
3つのレースの特徴と求められるもの。
UTMB® Mont-Blancには多くのレースがあるが、中でも注目度が高いのがOCC、CCC、UTMBの3レースだ。渡仏前から「開催週は、木曜日から忙しくなる」と聞いていた。その言葉どおり、8月27日(木)に60kmのOCCがスタートし、翌28日には108kmのCCC、そして同日の夕方には、シリーズの頂点ともいえる174kmのUTMBがスタートする。


シャモニー特有のグラベルやルーズストーンが多い、テクニカルな山岳トレイル。
短めのOCCから100KカテゴリーのCCC、そして最長距離のUTMBへ。レースは連続して進み、ときには同時並行で展開される。応援や取材のために山やシャモニー近郊の町へ出向く人もいれば、カフェのテラスを陣取ってランナーを見物する人も。街中の巨大スクリーン前に集まり、選手たちに声援を送る姿も見られた。過ごし方は実に自由で、お祭り気分。シャモニーは大会期間中、熱気に包まれ、交わされる会話もレースの話題で持ちきりに。

UTMBは夕方に始まり、日が落ちてからもレースは続く。

夜が明け、朝日が差し始めた時間帯の神々しい山々。

日中は暑く、朝と夜は寒い。厳しい気温の変化が選手たちを襲う。
大会期間中には約1万人が集まり、3レースに出走するランナーは約6,000人。HOKAグローバル・チームからは9名の選手が出場し、HOKA JapanからはCCCに秋山穂乃果選手と三浦裕一選手、UTMBに宮﨑喜美乃選手が出走した。果たして、3人はどんな走りを見せたのか。
展開が速い、スピード勝負のOCC。
3レースの中では最短のOCC。スイスのオルシエールをスタートし、フランスのシャモニーを目指す。2026年はTête de Balme(2,321m)が最高地点で、60kmのコースに累積獲得標高3,500mの上りが含まれる。つまり、短〜中距離でのスピードレースになるのだが、激しいアップダウンの中でいかにスピードを落とさずに走り切るか。テクニックが必要だ。
さらに、スピード持久力と、序盤から適切な強度で走るレースマネジメントがしっかりできないと上位は狙えない。関門を規定時間内に通過しながら、14時間30分以内にゴールしなければならないハードコアなレースだ。

HOKAのフランス人選手Sylvain Cachard。
序盤、7km地点(Champex-Lac)までは上位10人ほどのトップ集団がハイスピードで競り、HOKAのSylvain Cachard(フランス)、Francesco Puppi(イタリア)も先頭集団にいた。しかし、24km地点(Trient)を通過してからは、地元フランスのFrédéric Tranchandが一気に集団を抜け出し、独走態勢に。Puppiは12位まで後退。34km地点のCol de BalmeでCachardが順位を上げ、3位に浮上。中盤以降、3位を維持していたCachardは、終盤に脚がつりながらも4位でフィニッシュ。Puppiは一度順位を落とした後に追い上げたものの、コースカットによる5分のペナルティを受け、7位となった。
女子のレースは、さらに接戦が繰り広げられた。滑り出しは、Laura Hottenrott(ドイツ)が先行し、7km地点までは1分リード。中盤からNaomi Lang(イギリス)が先頭を走り、Sara Alonso(メキシコ)とLauren Gregory(アメリカ)が追う展開に。残り5kmでGregoryが3位から2位へ浮上すると、最後はLangとの一騎打ちに。残り約1kmでGregoryが逆転し、わずか3秒差で優勝。Alonsoも1分余りの差で3位に入り、トップ3が64秒以内にひしめく接戦となった。HOKAのJudith Wyder(スイス)は6位でフィニッシュした。

スイスのJudith Wyderは6位。ゴール前、最後のダッシュ。
2人の日本人選手が挑んだCCC。
108km、累積標高6,200mを走るCCCでは、長距離を走り続ける持久力だけではなく、登りと下りを効率よく進む山岳走力が求められる。序盤には大きな登りがあり、ここで力を使いすぎないペース配分が重要だ。その後の走りやすい区間ではスピードを維持し、後半に待ち受ける急勾配やテクニカルなセクションに備えて脚を残す必要がある。
男子は序盤からHOKAの Hans Troyer(アメリカ)が積極的に先頭を走り、中盤までレースをリード。約80km地点(Trient)の登りでCristian Minoggio (イタリア)が逆転すると、そのままリードを広げて優勝。 Troyerは終盤まで粘って3位でフィニッシュした。
三浦裕一選手は7年ぶりのシャモニー。トレイルランニングを始めた当初から「すごい大会がある」と聞き、UTMBに憧れていたという。初出場だった2019年のTDSでは、海外レースの経験が少なく、現地での緊張や体調管理に苦しんだ。その後、海外レースを重ねるなかで経験を積み、「ロングレースに関しては、あまり大崩れしない」と自身の強みについて分析していた。後半に一つずつ順位を上げられるようなレースを目標にしていたが、悪天候と途中まで眩暈や転倒に苦しめられる。14時間45分46秒でフィニッシュし、男子101位。最後まで見事に走り切った。

