全身の血管をすべて繫げた総距離は? 血と血管の基礎知識。

そもそものはなし、血や血管はカラダの中でどういった仕事をしているのか。こんなにも身近で、生きていくために必要不可欠なのに、実はよく知らないめくるめく血の世界を解説。

text: Kano Ishitobi illustration: 100%Orange, Miki Hanyu

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犬と人間:心臓から血液が身体をめぐっている様子
教えてくれた人

脇田久(わきた・ひさし)/千葉大学医学部卒業。三十余年血液内科で勤務。2019〜25年、千葉県赤十字血液センター所長。同センター広報誌『ドナー通信』で血液や献血に関する話題を提供。現在は献血会場の健診医として活動。

1分間でペットボトル5本半の血液が巡っている。

掌を太陽に向けると真っ赤な血潮が透けて見え、うっかりケガをしたらビビるくらいに出血する。普段、自覚することはあまりないが、血液は絶え間なく全身を巡っている。でも、どのくらいの量? 元千葉県赤十字血液センター所長・脇田久さんは次のように言う。

「血液の量は体重に相関していて、体重の13分の1ないしは8%程度です。心臓の拍動1回ごとに全身に押し出されるのが60〜100‌mLで、およそ1分間で全血液がカラダを巡ると考えられています」

たとえば体重70㎏の男性なら1分間で約5.6Lの血液が全身を駆け巡るのだ。

血液は動脈→毛細血管→静脈経由で心臓に戻る。

血液はドクンという心臓の拍動で押し出され、まずは最も太い大動脈を流れていく。そこから全身に張り巡らされている細い動脈を経由し、さらにミクロの毛細血管に至る。

ちなみに、胸部の大動脈の直径が25〜30mmなのに対し毛細血管のそれは5〜10‌µm。髪の毛の20分の1程度という細さ。

各組織に辿り着いた血液は酸素や栄養素を送り届け、代わりに二酸化炭素や不要なものを回収する(一部の老廃物はリンパ管が回収)。こうした役目を果たす血液は毛細血管から今度は静脈を経由して心臓に戻ってくるという仕組み。

心臓→動脈→毛細血管→静脈→心臓という閉鎖されたループで血液はぐるぐる巡る。一度の拍動で心臓から出ていった血液が戻ってくるまでは約30秒。長いCM1本分と考えると、これはかなり見事なシステム。

心臓から押し出された血液の通り道、血管のイメージ図

心臓から押し出された血液の通り道、血管のイメージ図。行きは太い動脈から細い動脈へ、帰りは細い静脈から太い静脈へ。その間を繫いでいるのが果てしなく分岐した毛細血管。行ってから戻ってくるまで30秒。

全身の血管を繫げると総距離は…?

犬と人間:心臓から血液が身体をめぐっている様子

全身の血管をすべて繫げるとその長さは約10万㎞。地球2周半の距離に匹敵するという。その長さの99%を占めているのが毛細血管で、太い動脈や静脈はわずか1%程度にすぎないという。

地球2周半というと話が大きすぎて都市伝説のようだが、これには一応根拠がある。体重60kgの体格を想定し、1立方ミリメートル当たりに毛細血管が数十本あると仮定する。血管1本当たりの平均の長さと本数を掛け合わせると約10万kmという数値が導き出されるらしい。

驚くべきは地球2周半という長さより、大量の毛細血管が高密度で張り巡らされているということ。

血管には大小の循環ルートがある。

血液は心臓から出て心臓に戻ってくる。これをもう少し詳しく言うと、実はルートが2種類存在する。1.心臓から出て大動脈を経由して全身に向かうルート、2.心臓から出て肺動脈を経由して肺に流れるルート。1を体循環(または大循環)と呼び、2を肺循環(または小循環)と呼ぶ。

「すべての血液のうち84%が体循環で巡っています。さらに体循環のうち約64%の血液が静脈で循環します。というのは、動脈の血液が心臓のポンプ機能によって速いスピードで流れていくのに対し、静脈は末梢動脈や毛細血管の抵抗により血圧が下がりゆっくり流れるからです。最初は急峻な流れで、海に近づくほど穏やかになる日本の河川のようなイメージです」

