罹りたくない病気は?飲んでる薬は? 医師23人に聞いた本音アンケート
名医たちは、自身の健康管理についてどんな考えを持ち、実践しているのか。23名にアンケートを敢行。診療科ごとに異なる専門的な答えのみならず、等身大のリアルな姿が垣間見えた。我々一般人とは何が同じで何が違う? 名医の生き方に学ぶ、健康に対する考え方。
取材・文/廣松正浩 編集/堀越和幸
初出『Tarzan』No.842・2022年9月22日発売
目次
- かかりたくない病気|QOLを下げるなどの理由から血管系の病気に票が集中
- 日本人と病気|高齢化が進み、がんはいまや当たり前の病気に
- 検診|医師も一市民。個人で受ける検診はごく普通のもの
- 保険|約6割が加入済み。人気は3大疾患対応タイプ?
- 薬|効果を見極め、プロとしての慎重な姿勢が窺える
- 睡眠|平均は6~8時間が圧倒的。工夫は各自それぞれで
- 朝食|パン食と和食は半々くらい。午前中は断食派も
- 未来の医療|医師たちはAI介入による医療の進歩に期待
- 風邪|風邪への対処は一般人と似たり寄ったり
- 飲酒と喫煙|タバコは吸わないがお酒は飲む、の傾向がくっきりと
- 運動習慣|筋トレ&ランが2大主流。格闘技に汗を流す猛者も
- アンケートにご協力いただいた名医の皆さま
かかりたくない病気|QOLを下げるなどの理由から血管系の病気に票が集中
Q1. 自分がかかりたくないと思う病気を教えてください
血管系のトラブルに見舞われると、命を取り留めても後遺症から医療行為を続けるのが難しくなることも。
開業医なら「収入が途絶えるうえに、出費も増えるので家族に迷惑がかかる」(内科)懸念があるし、家族だけでなく「病院関係者や患者に迷惑がかかる」(整形外科)。
一方、合併症が怖い糖尿病には、内科以外の医師も警戒感を露わに。寝たきりの一因となる骨粗鬆症性の大腿骨近位部骨折を指摘する声(整形外科)も。また「なったら最善の対策を尽くすだけ。どんな病気でも素直に受け入れます」(皮膚科)と前向きな姿勢を促す回答も。
日本人と病気|高齢化が進み、がんはいまや当たり前の病気に
Q2. 今後日本人が注意すべき病気は?
病の皇帝、がんは予想通り1位となったが、リモート勤務の常態化から運動不足が招きがちな各種生活習慣病も票を集めた。
また、長時間のデスクワークによる「腰痛症や肩こり」を挙げた整形外科医は「これらは精神的影響も与えやすく」、慢性化の恐れを指摘。
コロナ対策としての「過剰な殺菌消毒」により「免疫が暴走する自己免疫疾患」の増加を危惧する声(内科)がある一方、「近視が増えていて高齢化しているので緑内障」(眼科)という身近でありつつ、見落としやすい病名も挙がった。高齢患者を多く診る医師は認知症を挙げた。
検診|医師も一市民。個人で受ける検診はごく普通のもの
Q3. 定期的に受けている検診は何ですか?(複数回答)
Q4. 受けなくていいと思う検査を教えてください(複数回答)
検診目的での頻回のCTやX線による医療被曝の恐れには忌避感が強い一方、旧来の検査法への疑問も根強い。
バリウムX線検査より「胃カメラを飲んで直接診査した方が早くて正確」(歯科)だし、「バリウム便による痔の悪化」(消化器科)もマイナス材料とみなされた。
逆に「50歳を過ぎたら定期的な人間ドックは必要」(呼吸器科)というもっともな指摘や、「受けなくていい検査はなし。早めに発見できると治療法も選択肢が広がる。これはがんも、脳血管障害、循環器疾患も同じこと」(呼吸器科)と前向きな声も聞かれた。
保険|約6割が加入済み。人気は3大疾患対応タイプ?
Q5. 医療保険には入っていますか?
今回の調査対象に開業医の先生が多かったため、自営業者としての意識が強く働いたのか、加入済みと即答した用意周到派が半数近くを占めた。
その内容は“とりあえず”の総合保障型や入院保障、万が一の場合に備えて休業補償の付いているタイプも人気だ。「掛け捨て型は病気に弱いので見直しを検討中」(整形外科)という反省の弁もあった。
その一方で入っていないと断言する強気派や、入っているが詳しくは家族任せという大らか派も見受けられたのは、自身の健康管理への自信の表れと見るべきか?
