生産者とシェフ、散歩しながらハーブスポットを探してみる。
〈ハーブスタンド〉を主宰する平野優太さんにとってハーブは、 「人にとって有用な植物」を指す。食用に限らないその観点からは、ほとんど全ての植物をハーブとして捉えられるという。アスファルトの脇に生えた雑草も、生け垣に使われた低木も、平野さんにはハーブに見えている。〈ハーブスタンド〉からハーブを仕入れている、東京・九段下のレストラン〈seto〉の脊戸壮介シェフと共に、近所の北の丸公園を歩いた。
自然豊かな山梨・富士吉田を拠点とする平野さんだが、東京の植物こそ面白いと言う。
「都会には人や店が集まるように、いろんな植物も集まっていて、やっぱりカオスなんですね。街路樹としていきなり“面白い子”が植えてあったりする。東京でも街によって表情が違います。その街の産業の歴史や文化が植物にも反映されている。それに同じ植物であったとしても、環境要因で味や香りは変化するので、解像度を上げれば、どこまでも深掘りできるんです」
若かりし頃にどっぷり浸かったスケートボードのスポット探しと同じように、いつも植物を探しながら街を歩いているという。北の丸公園でも、数歩進むたびに足を止める。雑草に見えている蔓性のヤブガラシの芽を摘んで、食べてみるように勧めてくれる。脊戸さんは香りを嗅いでから一口食べ、 「形も面白いし、料理に使えるかもしれない」と、いくつか摘んで、店まで持ち帰っていた。

よく見かける雑草、ヤブガラシ。嚙むと少し辛い。

見つけたハーブを香り、味わう。

散歩したのは武道館の真横。実は都心こそ、ハーブが多いのかもしれない。
「平野さんに説明してもらいながら植物採集するのは、本当に面白いし、発見があります。新しいアイデアをもらえる。でも料理人としては、自分が採集するのではなく、やはりプロに任せたい。僕は肉や魚と同等の存在として、ハーブも食材のひとつとして考えたいんです」

植栽の根元で見つけたカタバミ。日本古来のハーブであり、爽やかな酸味を感じる植物。
生産者と料理人の関係性が道端のハーブを通して垣間見える。さらに北の丸公園を奥へと進むと、落葉低木のクロモジが植えられていた。これも二人には馴染み深い”ハーブ”だという。平野さんが生態を説明してくれる。夏の暑さに弱く、本来都心では栽培が難しいこと。成長のために木が自ら枯らす枝があり、その枝が枯れる前に収穫していること。
二人は、その爽やかな柑橘香を嗅ぎながら、どんな食材に合うのか、富士吉田のクロモジとの違いについて意見交換をしていた。

皇居の北側に隣接する北の丸公園でクロモジを見つける。公園事務所の許可を取り、葉を一枚もらって、香りのチェック。森の中で見るクロモジよりも一回り大きいと平野さん。

今、もっとも注目を集めるハーブのひとつ、クロモジ。 「枝の節の模様が黒い文字のように見えることから名付けられたんですよ」と〈ハーブスタンド〉の平野さんが教えてくれた。
ハーブを特別な存在ではなく、ひとつの食材として扱う。

〈seto〉のエントランス。公園の緑の世界から一転、白くストイックな空間へ。

平野さんが富士吉田の山で剪定したクロモジの枝。品の良い香り、味を出汁に煮出す。

出汁でクロモジを煮出し、プーアル茶を加え、葛でとろみをつけたソース。優しくも、幾重にも旨味が重なった一皿。脊戸さんがハマっている、クロモジとプーアル茶の組み合わせ。
北の丸公園から〈seto〉に戻り、クロモジを使った料理を食べさせてもらった。トウモロコシのポレンタにクロモジのパウダーをかけ、その上に鮑ときのこのソテーを乗せる。最後に、クロモジを加えた出汁を沸かし、プーアル茶を加えて葛でとろみをつけたソースをかけた。脊戸さんは言う。
「プーアル茶のほっくりした感じはクロモジにも共通するけれど、もう少し明るさを感じられるはず。あわせるとすごく合うんです。クロモジは、海のもの、山のものを問わず、合う食材が多いですね。料理に何か足したいなと思った時に、まず頭に浮かぶ食材ですね。店に来ていただいた時には、日常とは違う意識で食べていただくために、一口の滞在時間を長くしたい。クロモジの香りを探す行為が自然と生まれるような料理に仕上げました」

出荷したハーブがどう使われているのか、平野さんにとって大きな喜びの瞬間。
口に運んだ平野さんは、クロモジが特別な存在として浮き上がるのではなく、料理に馴染んで味を構成していることに感動していた。
「脊戸さんは、自身の味覚、嗅覚でその植物の個性をすごく理解して、使っていただいていると思いました。その探求の結果として、こんな形でこのハーブを使えるんだ、と。それはもう小さな革命だと思う。ハーブの可能性を広げてくれている。同時に、僕らは、ハーブを身近で当たり前の存在として捉えてほしいと思って活動しているんですね。流行りのハーブではなく、ひとつの食材として考えている脊戸さんのスタンスは、僕らの目指す地点とも共通している。この料理はそのことを強く感じさせてくれました」
互いを高める同志のような関係を築きながら、ハーブを探求している。
Profile
脊戸壮介(せと・そうすけ)/デンマーク〈Kadeau〉などを経て、2025年秋、九段下に〈seto〉をオープン。ミニマルな空間でイノベーティブなコース料理を提供する。




