
死闘。そう呼ぶにふさわしい戦いだった。新型コロナウイルス流行によって、さまざまな大会が延期・中止になった影響を受け、柔道男子66kg級の東京オリンピック代表内定選手は、超異例のワンマッチによって、決定されることになった。
2020年12月、東京・講道館で阿部一二三選手と丸山城志郎選手が争った試合は、互いに一歩も譲らない展開で本戦の4分を終え、延長戦に突入する。

夏に向けて、心技体を最高の状態に作り上げるプランはできている。
この試合までに、阿部選手と丸山選手は7度対戦している。戦績は阿部選手の3勝4敗、7戦のうち延長にもつれ込んだのは6度。何度も激戦を繰り広げてきた。だからこそ、延長はありえるものだと、阿部選手も準備をしていた。
「試合時間が10分を超える可能性はあるだろうなと思っていました。きつくなったところで動ける、しんどいときに一歩前に出られるようにトレーニングをしてきたので、絶対に勝つ、勝てるという気持ちでいられました」

延長に入っても互角の攻防が続く。阿部選手に2つ目の指導が入り、指導の数で両者が並んだのは、延長11分57秒のこと。合計の試合時間は15分を超えている。3つ目の指導で反則負けとなるため、両者追い込まれた状態だ。
「15分を超えたあたりからは時計もほとんど見ていなくて、どれだけ長くなってもいいという気持ちになっていました。きついんですけど、とにかく前に出よう、何分でもやってやろうと」
決着がついたのは延長に入って20分。阿部選手が大内刈で技ありを取り、24分に及んだ戦いに終止符を打った。

サーキットトレーニングで戦うためのスタミナを強化。
試合時間がいくら長くなっても構わない。阿部選手がそう思えたのは、もちろん気持ちの強さもあるだろうが、スタミナ面に不安がなかったからだろう。トーナメント形式で争うのが一般的な柔道。決勝まで勝ち残ればそれだけ試合数は多くなる。ときには1日で6試合戦うこともある。
1回戦からトップギアで戦い、延長も苦にせず、トーナメントを制するために阿部選手が取り入れているのが、高強度のインターバルトレーニング。そうHIITだ。
「週に2回、トレーナーの方に見てもらいながらサーキット形式のトレーニングをやっています。1種目は20秒。次の種目まではジョグで繫いで、だいたい10〜12種目、5〜6分動き続ける感じですね。心拍数が上がっても動ける、きつくても前に出られるのは、サーキットの効果かなと思います」
柔道の動き、もっといえば自分の柔道のスタイルを意識した種目のチョイスになっている。
「種目は毎回違うんですけど、ロープを振ったり、天井から吊られたロープを登ったり。あとはラダーを使ったステップとか、バーベルを上げたりっていうのが多いです。下半身と体幹の強さが必要なのは当然として、僕は背負投とか袖釣込腰のような担ぎ系の技が得意なので、肩まわりを強くすることと、肩甲骨周辺の柔らかさを保つことは意識していますね」

サーキットトレーニングとは別に、ウェイトトレーニングにも励んでいるが、このときに意識しているのはスピードだ。
「技を出すスピードというか、瞬間的に大きなパワーを出すことにこだわっているので、ギリギリ持ち上げられるかどうかの高重量をじわじわと上げることはしません。少し余裕のある重さで、それをいかに速く上げられるかというトレーニングをしています」
世界の頂点に立つために積み上げてきた質を高める。
2021年は勝負の年。夏に世界の頂点に立つことだけを見据えて、入念に準備を進めている。
「心技体を最高の状態に作り上げる。それだけですね。プランはもうできていますし、ケガもなく万全の状態です。これから新しいことを始めたり、特別なことをするというのはなくて、今まで積み上げてきたことの質を可能な限り高めていく。勝つためには、自分の最大限のパフォーマンスを発揮できるコンディションを整えることが大切だと思っています」
この夏、すべてが最高の状態に仕上がった阿部選手の活躍を楽しみに待ちたい。