薬|効果を見極め、プロとしての慎重な姿勢が窺える
Q6. 普段、常用している薬はありますか?(複数回答)
1位 ない…10票
2位 クレストール(脂質異常症治療薬)、フェブリク(高尿酸血症治療薬)…各2票
3位 その他(降圧剤、アレルギー性疾患治療薬など)…各1票
Q7. 飲まなくていいと思う薬を教えてください(複数回答)
1位 総合感冒薬(鎮痛解熱剤含む)、抗生剤、ない…各5票
2位 ビタミン剤、ビスフォスフォネート製剤、無回答…各2票
3位 その他(睡眠薬、スタチン系薬剤など)…各1票
やはりというべきか、健康管理はしっかりできているようだ。最大多数は飲んでいる薬がない、イコール持病なしというところか。
が、平均年齢の高さからか生活習慣病治療薬が少々顔を出す。「薄毛、前立腺肥大に対しAGA治療薬」(整形外科)には世代感がひしひし。
また、風邪は「何もしなくても治るので、総合感冒薬は不要なことが多い」(内科)という意見が多く、サプリメント全般には概して否定的。
「スタチン系薬剤は…テストステロンも低下させます」(泌尿器科)など副反応・副作用の可能性があるものには慎重な構えだった。
睡眠|平均は6~8時間が圧倒的。工夫は各自それぞれで
Q8. 毎日の平均睡眠時間はどれぐらいですか?
Q9. 睡眠の工夫について教えてください
1位 特になし…6票
2位 起床時間を一定にする、合う枕を使う…各4票
3位 寝る前に音楽を聴く、昼寝をする…各3票
4位 夜はスマホを見ない…2票
5位 その他…4票
睡眠時間はデータの通りだが、診療時間に縛られる先生が多いため、総じて早寝早起き。なかには夜8時か9時には床に就く人(歯科)も。健康的すぎます!
工夫は十人十色で、「気になることはノートにアウトプット」すれば不安が減りそう。「日没後はブルーライトカット眼鏡をかける」(ともに呼吸器科)、睡眠時無呼吸症候群のためマウスピースを使用(歯科)したり、残暑の中、極力エアコンに頼らない声も複数あった。
枕にこだわる人の中には「高価な枕を使用している」(消化器科)と答えた先生もいた。高価って、一体おいくらの枕でしょう?
朝食|パン食と和食は半々くらい。午前中は断食派も
Q10. 朝ごはんは何を食べますか?
あからさまに朝食抜きを表明する医師は少ないかと思いきや、4人も出現。多忙からではなく「前日の夕食から翌日の昼食まで、水分以外は摂取せずにプチファスティング」(歯科)と明言する人も。
ちゃんと食べる派はタンパク質のおかずを重視し、野菜、果物も添えてバランスを心がけ、ヨーグルトで締めるチョイスが多い。「前日の残り物で済ますことも多々あり」(整形外科)という微笑ましい回答も。
また、朝は通常食ではなく、プロテインやプロテイン入りの野菜スムージーというアスリートのような食事に徹する人も出現していた!
未来の医療|医師たちはAI介入による医療の進歩に期待
Q11. 現在注目している最新医療は何ですか?(複数回答)
1位 再生医療…11票
2位 ロボット支援手術…4票
3位 ない…3票
4位 AI診断・診療…2票
5位 その他(腸内細菌叢検査、遺伝子治療など)…各1票
iPS細胞の衝撃が尾を引き続けているのか、再生医療が2位ロボット支援手術以下を大きく引き離した。「脊髄損傷に対する再生医療」(整形外科)や「歯根膜への応用」(歯科)など、現場では既に具体的治療への期待が高まっている。
ロボット支援手術は既に未来ではなく、「なくてはならない通常のツール」(泌尿器科)とする現場医師が、「CTやMRIなどの画像の読影や病理検査では、もう少しでAIが導入される」と予測する。
また、「尿だけでがんを高い確率で発見できる」線虫による検査、N-NOSEを推す内科医もいた。
風邪|風邪への対処は一般人と似たり寄ったり
Q12. 風邪をひいた時はどう対処していますか?
1位 よく食べてよく眠る(何もしない)…11票
2位 総合感冒薬(鎮痛解熱剤を含む)を服用する…7票
3位 うがい薬でうがいをする…2票
4位 その他(ビタミン剤、葛根湯を服用、放置など)…各1票
飲まなくていい薬で1位の総合感冒薬が、実はよく使われていた。
昔ながらの葛根湯にも愛用者は多く、初期症状にはイソジン(うがい)を推す向きも。とにかく「怪しいと思ったら頻繁にうがいをする」(歯科)。変わった応用例では「ミント入りポピドンヨード剤の噴霧。発熱を促し、免疫力を上昇させる」(泌尿器科)という回答も。
漢方薬に強い医師は「速やかに漢方を中心とした対症療法薬を内服」(内科)するし、「ビタミンCの多量摂取」(歯科)派がいれば、「酒飲んで寝ます(笑)」(泌尿器科)派や「放置」(内科)という豪傑も。
飲酒と喫煙|タバコは吸わないがお酒は飲む、の傾向がくっきりと
Q13. 飲酒&喫煙の習慣はありますか?
データを見る限り、3人に2人はいわゆる“よく飲む”ようだが、1回の量は少なめ。仕事の終わりに区切りをつけたいのか、ライフスタイルとして確立しているようで、「休肝日を週に1~2日は作るようにしてますがあまり守れてません」(整形外科)。
あるいは「ときどき禁酒ではないですが、減らすこともあるけど、結局元通り」(消化器科)と観念する人。「飲んでも1~2杯程度で、昔のように多飲や深酒はしない」(内科)人は昔が気になる!
