
生姜焼きをつつきながら、笹谷崇人さんと「家ごはんの選べなさ」を考える。|麻生要一郎のテーブル・トーク
料理家・麻生要一郎さんは、人を招いてテーブルを囲むのが大好き。気心知れた友人から、会ってみたかったあの人まで。「テーブル・トーク」ではさまざまなゲストを招いて手料理を楽しむ時間を音声と写真でドキュメントします。第3回のゲストは、麻生さんの新居のリノベーションを担当したインテリアデザイナーの笹谷崇人さん。
取材・文/平岩壮悟 撮影/表萌々花
ここは料理家・麻生要一郎さんの自宅。悩める若者から酸いも甘いも知るアーティストの先輩、旧知の仲から初めましての人まで、夜な夜な一癖も二癖もある人たちが円卓を囲み、麻生さんの手料理をほおばりながら日々のあれこれを語り合います。
この日、麻生さんが自宅に招いたのは、インテリアデザイナーの笹谷崇人さん。テーブルトークの舞台となる麻生さんの新居の設計・内装を手がけた笹谷さんは、週7で麻生さんのご飯を食べることもあるそうで――。

テーブルゲスト
笹谷崇人(ささや・たかと)
インテリアデザイナー。1986年生まれ、北海道出身。設計事務所を数社勤務ののち2019年独立。現在は東京を拠点に、店舗や住宅、家具や什器の設計から施工まで空間に関わる業務全般を手がける。https://www.instagram.com/sasayatakato/
笹谷さんから麻生さんへ。料理のリクエスト
要一郎さんへ
約1年ほど前からマンションの1部屋を事務所として使わせてもらうようになってからは数多くの料理を食べさせてもらいました。現場仕事で疲れている時にはお酢の効いた料理。風邪気味の時には漢方の効いた料理など様々ありましたが、今回は何でもない日の「豚の生姜焼き」をリクエストします。
派手さはないけれど、出てくるとちょっと嬉しく、毎日でも食べられるようなところが好きで、要一郎さんには珍しく少し濃い味付け。ご飯がとても進みます。
いつの日かマンションに空室がでた際には生姜焼き専門店の出店を密かに願っております。その時はまた僕が内装をやりますね!
笹谷崇人
麻生さんが追い求める「トンカツ屋の生姜焼き」から、ふたりが急接近するきっかけとなった“謎の空き部屋”、他人に余計なことを言わない美学まで。豚ばら肉の生姜焼きを食べながら交わされたふたりの「テーブル・トーク」の模様はこちらから。

早めに到着し、ご飯の盛り付けと配膳を手伝う笹谷さん。箸や食器の収納場所も熟知。ゲストというより、もはや家族のよう。

この日のメインは豚の生姜焼き。ロースではなくバラ肉を使い、油で焦げ目がつくほどしっかり焼くのが麻生流。

左/新玉ねぎのサラダは前菜として。右/照り輝く、新じゃがの煮ころがし。

大皿に盛られた生姜焼きと千切りキャベツ。

遅めのブランチ。大きな窓から陽光が差し込むリビングにて。

「味噌汁がもう実家の味なんですよ」と笹谷さん。麻生家の味噌汁には、笹谷さんの地元・北海道の〈トモエ 田舎みそ〉を使うのが定番化している。

麻生さんの理想の生姜焼きは、小さい頃に父親についてよく食べていたトンカツ屋の生姜焼きにあるのだそう。バラ肉を使うのも、そのトンカツ屋へのオマージュだ。

「ささやんは食洗機の使い方がうまい」と麻生さん。この日も食事後に率先して下洗いをし、お皿を食洗機に並べていたのは笹谷さんだった。
笹谷崇人さんへ
ささやん“テーブルトーク”への出演、ありがとう。また一つ、良い思い出が増えました。
この後書きを、モロッコから帰る飛行機の中で書いています。
仲間からこの旅の誘いを受けた時、スケージュールを見れば、そこだけぽっかり空いていたというのに、躊躇する僕へ「行かない理由は何ですか?」と、行けよと言わんばかりの言葉が、強く背中を押してくれたお陰で旅に出られました。
旅の餞別にと、渡してくれたダウンジャケットは、マラケシュからアズルーへガタガタの道を車で6時間近く移動している時、砂埃に塗れるマーケット、スークの薄暗い夜道、飛行機が遅延して乗るはずだった飛行機に乗れずにシャルル・ド・ゴール空港で足止めを食らった時も常に一緒、過酷な旅の大切なお守り。行きも帰りも、ささやんが車で羽田空港まで送迎してくれて、嬉しかったし、何より大きな安心感がありました。
テーブルトークの中で話しもしたけれど、僕はささやんのことを、誰よりも信頼しています。きっと別な場所に0から家を作る機会が来ても「思った通りに作ってね」と言うでしょう。これからも、家族、最高の友人、良き理解者でいてください。
そして、情熱を傾けられるような仕事ができて、楽しく充実した人生が送れるよう、影なる応援者として、ずっと見守っています。
子供の頃は引っ込み思案、家業を継がないといけないというプレッシャーから逃げたくて、「お兄ちゃんが欲しい」と言って親を困らせました。あの時心の中でイメージしていたのは、ささやんのことだったのかも知れない。旅へ行って来いと背中を押してくれたり、バスケやドラムの叩き方を教えてくれたとき、他にもふとした瞬間にそう思います。もちろん僕の方がずっと歳上なのは百も承知、それでも今の僕にとっては、唯一遠慮のない本音が言えて、寄り掛かることができる存在です。これからも、カッコ良いささやんでいてください。
伝えたい思いはたくさんあり過ぎて終わりそうにもないので、続きはまた今夜生姜焼きでも食べながら。
麻生要一郎
本日の一品:豚の生姜焼きのつくりかた
―材料(4人前)―
・豚バラ肉 500g
・玉ねぎ 1個
・小麦粉 適宜
・キャベツ 1/2個
・生姜 大きめ3片
・酒 大さじ6
・醤油 大さじ6
・みりん 大さじ4
・オリーブ油 大さじ4
手順
1.豚バラ肉は食べやすい大きさに切って、バットに広げて小麦粉を軽くまぶしておく。玉ねぎは1センチ幅に切って、軽く茹でる。キャベツはスライサーで切っておく。
2.生姜をおろして、酒と醤油とみりんと合わせておく。
3.フライパンにオリーブ油を入れて、豚バラ肉を焼いて火が通って来たら、玉ねぎを加えて、2を入れて合えたら完成。
4.お皿に千切りキャベツをのせて、一緒に盛り付けて食卓へ。
ポッドキャスト出演
麻生要一郎
笹谷崇人
平岩壮悟(Tarzan Webライター)
井手裕介(Tarzan Webプロデューサー)
ポッドキャストスタッフ
ジングル・BGM:田中堅大
編集:浜本壮大