アルツハイマー病の予測に人工血管まで。血にまつわる5つの最新ニュース。

病気リスクの予測から、人工赤血球、人工血管の開発現場まで。新たなステージを迎える血液と血管の最前線をレポート!

text: Ryo Ishii illustration: HANA SENDA

『Tarzan』No.932 on sale August 27, 2026.

Tarzan BLOOD NEWS 5

1.最新の血液検査事情。10年後のアルツハイマー病を予測できる?

脳のイラストに菌がいるイメージのイラスト

アルツハイマー病の原因物質は複数あるが、より確度の高いタウを検知可能に。

血液から微細な物質を検出する技術が進み、病気の早期発見が現実的になってきた。

日本でも実用化が近いアルツハイマー病の血液検査について、医療ジャーナリストの市川衛さんは語る。

「アルツハイマー病は異常なタンパク質が脳に蓄積することで発症します。新検査では発症の10〜15年前から溜まるタンパク質“タウ”を高精度で検知。発症時期や進行速度を予測し、介護計画に生かせると期待されています」(医療ジャーナリスト・市川衛さん)

一方、米国では大腸がんの新検査も実用化している。教えてくれたのは、老年医学専門医の山田悠史さんだ。

「がん細胞から血液中に漏れ出た遺伝子の断片を解析するシールド検査により、大腸がんを高精度で発見します。検便や内視鏡と違い採血のみで済むため負担が少ないのが利点。数年内には日本の健診にも導入される見込みです」(老年医学専門医・山田悠史さん)

一回の採血で未来の健康を予測する時代はそう遠くない。

大腸の中に菌がいるイメージのイラスト

身体的負担の少ない大腸がんの血液検査は、臨床を経て高い感度が証明されている。

2.全血液型に対応する人工血液、実用化に期待!

本誌『Tarzan』で初めて人工血液を取り上げたのは約4年前。少子高齢化に伴い、輸血用血液の不足はますます進み、深刻な課題となっている昨今、研究は着実に進歩を遂げている。医療ジャーナリストの市川衛さんは次のように語る。

「人工血液にはいくつか種類がありますが、酸素を運ぶ赤血球や血を固める血小板など、役割ごとに人工化の研究が進んでいます。中でも実用化に一番近い、命の要となる赤血球への期待は大きいですね」

特に注目を集めているのが、奈良県立医科大学の酒井宏水さんが進める研究だ。期限切れの輸血用血液からヘモグロビンを精製、ウイルスなどを除去。それを脂質の膜で包むことで、安全な人工赤血球を製造する技術を開発している。

血液型がないため誰にでも使え、通常の血液が約3週間の保存期間なのに対し、室温で約2年もの長期保存が可能だという。健康な成人を対象に安全性試験も行われており、大きな副作用もなく進んでいるそうだ。

「大規模災害が起きた際、血液型を問わずその場ですぐに輸血できる意味は非常に大きいです。コスト面など解決すべき点はありますが、現場への導入が期待されますね」

人工血液の写真

人工赤血球の写真。左は酸素と未結合の状態。開封すると酸素を運搬する。右は一酸化炭素と結合した状態。抗炎症作用が期待できる。

3.熱中症で血管が危ない! 救うのはハッサク?

ハッサク

オーラプテンはハッサクの果皮に多く含まれるので、果皮エキスを使ったサプリやゼリーがおすすめ。

熱中症対策に水分や塩分の補給だけでは不十分。根本原因は体内に熱がこもり、血管が傷つくことにあるからだ。「血管の内側を覆う血管内皮細胞は熱に対して非常に弱い。ここが損傷すると水分や血液成分が漏出し、脳や臓器の障害に直結します」と、東洋大学健康スポーツ科学部栄養科学科教授の加藤和則さんは警鐘を鳴らす。

そんな熱に弱い血管をダメージから守る救世主として注目されているのが、ハッサクの皮などに多く含まれる天然成分の「オーラプテン」だ。

「定期摂取により脱水症状を抑えてくれるほか、暑さの感じ方や口の乾きも軽減されることが分かりました。すでにサプリやゼリー飲料として製品化済みで、屋外の工事現場や大学の運動部などが熱中症対策として導入しています。内側からの熱中症対策にも目を向けてみてほしいですね」

高温多湿環境下で運動後の脱水状態と暑さ感の変化。

高温多湿環境下で運動後の脱水状態と暑さ感の変化のグラフ

オーラプテンを事前摂取したグループは、脱水の指標や暑さ感が有意に抑えられた。

4.人工血管は実用化目前。3Dプリンターがもたらす医療革命。

人の細胞から血管を作り出すバイオ3Dプリンター。夢物語とされてきた技術の実用化は、実は目前に迫っている。

従来の樹脂製の人工血管と違い、生きた細胞でできた人工血管の実用化を進めるのが〈(株)サイフューズ〉。取締役の三條真弘さんはこう語る。

「細胞でできた血管は、例えば注射後に針穴が塞がるなど、血管と同等の機能を有することが特徴。体内への移植後に血液が通うことで、徐々に体内の血管と同化して置き換わる可能性も有しています」

まずは人工透析用の血管として開発が進められており、臨床試験として実際に患者への移植も開始。2030年の製品承認と市場投入を目指す。

「細胞種やサイズやデザインの制約なしで細胞加工が可能となる、バイオ3Dプリンターの特徴を活かし、移植医療に用いることのできる臓器や組織の開発を進めています」

バイオ3Dプリンターで作られた人工血管

バイオ3Dプリンターで作られた人工血管。その技術を応用し、末梢神経の開発も手掛ける。

5.厚底シューズの意外な効果! ランナーの血液を守るメカニズム。

厚底ランニングシューズのイラスト

新定番となりつつある厚底のランニングシューズが、結果的に赤血球の破壊から選手を守っている。

着地を長時間繰り返し、足裏へ衝撃がかかることによって起こるスポーツ貧血。特にランナーに多いこの症状は、血管が圧迫され、赤血球が壊れる「溶血」が主な原因の一つ。

近年では赤血球を弱らせる特定のタンパク質の解明も着実に進んでいるほか、予防のための定期的な血液検査も導入されつつある。しかし、実は身近なものに対策のヒントが潜んでいた。

〈上野御徒町こころみクリニック〉院長で血液内科を専門とする由井俊輔さんは、近年の厚底シューズの流行が、思いがけずスポーツ貧血を防ぐ可能性があるという。

「底が分厚くてクッション性が高い靴を履くと、足裏への物理的な衝撃が和らぎ、赤血球が壊れにくくなります。ランナーの血液を守るという意味でも、近年の流行はとても良い傾向ですね」

足裏に強い衝撃がかかるイメージのイラスト

ラン以外にも、剣道など足裏に強い衝撃が加わるスポーツは貧血の発症リスクが高い。