
教えてくれた人
益崎裕章(ますざき・ひろあき)/琉球大学大学院医学研究科教授。「肥満症」「糖尿病」「代謝学」の国内第一人者として知られる。玄米成分が「やせ脳」を作る仕組みを解明するなど、無理なく健康になれる食スタイルを提唱。
1.ミトコンドリア|ヒトの共生生物を、味方につける方法。
太古の昔、生物の細胞内に取り込まれて共生関係を結んだ「ミトコンドリア」。酸素を介してエネルギーを作り出すこの小器官、ヒトの場合、全部合わせると体重の約1割を占め、これらが健全に働くことで生命活動は担保される。
「ところが、高血糖状態になるとミトコンドリアがエネルギーではなく活性酸素を作り出します。その酸化ストレスによってカラダ中の細胞の老化が促されます」(琉球大学大学院医学研究科教授・益崎裕章さん)
しかも、ミトコンドリアは加齢によって減っていく。まともに機能しないミトコンドリアが増え、まっとうなミトコンドリアが減っていけば老化は進み、ヒトは太る。
「ミトコンドリアを活性化させる方法のひとつに“ホルミシス効果”があります。ややきつい運動をする、少しの空腹時間を設けるなど、カラダにとって少々厳しいことが有効と考えられています」
食事と運動のメリハリが大事。
エネルギー産生工場、ミトコンドリアの構造。

左は断面図で右はミトコンドリアの全体図。内部は外膜と内膜の2重の膜で包まれていて、内膜の内側、マトリックスと呼ばれる領域でエネルギーが作られる。
2.褐色脂肪細胞|熱を生み出す脂肪細胞。
皮下脂肪も内臓脂肪も、溜まる場所は違っても白色脂肪細胞という同じ脂肪細胞。文字通り白色の細胞で、その役割はエネルギーを中性脂肪の形で蓄積すること。
一方、体内には「褐色脂肪細胞」という脂肪も存在する。ミトコンドリアを多く含み、ミトコンドリア由来のタンパク質と張り巡らされた毛細血管によってその色は褐色。白色脂肪細胞とは真逆で脂肪燃焼効果が期待できる。寒冷刺激などが加わるとミトコンドリア内で脂肪を分解し、エネルギーの代わりに熱を生み出す仕組み。
「肩甲骨や腋の下、背骨周辺などヒトの赤ちゃんには褐色脂肪細胞が解剖学的にちゃんと備わっています。お母さんのお腹から自然界に産み出されたとき自力で熱を作るために褐色脂肪細胞が備わっていると考えられています」
ただし、こちらも一般的には加齢によって無残に減る。残念。
脂肪を消費する褐色脂肪細胞の構造。

細胞の中の脂肪滴は白色脂肪細胞の場合、1つの大きな塊だが、褐色脂肪細胞は複数の小さな脂肪滴。ミトコンドリア内のUCP-1という物質の働きで脂肪から熱が作られる。
3.ベージュ脂肪|近年注目される“元・白色脂肪細胞”。
いくら脂肪燃焼効果があっても大人になったら消えてしまうのなら意味ないじゃん。そのように懐疑的に捉えられてきた褐色脂肪細胞だが、近年、白色脂肪細胞が褐色化した「ベージュ細胞」の存在が判明し、注目を浴びている。
白色脂肪細胞(主に皮下脂肪)が細胞内のミトコンドリアの数を増やし、脂肪を分解して熱を作り出すようになるというのだ。
「マウスの実験で、遺伝子操作で白色脂肪細胞をベージュ化させた結果、糖尿病になりにくくなったり痩せやすくなるといったことが報告されています。こうした効果を狙った新薬の研究開発が、今、世界中でなされているようです」
今のところ、白色脂肪細胞がベージュ化する刺激の最右翼は寒冷刺激、寒い環境に身を置くこと。その他、ある種の食材に含まれる栄養素の摂取もベージュ化の一助になる。
4.オートファジー|古い細胞をリサイクルするシステム。
2016年にノーベル賞を受賞した「オートファジー」についての研究。これは細胞の内部の環境を正常に保つために、機能が低下した細胞質成分を分解し、リサイクルするというシステム。
「簡単に言うと、古くなったタンパク質という部品を新しい部品に変えていくシステムです。タンパク質は定常的に劣化するのでオートファジーで入れ替えていく必要があります。ミトコンドリアも同様で“マイトファジー”といって働かなくなったミトコンドリアをオートファジーでスクラップにし、品質管理がなされています」
オートファジーのシステムを稼働させる方法は空腹時間を設けること。とはいえ、一般に流布する16時間断食の科学的根拠はない。誰もができる12時間断食でも有効という説もある。まずはダラダラ食いを避け、お腹が空いたと実感できる時間を設けることから。
オートファジーの主なメカニズム。

