測り続けるだけでも効果あり。意外と知らない高血圧のこと。
健康診断で測るときは意識するけど、実はよくわかっていない血圧のこと。高血圧の原因から予防策まで、血圧の「基本」をおさらいしよう。
取材・文/井上健二 イラストレーション/タイマタカシ 取材協力・監修/渡辺尚彦(日本歯科大学生命歯学部客員教授)
初出『Tarzan』No.898・2025年3月6日発売

教えてくれた人
渡辺尚彦(わたなべ・よしひこ)/高血圧専門医、日本歯科大学客員教授。聖マリアンナ医科大学医学部卒業。東京女子医科大学教授、早稲田大学客員教授などを経て現職。1987年から自らの血圧を30分おきに測り続けて研究に活かす。医学博士。
目次
高血圧の90%は原因不明である。
高血圧の90%は、血圧を上げる基礎疾患がなく、原因は不明。これを「本態性高血圧」という。原因不明と言いつつ、本態性高血圧には食塩感受性高血圧と食塩非感受性高血圧がある。
前者は血圧上昇に塩分が深く関わっているタイプ、後者は血圧上昇への塩分の関与が限られているタイプだ。どちらに転ぶかは、遺伝要因に左右される。
日本人の約40%は食塩感受性高血圧。塩分(塩化ナトリウム)のうち、血圧を上げるのはナトリウム。過剰なナトリウムは腎臓から排泄されるが、食塩感受性タイプはその排泄を担う遺伝子の働きが抑えられるため、血圧が上がる。
一方の食塩非感受性高血圧では、腎臓で作られて血管を収縮させるアンジオテンシンⅡというホルモンにより、血圧が上がりやすいと考えられる。
【結論】原因不明には食塩感受性タイプと食塩非感受性タイプがある。
そもそも血圧とは?
血圧とは、血管内を流れる血液が血管壁に及ぼす圧力。血管には、心臓から血液を運ぶ動脈、そこから枝分かれして細胞に酸素や栄養素を運ぶ毛細血管、細胞から二酸化炭素や老廃物を集めて心臓へ戻す静脈という3大ルートがある。このうち血圧は動脈にかかる圧力。内臓にも脳にも深く影響する。
血圧の単位は「mmHg」。Hgは水銀を示す元素記号で、血圧測定を当初水銀で行ったことに由来する。ちなみに血圧130mmHgとは「水銀を130mm(13cm)押し上げる圧力で血管を押す」という意味。水だと177cm押し上げる圧力に相当。水銀の比重は水の約13.6倍だ。
なぜ塩分摂取で血圧は上がるの?
塩分が血圧を上げる理由は2つ。
第1に、塩分を摂りすぎたり、ナトリウムの排泄が滞ったりすると、血中のナトリウム濃度が濃くなる。カラダにはナトリウム濃度を一定範囲内に保つ仕組みがあるため、血管内には多くの水分が引き込まれて、濃度を薄めようとする。こうして血液が増えると、血管へのプレッシャーは上がる。
もう一つの理由は、塩分を摂りすぎると、血管が広がりにくくなるため。血管内側の内皮細胞には、血管をしなやかに伸縮させる働きがある。塩分を摂りすぎるとこの機能がダウン。血管からしなやかさが失われて硬くなり、対抗して血圧も上がるというわけ。
体内時計を踏まえた新トレンドが登場している。
何を食べるかは大切だが、いつ食べるかも重要。タイミングによって栄養価やダイエット効果に差が出るからだ。これが最近流行の「時間栄養学」の考え方。背景にあるのは、心身のコンディションを分刻みで決めている脳の「体内時計」の存在である。
体内時計は起床時刻や食事の影響を受ける。血圧も同様に体内時計のコントロール下にあり、日中ダイナミックに変化する。
「加えて血圧を下げる効果がある食べ物や飲み物、降圧作用のある薬なども、いつ摂るかで効き目に個人差があります」(高血圧専門医の渡辺尚彦先生)。
血圧を下げる方法を具体的に紹介していくが(関連記事:仰向けで寝るのはSTOP! 血圧を下げる新習慣10選。)、可能なら血圧をモニタリングして「いつ・どのように」実行すればもっとも血圧が下がるかを探るのがベストなのだ。
【結論】降圧習慣もそれを実行する時間帯によって効果に差が出る。
血圧は一日のうちでも大きく変化する。
血圧が正常な人に血圧計をつけてもらい、普通に生活してもらって血圧変化を調べた研究。血圧は一定ではなく、時刻に応じて大きく変化する傾向が見受けられた。
出典/Millar-Craig MW et al. Lancet 311: 795-797, 1978
減塩は血圧を下げる以外に3つの予防効果がある。
塩分の感受性にかかわらず、血圧を下げるには減塩が不可欠。日本人は1日10gほどの塩分を摂っているが、1日6g未満にするのが目標。1gの減塩で血圧は1mmHg下がる。さらに減塩は高血圧以外にも、日本人の心身を蝕む3大リスクの軽減にも役立つ。
「減塩は胃がん、認知症、骨粗鬆症の予防にも有益なのです」
胃内部の塩分濃度が高まると、胃壁を守る胃粘膜がダメージを受けて炎症が起こり、発がん物質の攻撃を受けやすくなって胃がんの引き金に。認知症は、高血圧が誘発する脳出血や脳梗塞の後遺症として生じることがあるし、塩分の過剰摂取そのものが認知機能を低下させるという報告もある。
そしてナトリウムの摂取量が増えるとカルシウムの排泄量が増えて、カルシウム不足で骨密度が低下。骨粗鬆症が起こりやすい。
【結論】減塩は血圧だけのためならず。他にも御利益は大きい。