行きは猛スピード、帰りはゆったり。とはいえ、緩急ありながら30秒で戻ってくるのだからよくできたもの。

血管には大小の循環ルートを表した体内のイラスト

赤い表示が動脈、青い表示が静脈。上段は心臓から頭部、上肢に向かう体循環。中段は心臓から肺に向かう肺循環、下段が腹部や下肢に向かう体循環。体循環で受け取った二酸化炭素は肺循環で酸素と交換される。

血液の成分は血漿+血液細胞。

女の子が鼻血を流して鏡で見ている様子

鼻の穴からたらりと垂れてくる血液は真っ赤っ赤。でもそれを遠心分離機にかけると、上の層は液体、下の層は固形ときれいに2層に分かれる。

「液体の部分は血漿と呼ばれる成分で血液中の約55%、残り45%の固形の部分は赤血球や白血球、血小板などの血液の細胞成分です」

血漿はただの水分ではなく、内部には電解質や糖質、脂質、タンパク質やホルモンが溶け込んでいる。つまり、全身に栄養素を運ぶのは血漿の担当だ。一方、赤血球には赤色色素のヘモグロビンというタンパク質が存在し、このタンパク質の酸素と結びつきやすい性質を利用して酸素が運搬される。

また、後ほど詳しく解説するが白血球は生体防御の働きを担当し、血小板は血管が傷ついたときに出血を止める役割を果たす。このように血液の構成成分は役割を分担して働いてくれている。

血液の成分のイラスト

血漿の成分の90%以上は水分、その他タンパク質や脂質、糖質などが含まれる。血液細胞のほとんどを占めているのが赤血球。その他の構成成分はリンパ球や好中球などさまざまな種類がある白血球、そして血小板。

白血病が進むと血液がピンク色になる?

血液が真っ赤に見えるのは赤血球に含まれる色素成分、ヘモグロビンのせい。血液の細胞成分の中でも赤血球の数が圧倒的に多く、ヘモグロビンの量も多いからだ。

「血液細胞のうち容積の99%を占めているのが赤血球です。血液1µL当たり500万個くらいの赤血球が存在しています。血小板が20〜40万個程度、白血球にいたっては数千個です」

物理的に量が多いから血液が赤く見えるとしたら、その比率が変わったら血液の色も変わる? 答えはイエス。

「白血病で白血球が病的に増えると、血液が白みがかったピンク色に見えることがあります」

血液の3つの役割は「運搬・防御・止血」。

ここで改めて血液がなぜ全身を循環しているか、理由を考察しよう。血液が果たす役割は主に3つ。

すでに何度も述べてきたが、最重要課題は酸素や栄養の運搬と老廃物の回収、つまり運搬業務だ。

「赤血球は肺で酸素を受け取り全身の細胞に届け、そこで二酸化炭素を受け取って肺に運んでガス交換をします。血漿は栄養素を組織に運び、尿素や尿酸などの老廃物を回収します」

次に外界からの病原体などからカラダを守る生体防御。こちらは白血球が担当する。

「白血球にはさまざまな種類があり、ウイルスや細菌などの外敵だけでなく、がんのような自己の異常細胞を駆逐する働きもします」

最後は血小板による止血作用。

「血小板が破綻した血管にくっついて穴を塞ぎ、組織を修復してくれます。たとえ怪我をして出血したとしても、時間が経つと何事もなかったかのように回復するのは血小板のおかげです」

酸素・栄養素の運搬

酸素・栄養素の運搬の様子

赤血球は肺で酸素を受け取り、末梢血管(毛細血管)で細胞に酸素を渡して二酸化炭素を受け取り肺に運ぶ。

生体防御

生体防御の様子

体内に侵入したウイルスや細菌を発見すると好中球などの白血球が血管の外に出て攻撃する。がんに対する攻撃も行う。

止血(血液防御)

止血の様子

血管が傷ついて出血すると血小板が活性化。傷口に集合して血栓を作る。血栓はタンパク質で固められて止血が完了。

運動によって血液の運搬能力は高まる。

大量の血液が時々刻々、全身を巡っていることには驚きだが、血液循環をさらに高める方法がある。ご想像の通り、それは運動。

「激しい運動をして酸素の消費量が非常に増えると、それに合わせて循環する血液量も増えます。多い場合は通常の4倍程度に膨らむこともあります」

運動を続けていけば、一度に循環する血液量だけでなく自前の血液量自体も増える。実際、体重の10%程度の血液量を備えているアスリートは珍しくない。

「心筋も鍛えられ1回の血液拍出量が増えますから安静時の心拍数は少なくなります」

酸素や栄養の運搬力がアップし、しかも省エネ。いいことしかない。

血液は骨で作られて血管に放たれる。

では、そもそもあなたのカラダを巡っている血液細胞はどこで作られているのか?