細胞内の古いタンパク質周辺に隔離膜ができ、オートファゴソームを形成。リソソームと結合したオートリソソームの内部でタンパク質が分解され、再利用される。
ノーベル財団プレスリリースより
5.低GI食品|糖の吸収スピードがゆっくりな食材。
健康で運動習慣のある人が適正な量の糖質を食べることには何の問題もない。考えたいのは取り込んだ糖をうまく利用できない年齢になったとき、あるいはそんな生活をせざるを得ないときに、どう頭を使って食べるかということだ。
血糖値スパイクやインスリン抵抗性、糖化といったリスクを避けるために、まず取り組みたいのは主食の見直し。ポイントは吸収スピードがゆっくりな食材を選ぶこと。目安はブドウ糖の吸収速度を100としたGI値(グリセミックインディクス)という指標。数値が低い「低GI食品」をできるだけ優先する。
「GI値が低いものを積極的に摂ることは、自分を守るという意味で大事な知恵だと思います」
GI値の分類を覚えて血糖値上昇を防ぐ。

GI値が70以上は高GI食品、56〜69は中GI食品、55以下は低GI食品に分類される。白米より玄米が無難。また、菓子類は主食にあらず。朝食はドーナツという人、ご用心。
6.γ-オリザノール|玄米由来の抗肥満作用の実力。
玄米に含まれるポリフェノールの一種「γ—オリザノール」。多様な肥満改善効果が期待できるとされ、現在注目を浴びている。具体的にはインスリンの分泌を促して糖代謝を改善したり、腸内環境の異常を改善するなどなど。
「さらに、私たちの研究ではγ—オリザノールが動物性脂肪への依存を軽減する効果があることが分かりました。動物性脂肪を食べすぎると、ドーパミンという快感を促す脳内物質の受容体が減って満足感が得られにくくなります。γ—オリザノールはドーパミンの受容体を増やし、脂肪に対する欲求を軽減します」
家系ラーメンや焼き肉が好きすぎて痩せられないという人、主食を玄米に切り替えて自己観察を。
玄米エキス摂取で血糖値の平均値が低下。

軽度肥満者、前肥満者を対象に玄米胚芽抽出エキスを摂取させた実験。4週間10mg以上の摂取で過去1〜2か月の血糖値の平均値、ヘモグロビンA1cが有意に低下した。
Hiroaki Masuzaki et. al. Glycative Stress Research 2020; 7(1): 1-12
7.短鎖脂肪酸|腸自体の働きをサポートする、腸内細菌の代謝産物。
「短鎖脂肪酸」とはカラダに有用な働きをする腸内細菌が作ってくれる代謝産物。腸自体の働きをサポートするほか、血液で運ばれ全身作用を促すことも知られている。
「短鎖脂肪酸には得意不得意があります。一番有名なのは酢酸で、食欲を調節したり脂肪の蓄積防止といった効果が期待できますし、コハク酸には血糖値急上昇の抑制作用があります」
ちなみに、酢酸といってもあくまで腸内で作られる発酵代謝産物。酢の物を食べれば痩せるというわけではないので誤解なきよう。
短鎖脂肪酸の力を借りるには有用な腸内細菌のエサとなる食物繊維を食卓に積極的に取り入れること。狙い目は玄米やもち麦など未精製の主食、根菜類、大豆など。
短鎖脂肪酸は腸内細菌の代謝物。
未精製の主食や野菜、豆類などに含まれる食物繊維はヒトの消化酵素では消化吸収できない。そのまま腸に至り、腸内細菌に分解されて短鎖脂肪酸が作られる。
8.ガレート型カテキン|緑茶に含まれる。内臓脂肪の減少を促す成分。
緑茶に豊富に含まれるポリフェノール、「ガレート型カテキン」の肥満改善効果に関するエビデンスは数多い。代表格は脂肪やコレステロールの吸収を抑制する、内臓脂肪の減少を促すといったもの。
「その他、白色脂肪細胞のベージュ化にも効果が認められるという報告もあります。動物実験と同じ量を人間が毎日摂れるのかという量的比率の問題はありますが、効能は確かなので意識的に摂ることに意味はあると思います」
ペットボトルにしろ、茶葉で淹れるにしろ、ガレート型カテキンはいずれからでも補給できる。食事のお供のファーストチョイスとして活用したい。
カテキンの継続摂取で内臓脂肪の面積が減。

20〜65歳の66人を対象にした実験。ガレート型カテキン配合飲料を3か月摂取したところ、2か月目で内臓脂肪面積が減少し、その状態が1か月後まで維持された。
鈴木裕子ら 日本臨床栄養学会雑誌29, 72-80.(2007)
9.オメガ3脂肪酸|白色脂肪細胞のベージュ化に貢献!
白色脂肪細胞のベージュ化にひと役買うのは緑茶に含まれるカテキンだけではない。同様に効果が期待されているのが青魚などに含まれる「オメガ3脂肪酸」だ。
もともと青魚に含まれる魚油、DHAやEPAといったオメガ3脂肪酸は動脈硬化の予防や中性脂肪値の改善効果で知られていた。さらに10年ほど前に明らかにされたのが、白色脂肪細胞のベージュ化作用。魚油を摂取すると交感神経が活性化され、ベージュ細胞が増えることが分かったのだ。
「魚油の他にも、アマニ油やエゴマ油などオメガ3系の脂肪酸には白色脂肪細胞のベージュ化を促す可能性はあります。コンスタントに摂取を続ければ一定の効果が期待できるかもしれません」
脂肪酸のなかでもオメガ3脂肪酸は特別。

脂肪酸は常温で固体の飽和脂肪酸と液体の不飽和脂肪酸の2種。このうち体内で合成できないのが多価不飽和脂肪酸で、オメガ3系はここに属する健康維持に必須の脂肪酸。


