
スキーが連れてってくれる町。Vol.7 旭川、東川町(北海道)
40年以上もスキーを愛する〈LICHT〉の須摩光央さんにとって、北海道は自然と触れ合う原体験となった場所。連載「スキーが連れてってくれる町」第7回は、道央に位置する旭川と、そこから30分の距離にある東川町。ローカルスキー場を滑りながら、スキーの価値に思いを馳せる旅。
撮影/須摩光央(LICHT) 取材・文/村岡俊也

北海道の住宅や倉庫、サイロの外壁は、他の土地にはない独特の色使いをしている。夏に見ても、真っ白な雪の積もった冬に見ても違和感がない。四季と同調する色。誰が思いついたのだろう。
北海道の風景を初めて意識したのは、小学校高学年で観たテレビドラマ『北の国から』だった。強い影響を受けて、6年生の夏休みに親に頼み込み、一人で富良野の農場でファームステイを経験した。野菜を収穫し、ジャムを作って近くのホテルへ納品に行く。トラクターの運転もさせてもらった。
農場のバラック小屋にはトイレがなく、夜中に離れまで歩いていくのが本当に怖かった。振り返れば、あの2週間の滞在が自然を好きになるきっかけであり、ログハウスや木製の家具に惹かれた最初の出会いだったと思う。あれから40年近く経った今でも、富良野や東川町へと訪れる度に、心が揺さぶられる。僕は小学生の頃から続く同じ線の上に立っている。

ローカルな〈かもい岳スキー場〉では、小学生のスキー教室や自衛隊の冬山トレーニングが行われていた。隊員たちの足元は革靴で、かなりのクラシック・スタイル。もっと機能的で強度もあって、防寒性に優れた靴があるのに、どうして戦前のような靴を履いているのだろう。その理由を一度、聞いたみたい。


旭川は内陸に位置し、湿度が少ないおかげで良質な粉雪が降るけれど、とても寒い。冷えた体に豚汁と大きな握り飯のランチ。さすが米どころと唸る美味さ。
小さなローカルスキー場である〈かもい岳国際スキー場〉へ向かう。標高は462mしかないが、十分な雪がある。例年通り静かに遊べると思っていたが、インバウンドのスノーボーダーたちが騒ぎながら滑り降りてきた。北海道は隅々までリサーチされているらしい。僕が求める侘び寂びのある風景は、いつか失われてしまうのだろうか。危機感を覚えつつ、それでも子どもたちのスキー教室を眺めて、心が和む。あの子たちのうちの一人でも、ずっとスキーを続けてくれたら嬉しい。内陸に位置し、湿度が少ないおかげで良質な粉雪が降るが、一方でとても寒い。昼食は体を温めたくて、豚汁と大きなおにぎりを食べた。さすが米どころ。なまら美味しかった。

夜ご飯は、東川から旭川市内に移動して、いつも数軒ハシゴ酒をする。横丁に踏み入れると、『北の国から』の五郎さんを思い出してしまう。

この夜一軒目は、昭和25年創業の〈ぎんねこ〉。若鶏の半身を焼いて味付けをした「新子焼き」をいただく、旭川市民のソウルフードは、ビールとの相性が抜群。口開けから入店して、あっという間に満席になった。

〆は、こちらもいつも行く蕎麦店〈は満長 本店〉へ。蕎麦店ながら、うどん、丼ものもあり、ラーメンも美味しい。遅い時間にラーメンを食べるのは、この旭川へのスキー旅の時だけ。仲間たちはそばをたぐったり、板わさをつまんだりしている。
翌日は、旭川近郊の里山をハイクアップした。雪山を歩いて登ることこそが、山スキーの醍醐味だとさえ思う。自然の美しさと一体化するように、単純作業を繰り返す。息を切らしながらも、澄んだ空気を胸に収め、ゆっくりと吐き出す。時折、自分たちが歩んだ軌跡を確認する。ある種の瞑想状態になって、次の一歩をまた踏み出す。夏の森では絶対に入ることができない薮の上に雪が降り積り、真っ白な風景を生み出している。僕らはその雪面を歩き、最短距離で稜線を目指す。登り4時間、下り15分。潔いスポーツだ。


ハイクアップ・デイ。本州では何年かぶりの大当たりのシーズンになっているが、旭川は例年に比べて暖かく、極端に雪が少ないという。熊も多いらしい。昨年には釣り人が襲われ亡くなったという話を聞いた。通り過ぎた大木の下の穴倉で、スヤスヤ眠る熊を僕の足音で起こさないよう、そろりそろりと歩を進める。

帰り道、〈キトウシの森きとろん〉へ。設計は、隈研吾。東川町にはサテライト事務所がある。他に建築家はいないのか、と思いつつ、ここのサウナは気に入っている。小高い山の上に立ち東川町の一望できるのも気持ちがいい。
東川町には、頼もしい仲間たちが暮らしている。ショップ「SALT」を営む友人と互いの近況を交換し、今年の雪山について教えてもらって一緒に山を滑った。僕には見えていない薄い地形を探し出して、効率的にターンを刻んで加速していくスノーボーダー。僕は彼の後をフォローしながら滑るのが大好きだ。彼らは小さい頃から毎週末、ローカルスキー場でレースするのが当たり前だったという。息をするように、滑る。僕も「北の国」で育ったら、違う人生を歩んでいたのかもしれない。
東川トリップの最後は、いつも「Less Higashikawa」を営む友人と会うと決めている。誰よりも東川を愛して、案じている男。地元に暮らす人々のために、各地からミュージシャンやシェフを呼んで、さまざまな活動を行なっている。フライト前に集まって、軽い食事と酒を嗜んで、未来について少し話す。僕はスキーのためだけに旅をしているのではない。仲間と会うことも、美味しいものを食べることも、すべて含めてスキー旅なのだと痛感する。店の外に出ると、外気はとても冷えていて、体はキュッと縮こまるけれど、上気した頭には冷たくて気持ちがいい。東川は、いつも温かく僕を迎え、そして送り出してくれる。

友人が営む、アパレルとスノーサーフに特化したショップ〈SALT〉へ。彼とは数年前にオレゴン州ベンドに一緒にトリップに行った。ジェリー・ロペスが主催する大会で、彼は特別賞をもらった。またいつか一緒に行きたい。ここから先にはもう店がなく、40分ほど走れば大雪山系の旭岳が鎮座している。

左/東川にある居酒屋〈りしり〉。何度、足を運んだかわからない。奇跡のように鮮度ある魚が食べられる名店。こんな店が家の近くにあったら、頻繁に通ってしまうだろう。もはや日常に近い感覚で、料理の写真が撮れなかった。右/こちらも、いつもお世話になる〈スープカリー OASIS〉。チキンベースに、トッピングに野菜たっぷりをオーダー。芯から温まる。

友人のアパレル・ショップ〈Less Higasikawa〉へ。フライト前には彼の弟が営む、二階のビストロ〈ON THE TABLE〉に必ず集まって、軽い食事とお酒を嗜む。東川トリップの最後はいつもここと決めている。
Information
旭川、東川町エリア
旭川空港から旭川市街まではレンタカーでおおそ30分。東川町へは、レンタカーでわずか15分ほど。旭川市街から〈かもい岳スキー場〉へは、北海道縦貫自動車道を通っておよそ1時間。周辺には〈キャンモア・スキービレッジ〉〈カムイスキーリンクス〉などのスキー場も。