答えは骨の中。骨の中心部にはスポンジ状の骨髄があり、ここで赤血球、白血球、血小板という血液の細胞が作られる。すべての血液細胞の元は骨髄で作られる造血幹細胞。ここからさまざまな形に分化が起こり、最終的に赤血球、白血球、血小板が完成する。

「骨髄の中には毛細血管が走っています。成熟した赤血球は細胞の核が抜けて網状赤血球となり、類洞と呼ばれる毛細血管の穴を通って血管に入ります。白血球は這うように血管内に移動し、血小板は元となる大きな細胞がちぎれて小さい粒子となり血管に入ります」

十分に成熟して機能する血液細胞だけが骨髄から血管に移動していくイメージ。ちなみに、血漿成分は肝臓や消化管で作られ、それぞれ血管に送り出される。1日に作られる血球成分は数十mL、血漿成分は1000〜1500mL。

骨髄で作られた造血幹細胞が赤血球、白血球、血小板それぞれの前駆細胞に分化した様子

骨髄で作られた造血幹細胞が赤血球、白血球、血小板それぞれの前駆細胞に分化。成熟した血液細胞が骨髄の中に張り巡らされた類洞と呼ばれる太い毛細血管の穴を通って送られる。これとは別に血漿成分は主に肝臓で作られる。

老いた血液は、脾臓で一生を終える。

血液の量は体重の約8%。骨髄で毎日数十mLの血液が作られているとすると、同じくらいの量の血液と入れ替わっていることになる。多くの細胞と同様、古い血液は去り、新たな血液に役目を譲る。

「赤血球の寿命は120日、白血球は種類により異なり、数時間から数年、血小板は10日程度です。古くなった赤血球や血小板は主に脾臓で処理されます。白血球は全身各所の炎症部位で消費されるので、どこで破壊されるかは限定できません」

脾臓は胃の後ろにあり膵臓に接している握り拳大の臓器。網目構造をしていて、柔軟な赤血球は網目を通過できるが、古く硬くなった赤血球は網目で引っかかる。それを白血球の一種、マクロファージが処理するという仕組み。異常な血小板も網目に引っかかり同様に処理される。

こうしてイキのいい血液が今日もあなたのカラダの中を巡り、それぞれの役割を果たしているのだ。

血液の流れのイラスト

脾臓にある脾索と呼ばれる網目構造の組織が古い赤血球を選別。網目をすり抜けた柔軟性の高い赤血球は脾洞と呼ばれる空間から静脈に戻り、網目に引っかかった古い赤血球は白血球の一種、マクロファージに食べられる。

赤血球が増えすぎてドロドロ血液になることも。

いわゆるドロドロ血液というと、脂質や糖質が過剰に含まれ粘度が高くなっている血液のイメージ。確かにそれもあるが、この他に何らかの原因で血小板が増加し、血液が固まりやすくなっている状態も、やはり同様にドロドロ血液。

「また、赤血球が異常に増える病気も血液の粘度を非常に増す原因に。病名を真性多血症といって、血液内科ではそれほど珍しくない病気です。赤血球が多くヘモグロビン値が高くなるので健康診断で引っかかることがあります」

血液検査で年々赤血球が増えている場合は注意が必要。進行すれば循環障害で視力が低下したり脳梗塞のリスクが増す。いずれにしろ血液はドロドロよりサラサラに。

献血で血液の健康度をチェックする手もあり。

注射器で血を抜いているイラスト

日々作り替えられ、全身をすごいスピードで巡り、さまざまな役割を果たしてくれる血液。その働きなしに生命活動は成り立たない。

ところが、いざ輸血が必要というときに使える人工的な代替品は未だ存在しない。人工の血小板や赤血球はあるにはあるがコストが見合わず実装化はまだ先の話。で、現在の頼みの綱は献血。

「血液には寿命があるので長期保存ができないことも献血が必要な理由です。献血をする側のメリットとしては自分の血液をモニターできること。健康維持にも必ず役立つはずです」

社会貢献と同時に血液のスクリーニングにも繫がる。良き事かな。