三浦裕一選手。

朝9時にスタートし、23時45分頃にゴールに到着した。
初出場ながら驚きの走りを見せたのは、秋山穂乃果選手だ。「脚の調子がいいし、トップ10に入りたい」と目標を掲げて臨んだCCC。序盤は想定以上にペースが上がり、一時は2位に。Miao Yao(中国)と競り合い、アジア人同士の名勝負として中継でも注目された。「本当は8位くらいから、上位を狙うつもりだった。でも、ここでペースを落とすのも違う。走れるときに走ろう」と、そのまま前へ突き進んだ。後半はジェルが食べられなくなり、エネルギー不足からハンガーノックに陥った。エイドで味噌汁やご飯、スイカ、コーラを口にしながら走り続けた。豪雨のなか順位を落としたが、7位と立派な成績を残した。「抜かれたら悔しい気持ちはあったけど、一緒に走っている同志みたいな感覚もあるんです」と振り返った。

秋山穂乃果選手。

大歓声の中、最後の直線コースを駆け抜ける。
大会のクライマックス、華のUTMB。
174km、累積標高9,700m。フランス、イタリア、スイスの3カ国を跨ぐ、3レースの中で最も長く過酷な山岳レースがUTMBだ。長時間にわたって走り続けるため、経験がものを言う。序盤からペースを上げすぎず、補給や給水を計画的に行うことが重要。夜間の冷え込みや気温の変化、睡眠不足にも対応しながら、最後まで走り切るためのペース配分が攻略の鍵となる。
男子は序盤から混戦となったが、40km手前でBen Dhiman(アメリカ)が先頭に立つと、徐々に後続との差を広げて独走。終盤まで安定した走りを続け、18時間16分29秒で優勝した。2位にはBaptiste Chassagne(フランス)、3位にはCaleb Olson(アメリカ)が入り、最後まで表彰台を争う展開となった。HOKAのプロダクト開発にも携わるエンジニア出身のアスリート、Vincent Bouillard(フランス)は、序盤でトップを走り優勝争いを期待されたが、68km地点でDNFした。

地元フランスで期待されていたからこそ、棄権が悔やまれたVincent Bouillard。
女子はBlandine L’Hirondel(フランス)が中盤からリードを広げて優勝。2位には初出場のRachel Entrekin(アメリカ)、3位にはHOKAのEmily Schmitz
(アメリカ)が入り、終盤まで表彰台争いが続いた。

今年で45歳になってもなお、強さを見せつけたEmily Schmitz選手。

UTMBにおける女性選手トップ3。今大会はアメリカ勢の活躍が目立った。
日本からは、宮﨑喜美乃選手が出場。7月20日頃からシャモニー入りをし、HOKAアスリートキャンプに参加。様々な国のアスリートとともにトレーニングを重ねてきた。ウェイトトレーニングやヒートトレーニングなどに取り組む選手たちから刺激を受けるなか、海外の女性アスリートとの交流が大きな精神的な支えになったそう。

宮﨑喜美乃選手。

最高気温は27度、最低気温は−1度。適宜、着用ウェアの調整を行う。
今年はトレーニング方法も見直し、自己ベストの28時間台から26時間以内を目標に挑んだ。レースでは、序盤から無理に順位を追わず、自分のペースを守りながら進行。長い距離を走るなかで補給やコンディションを調整し、胃腸トラブルもなし。終盤まで大きく崩れることなく走り切った。目標の26時間切りには届かなかったものの、26時間55分14秒で笑顔のフィニッシュ(女子31位)。日本人女子では歴代最速タイムを記録した。今回の結果を受け止めつつ、これからも競技者人生を続けるという。

エイドステーションでの宮﨑選手。補給だけでなく、束の間の休息も大切。

ゴール寸前。自分の走りに集中していたため、意外にも順位は把握していなかったそう。

HOKA Japanのサポートスタッフとゴール地点で談笑。
レースの取材を終えて。
アスリートたちがレースを終える姿を見ていると、思い通りに走れたランナーもいれば、途中で苦しみながらも最後まで走り抜いたランナーの姿もあり、いずれも心を打たれる。ランナーの数だけドラマがあるUTMB® Mont-Blancは、速さを競うだけでなく、自分の限界と向き合い、その先の景色へ進むための舞台でもある。

ゴールのアーチの裏で行われた表彰式。
トップアスリートたちがゴールした後も、夜を越えて一般ランナーが次々とゴールへ帰還してくる。そして、その一人ひとりを町全体が祝福する。制限時間45時間30分という壮大なレースのなかで、約170kmの山道を走り抜いた一人ひとりの挑戦が、シャモニーの街に刻まれていく。
来年はこの山々で、どんなドラマが新たに生まれるのか。UTMB® Mont-Blancには、その続きをまた見届けたいと思わせる、特別な興奮と感動、余韻がある。観戦した者が強く感じるのだから、実際にこのレースを走ったランナーにとっては、なおさら大きなものなのだろう。







