札幌の街を「線」でつなぐ。新たな視点で名所と絶景を巡るサイクルトリップ。

レンタカーや公共交通でめぐる定番の札幌観光もいいけれど、自分の足でペダルを漕いで巡ると、街の解像度がグッと上がる。観光スポットや名所を訪ねる気軽な街乗りから、原生林を駆け抜けるオフロードまで。都市と自然をシームレスに結ぶ、心地よいサイクルトリップへ出かけよう。

text: Takuryu Yamada photo: GENYA

点ではなく「線」で街を遊ぶ。e-Bikeで巡る札幌サイクルトリップ。

札幌観光の移動手段といえば、レンタカーや地下鉄、市電を使うのが一般的だ。名所から名所へと効率よくまわれる一方で、どうしても点と点の移動になりがちである。しかし、サドルの上にまたがるだけでその自由度が格段に跳ね上がるからおもしろい。

やってきたのは、すすきのからほど近いサイクルショップ〈ノースバイシクル北海道〉。店長の中村力男さんは、札幌における自転車旅の魅力をこう語る。

〈ノースバイシクル北海道〉は、すすきのの中心部にある、スポーツバイク専門のショップ。主にGIANTの自転車をレンタルしてくれる。クロスバイク(4,400円/日)、ロードバイク(5,500円/日)、アシスト付きクロスバイク(8,800円)のレンタルの予約は3日前までに。ヘルメット着用が条件で、貸し出しは無料。

「車や公共交通での移動はどうしても、スタート地点と目的地という『点と点』の観光になりがちです。でも、自転車ならその途中経過の景色や空気も味わえる『線での観光』が楽しめます。最近はインバウンドのお客様も増えていて、自転車旅に慣れている欧米圏の方々は、1週間借りっぱなしで札幌観光を隅々まで満喫されていますよ」

大通公園

札幌の中心地に東西約1.5kmにわたって伸びる大通公園。北側の官庁街、南側の住宅・商業街を分ける火防線としてつくられたのが大通公園のはじまり。遠くに「さっぽろテレビ塔」を望む。

〈さっぽろ雪まつり〉〈さっぽろライラックまつり〉などイベントに事欠かない大通公園。〈さっぽろホワイトイルミネーション〉と〈ミュンヘン・クリスマス市in Sapporo〉は11月20日から12月25日まで。

さっそく〈ノースバイシクル北海道〉を拠点に、大通公園を抜けて北海道神宮へとペダルを漕ぎ出す。札幌の市街地は碁盤の目のように区画されており、一見すると、どこへ行くにもアクセスが良さそうに感じられる。

しかし、実際に動き出してみると想像以上にスケールが広いことに気づく。だからこそ、体力に自信がなくても軽快に進めるe-Bikeが圧倒的に便利なのだ。

その都度、駐車場を探す手間もなければ、バス停や駅まで歩く必要もない。ゆったりと気の向くままに自転車を走らせ、気になった路地裏のカフェやグルメスポットにふらりと立ち寄ればいい。なんとフットワークの軽い旅だろう。

今回の街乗りサイクルトリップに同行してくれたのは、同店に勤める嶋田貴子さん。毎日の通勤はもちろん、休日にも自転車を走らせて札幌近郊を走り回っているという生粋のローカルサイクリストだ。

北海道神宮

北1条宮の沢通りを走ってくると、緩やかなカーブの途中に現れる北海道神宮の第二鳥居。北海道全体を護る重要な神社。

観光スポットには駐輪場がありサイクリストにはフレンドリー。フットワーク軽く移動できるのが自転車旅のいいところ。

心地よい風を切りながら到着した〈北海道神宮〉で、嶋田さんがその歴史を教えてくれた。

「ここは明治2年(1869年)に明治天皇の聖旨により建立されました。この神社は、慣れない土地や気候のなかで移住してきた人々にとって精神的な支えであり、集って語り合う大切な場所だったんです」

参拝を終えたら、境内の〈六花亭 神宮茶屋店〉で名物の焼き餅「判官さま」をいただいて小休止。ちなみに神宮の裏手には〈札幌市円山動物園〉もあり、寄り道スポットには事欠かない。

多くの神社は南向きか東向きに建てられるが、〈北海道神宮〉の社殿は北東に向いている。これには大陸の脅威から北の国境を護るためという理由もあったとされている。

バターサンドで有名な〈六花亭〉が手がける〈判官さま〉は、六花亭神宮茶屋店でしか食べられない焼き立て名物グルメだ。熱々のあんこ入りの焼き餅が1つ150円。嬉しいことにお茶は無料でした。

爽快なヒルクライムの先へ。絶景と歴史を紡ぐペダル旅。

次の目的地は、札幌の街を見下ろす〈旭山記念公園〉だ。〈北海道神宮〉からは少々の登り坂を攻めることになるが、ここがe-Bikeの力の見せどころである。

今回またがっているスポーツe-Bike、GIANT〈ESCAPE RX-E+〉は頼もしい相棒だ。大容量バッテリーの駆動距離は、パワフルなSPORTモードで90km、ECOモードならなんと225kmにもおよぶ。今回の15kmほどの行程では十分すぎる大容量だ。ちなみに札幌から100kmとなると、北は旭川、東は富良野、南なら苫小牧まで足を伸ばせる計算になるから頼もしい。

