なぜ自ら育てるのか?工藤阿須加さんに訊く「農業の魅力」
雑誌『ターザン』863号では、第2特集として「農活」を紹介。どうせなら自分で育てた野菜を食べたい。エコ意識や物価高騰の影響もあってか、“農活”に勤しむ人が急増中。農業に本気で向き合う俳優・工藤阿須加さんに、その魅力を伺いました。
取材・文/菅野茂雄 撮影/内田紘倫 スタイリスト/伊藤省吾 ヘア&メイク/髙田裕栄
初出『Tarzan』No.863・2023年8月24日発売
農業にハマったきっかけは工藤家の食卓
夏の太陽が燦々と注ぐ、山梨県北杜市の〈ファーマン 井上農場〉で農作物の生育を確認しているのは、実力派の役者として注目される工藤阿須加さん。
約3年前からこの農場の一角を借り本格的に農業に取り組んでいる彼は、オフの日はもちろん合間を見つけては、たとえ畑作業が1時間しかできなくても、都内から車で約2時間半かけてこの畑に駆けつける。
その情熱の甲斐もあり、今では自ら育てた野菜を販売するほどだ。阿須加さんが、それほどまでに農業にハマるきっかけとなったのは、彼が生まれ育った工藤家の食卓にあった。
ご存じの通り、阿須加さんの父は元プロ野球選手の工藤公康さん。トップアスリートの父がいる工藤家では、何よりも食に強いこだわりがあったという。
「当時から、母は全国の農家を自分で回って、新鮮で栄養価の高い食材を取り寄せていました。僕たちは、それらを食べて育ったので、幼い頃から野菜の本当の美味しさや栄養について知ることができました。
農家の方々と触れ合う機会もあり、自然と第一次産業である農業の大変さや現状についても考えるようになりましたね」
と語る阿須加さん。農業への情熱を持ちながら東京農業大学に進学し、農業経済と基礎を学んだ。しかし、彼が選んだのは、もう一つの夢であった役者の道だった。
「農家になることを諦めたわけではなかったのですが、昔から、映画が好きで自分で何かを表現することに興味がありました。役柄を演じて人に何かを伝えることがしたくて役者の道を選んだんです」
“美味しかった”は“面白かった”と言われる嬉しさと同じ
2012年に俳優デビューした阿須加さんは、順調に俳優の道を歩む。一方で農業への思いも断ち切れなかったという。そこで選んだのが“半農半芸”という生き方。
「コロナ禍の自粛期間に自分と向き合う時間ができたので、改めて農業に取り組んでみようと。農作物を育てる過程での抗えない理不尽さも含め、作業に没頭する瞬間、心が落ち着く瞬間、さまざまなリアルを体験できるのが農業の面白さ。
そして、自分たちが作ったものを食べた人が“美味しかった”と反応してくれる。それは自分が役者として演じた時に“面白かった”と言われる嬉しさと同じです。だから僕は俳優も農業も本気。将来的には、2ヘクタールぐらいの農地で、みんなが楽しめるような場所を作りたいですね」