稀少な愛煙家は「カラダに悪いと思うが、精神的にリラックスするので自己責任で喫煙」(整形外科)と正直な告白を。
運動習慣|筋トレ&ランが2大主流。格闘技に汗を流す猛者も
Q14. 運動習慣を教えてください(複数回答)
1位 筋トレ…8票
2位 ランニング…7票
3位 よく歩くこと、特になし…各4票
4位 ストレッチ、サーフィン…各2票
5位 その他…6票
多かったのが週1~2回程度のジョギングまたは軽い筋トレ、あるいはその両方。
とはいえ、日々外来の対応に追われる医師は「一番痛い質問で、まったくと言っていいほど何もしてません。シックスパッドみたいなのを診療中も着けていて、笑われたことがありました」(歯科)などという失敗談も。
ジム通いに挫折してしまうのは医師とて同様。「コロナ禍になって、ほとんどなし。以前はたまに水泳」(整形外科)というのも残念な話。
一方、「日常的な農作業で足腰が自然に鍛えられる」(内科)と新境地を拓いた人もいた。
アンケートにご協力いただいた名医の皆さま
岡宮裕先生:代官山パークサイドクリニック院長。内科医、スポーツドクター。カラダに負担の少ない、一人一人に最適な治療を実践中。
梶村幸市先生:ユアーズ歯科柏クリニック院長。歯科医、歯学博士、岩手医科大学歯学部臨床教授。患者が納得できる医療の提供を目指す。
梶村たまき先生:日本橋梶村歯科医院院長。歯科医。日本臨床歯周病学会に所属。歯周病の撲滅がライフワークと自負する。
菊池新先生:菊池皮膚科医院理事長。皮膚科医、医学博士。日本皮膚科学会認定専門医・指導医。特にアトピー治療に際立つ技量を発揮。
吉良文孝先生:東長崎駅前内科クリニック院長。サイキンソーCMEO、日本消化器学会専門医。肝臓専門医。内視鏡検査はお手のもの。
久末伸一先生:国際医療福祉大学成田病院泌尿器外科。泌尿器科専門医、医学博士。男性性機能障害と男性更年期障害の外来診療を担当。
宮田 隆先生:歯科医、歯学博士。2016年日本歯周病学会・学会賞受賞、医療功労賞受賞、厚生労働大臣賞受賞。国際貢献多数。
桐村里紗先生:tenrai株式会社代表取締役医師。認定産業医。最新の予防医療から地球規模の課題解決による地域創生までを手がける。
金谷幸一先生:金谷整形外科 せぼね・骨粗しょう症クリニック院長。博士。病院時代は年間約500例の手術をマネージメントしてきた。
工藤孝文先生:みやま市工藤内科院長。糖尿病・肥満症・漢方治療を得意とする。日本糖尿病学会、日本肥満学会など。著書多数。
黒田敏彦先生:ニコタマ大腸・肛門クリニック院長。日本外科学会専門医、日本大腸肛門病学会専門医・指導医。痔治療でもスペシャリスト。
佐々木政幸先生:久我山整形外科ペインクリニック院長。日本整形外科学会認定整形外科専門医。一人一人に合ったセミオーダー治療を提供。
山本健人先生:外科専門医、消化器病専門医、消化器外科専門医など。医学博士。著書『すばらしい人体』(ダイヤモンド社)は16万部突破。
上妻和幸先生:こうづま歯科医院院長。歯科医、スタディグループ〈5-D Japan〉所属。患者の人生設計にまで寄り添った選択肢を提案する。
杉原徳彦先生:仁友クリニック院長。呼吸器内科医。日本内科学会認定医、日本アレルギー学会専門医など。気管支喘息の治療で実績多数。
長谷川晃嗣先生:長谷川歯科診療所院長。歯科医、歯学博士。日本歯科理工学会理事・認定専門医。歯根破折の延命療法でも第一人者。
楠山弘之先生:永弘クリニック院長。日本泌尿器科学会認定泌尿器科専門医、日本癌治療学会会員等。尿失禁、頻尿治療などで知られる。
白濱龍太郎先生:リズム新横浜 睡眠・呼吸メディカルケアクリニック院長。呼吸器内科医、産業医、医学博士。睡眠時無呼吸症候群に手腕。
八木貴史先生:特定医療法人育成社佐々木病院整形外科・横浜鶴見スポーツ&膝関節センター整形外科医長。膝関節・股関節の手術で有名。
磐田振一郎先生:リソークリニック院長。日本再生医療学会認定再生医療認定医、医学博士。再生医療による関節の治療に取り組んでいる。
平松類先生:二本松眼科病院副院長。眼科専門医、医学博士。緑内障・網膜硝子体・白内障・眼科一般を手がけ、安心できる治療を進める。
木野孔司先生:佐藤歯科医院今戸クリニック顎関節症外来。東京医科歯科大学歯学部附属病院元顎関節治療部部長、木野顎関節研究所所長。
鈴木一秀先生:麻生総合病院スポーツ整形外科部長。日本整形外科学会認定専門医・スポーツ医、医学博士。
ご回答いただいた先生方に感謝いたします。誠にありがとうございました!