塩分摂取量と胃がんリスク。
日本人男女約4万人を10年追跡調査した結果。男性では塩分摂取量が増えるほど胃がんリスクが高まる。女性は男性より胃がんが少ないなどの理由により、意味のある相関関係は見受けられなかった。
出典/British Journal of Cancer 2004年90巻128-134ページ
危ない「早朝高血圧」と「夜間高血圧」。早期発見を。
手首で測る腕時計型のウェアラブル血圧計も登場しているが、正確に測るなら上腕式血圧計一択。
「上腕式だと心臓の高さで測れるので、正しい値が出やすい。手首だと橈骨と尺骨という2本の骨が邪魔になりますし、心臓の高さに持っていくのが難しく、上腕式と比べると正しい測定値が得られにくいという弱点があります」
上腕式には、カフと呼ばれる腕帯を巻き付けて測るものと、腕を通すだけで全自動で測れる設置型がある。どちらも1万円前後で買えるから、働き盛り世代は一家に一台常備しておきたい。
高血圧が招く心筋梗塞や脳卒中の危険因子なのが、本来なら血圧が下がる朝方に血圧が高い「早朝高血圧」と夜間に血圧が下がらない「夜間高血圧」。その早期発見のため、起床後と就寝前の2回測ることが推奨されている。
【結論】健康寿命を延ばすなら、朝晩2回の血圧測定をルーティンに。
正しい血圧チェックのやり方
- 朝は起床後1時間以内、夜は就寝前に測る。
- 静かで適当な室温の環境(冬場は寒くない部屋)で。
- 背もたれのある椅子に坐って脚を組まず1〜2分安静にする。
- 上腕式血圧計を左腕に巻き、姿勢を正して心臓の高さで測る。
- 朝の計測は排尿後、服薬・朝食前。
- 朝も夜も2回ずつ測定して平均値を記録する。
測り続けるだけで血圧は下がる。
体重や食事や活動を記録しながら痩せるレコーディングダイエットという手法がある。忙しいと間食が増えるなど、記録で減量を妨げる習慣を明らかにして、その改善で痩せるのが狙いだ。
減量すると血圧も下がるが、レコーディングは降圧にも有効。
「日々血圧を測って記録すると、何が自分の血圧を上げやすく、下げやすいかの傾向がわかる。自分なりの降圧習慣を作れば、効率的に血圧が下げられるのです」
そう語る渡辺先生自身、40年近く血圧計を持ち歩いて約30分おきに測定を続け、血圧を下げるヒントを日夜探し続けている。
「緊張しやすい人は、血圧を測ろうと身構えるだけで血圧は上がりやすい。レコーディングのために毎日測ると、血圧測定に慣れて過度に緊張しなくなり、本来の血圧がわかりやすくなります」
【結論】血圧を毎日測るレコーディングで自分の降圧ヒントが得られる。
高血圧の薬は一度飲んでも、必ずしも飲み続けなくてもいい。
高血圧治療の柱は薬物療法。降圧剤は一度飲んだら一生飲み続けるものというイメージも強いが、それは必ずしも正しくない。
「私の患者さんには、降圧剤を飲み始めて1年半で薬がやめられた方もいます。減塩や減量、ウォーキングといった生活習慣の見直しを並行して続けていれば、薬の量を徐々に減らしたり、完全にやめたりすることは可能なのです」
忘れちゃいけないのは、薬に頼り切り、減塩の試みを一切放棄してラーメンを汁まで飲み干したり、減量をサボったりしないこと。
何もしないで血圧が勝手に下がることは絶対にあり得ない。血圧を下げる努力を薬に丸投げして“外注”していたら、薬がやめられないのは当たり前。高血圧の危険水域からいち早く離脱するには、投薬と生活習慣改善の二刀流で臨むのが正解なのである。
【結論】降圧剤+生活習慣リセットの二刀流で減薬・卒業を目指せ。
高血圧を放置すると起きること。
大動脈解離・大動脈瘤破裂・ヒートショック。
大動脈とは胸部や腹部を通る太い血管。この大動脈に亀裂が走り裂けるのが大動脈解離、生じたコブのような膨らみが破裂するのが大動脈瘤破裂。ともに致死率が高い恐ろしい病気だが、動脈硬化に加えて高血圧がトリガーとなることが少なくない。
近年話題に上る機会が増えたヒートショックは、血圧の急変動による健康被害の総称。居間、脱衣場、浴室、トイレなどの温度変化で自律神経が乱れて血圧が乱高下し、心筋梗塞や脳卒中などが起こる。年1万7000人が入浴中に急死するが、多くにヒートショックが関わる。冬場は暖房を上手に使い、居間や浴室、トイレの温度差を極力減らそう。
慢性腎臓病(CKD)・認知症。
腎臓の働きが慢性的に悪くなる慢性腎臓病(CKD)は、成人の5人に1人が罹るとされる新しい国民病。腎臓の働きが落ちると血圧が上がり、血圧が上がると腎臓がダメージを受けて腎機能が落ちる悪循環に。減塩で腎臓の負担を減らし、血圧を下げよう。
高血圧だと脳出血や脳梗塞に陥りやすく、後遺症で脳血管性認知症になるケースも。「降圧剤を使うと、認知症になりやすいという主張もありますが、実態は真逆。高血圧を治療しない方が認知症リスクは上がるのです」。認知症の70%前後を占めるアルツハイマー型認知症でも、中枢神経作用型の降圧剤でその発症率は下げられる。
福岡県久山町を舞台とした研究成果。男女688人を調べた結果、血圧が高くなるほど脳血管性認知症の相対危険度が上がっている。
出典/Ninomiya T, Hypertension, 58: 22-28、2011