあ、新しい1年が始まるぞ。今年はどんな山へ行こうかな。身も心の落ち着くホームマウンテンで過ごす新年は、そんなワクワクする気持ちも与えてくれる時間です。
冬山初心者にうってつけの優しい山。
アップダウンが少なく、危険箇所がほとんどないみどり池までは、冬山経験が少ない人でも安心して歩けるルート。コースのほとんどは針葉樹の森で、晴れた日には木漏れ日が美しく、のんびりと雪上ハイキングを楽しめる。
みどり池のほとりにあるしらびそ小屋は家族経営のアットホームな山小屋で、薪ストーブを囲みながら主人や客らと会話するのも楽しい時間。みどり池の周りを散策したり、健脚派は小屋から片道1時間ほどの場所にある本沢温泉まで足をのばして、天然の温泉に浸かりに行くのもいい。天狗岳までは距離が長く、危険箇所もあるので初心者は避けること。
とはいえ雪はあるので、積雪状況によってはスノーシューや輪かんじき、軽アイゼン、体のバランスを保つストックなどが必要。道迷いが発生する箇所もほとんどないが、先行する登山者の足跡(トレース)が雪で消えている場合があるので、木々に結ばれた赤布を目印に歩くこと。天気が悪い日にはよりルートが不鮮明になるので、冬山初心者は経験者同伴か、悪天時には山行を控えること。
登山口となる稲子湯まではJR小海線の小海駅からアクセスするが、冬季はバス便がないので、タクシーを利用する。マイカー利用の場合はみどり池入口まで車で入り、無料の駐車場を利用するといい。
日帰りでも楽しめるルートだが、冬季は日没が早いので、15時半までには下山できるよう、余裕をもった計画を。
おすすめスポット情報
稲子湯
登山口にある温泉宿。開湯100年を超えるレトロな温泉で、二酸化酸素硫黄冷鉱泉という珍しい泉質。硫黄と鉄分が豊富な湯は疲労回復にはてきめん。日帰り入浴ができるので、下山後の冷えた体を温めて帰りたい。
0428-88-0616
https://www.koumi-kankou.jp/stay/yatsugatake/355/
MASAICHI 本店
「丸政」は大正7年創業の駅弁の老舗。JR小海線への乗り換え駅であるJR小淵沢駅構内には、その「丸政」の駅弁が一堂に会するお店があって、迷いながら選ぶのが楽しい。おすすめは新鮮な生野菜が入った「高原野菜とカツの弁当」、安西水丸のイラストによる包装紙がかわいい「元気甲斐」。
山梨県北杜市小淵沢町1024(JR小淵沢駅構内)
0551-36-4045
https://www.marumasasyoukai.com/masaichi
ビストロ バカブー
JR小淵沢駅から徒歩1分の場所にあるビストロ。「EAT LOCAL」を掲げ、地元産の野菜や甲州ビーフ、信玄鶏、甲州ワインなどを味わえる。本格派のフレンチでありつつも、肩肘はらないビストロスタイルなので、下山後でも気兼ねなく立ち寄れる。ランチ営業もあり。
山梨県北杜市小淵沢町1028-1
0551-45-6843
https://www.bistrobugaboo.com/