坂を登り切ったご褒美は、石狩平野や日本海、そして札幌市内を一望できる圧倒的なパノラマビュー。

「ご褒美」と言っても、キツい坂を駆け上がれたのは電動アシストのパワーに頼りっぱなしだ。モーターにアシストしてもらっているというより、むしろ自力がモーターをアシストしているぐらいの感覚だ。

旭山記念公園
旭山公園から札幌市街を見下ろしている人の後ろ姿

札幌の〈旭山記念公園〉は、かつて温泉やスキー場、札幌焼の窯跡があり、現在も多くの札幌市民や観光客でにぎわう。夜景も美しい。この日はトレイルランニングの大会が開催中でエイドステーション(給食所)が設置されていた。

〈旭山記念公園〉の帰り道、旭ヶ丘の住宅街を走っていると、遠くに大きな雌鹿を見かけた。

自転車がアシストしてくれているのか、自分がアシストしているのか、そんなことを考えていると、今度は爽快に駆け上がってきた道を札幌市街地に向けて下っていく。時速30kmにも達するダウンヒルだが、北海道の冷涼な気候と相まって、吹き上げる風がとにかく心地よい。

坂を下りきり、次に向かったのは〈中島公園〉。園内には穏やかな小川が流れ、札幌市内の喧騒から切り離されたような静かな時間が流れている。

豊平館(中島公園内)

白い外壁を鮮やかに縁取る群青色は、明治時代に宝石として珍重されていた「ラピスラズリ(瑠璃)」を原料とする絵の具で彩色された。建物のトップに掲げられた五稜星は北海道開拓使のシンボルマークで、サッポロビールのロゴのルーツでもある。

「園内に建つ水色と白の美しい建物〈豊平館〉は、北海道開拓の礎を築いた開拓使が、直営の洋風ホテルとして1880(明治13)年に建築したものです。現存する木造ホテルとしては日本最古で、明治、大正、昭和と3代にわたり天皇家が訪れた由緒ある建物なんですよ」と嶋田さん。

中島公園をすすきの方面に北上すると、まもなく拠点である〈ノースバイシクル北海道〉へと帰還する。半日で味わえたのは、まだまだ札幌のほんの一部に過ぎない。

石狩平野へと繋がる豊平川のサイクリングロードを快走するもよし、北海道大学の周辺を駆け抜けるもよし。はたまた、モアイ像と頭大仏の珍景を目当てに〈真駒内滝野霊園〉を目指すのもよさそうだ。

個人的に強く推したいのは、札幌北部市場も含めたルート。札幌市西区にあるディープなミュージアム〈レトロスペース 坂会館〉は知る人ぞ知る珍奇スポット。行動範囲が広がれば、様々なチョイスが生まれるのだ。

レトロスペース 坂会館

〈レトロスペース 坂会館〉は北海道民に親しまれる〈坂ビスケット〉の会社が運営。全国にコアなファンを持つ、札幌が誇るディープな私設博物館。

どこから見始めて、どこで見終わればいいのかわからない〈レトロスペース 坂会館〉。館内にはありとあらゆる展示物が所狭しと陳列されている。

ノースバイシクル北海道

⚫︎札幌市中央区南4条西1丁目1-2。平日11:00-20:00、土日10:00-19:00。水曜休。レンタルバイクの返却は閉店の1時間前まで。(今シーズンは10月末日でレンタル終了)https://northbicycle.co.jp/

街から一転、手付かずの森へ。五感をフルに使うオフロード。

札幌の自転車旅は、舗装路を走るシティサイクルだけにとどまらない。広大な公園内に広がる大自然を、泥臭く駆け抜ける「ネイチャーサイクリング」も、街と自然の距離が近い札幌だからこそ叶うアクティビティだ。

札幌市の西部に位置し、江別市と北広島市の3市にまたがる面積約2,053ヘクタールの広大な道立自然公園〈野幌(のっぽろ)森林公園〉。通称「のっぽろの森」と呼ばれるこの大原生林では、マウンテンバイクによる本格的なオフロードライドが楽しめる。

札幌市内のホテル送迎に加え、マウンテンバイクとそのほかの装備のレンタル、近隣の自然公園でのネイチャーガイドなど、ツアー一式を提供しているのが〈Giro21〉だ。代表の松山淳さんは、国内外を問わず多くのネイチャーツアーを生業とし、現在は札幌を拠点に北海道の自然の豊かさを伝えている。

のっぽろの森は「札幌という大都市近郊にありながら豊かな生態系が残る奇跡のような森」と看板を前に説明する松山さん。クマゲラやエゾモモンガ、サンショウウオなどが生息している。

今回、森の旅のお供をしてくれるのは、自身も市内のアウトドアブランド店舗に勤める清光(せいこ)彩花さん。冬はバックカントリースキー、夏はマウンテンバイクのアクティブ派。いつもはフルフェイスヘルメットを被ってダウンヒルを駆け降りているが、今日はのんびりマイナスイオンを浴びに。

木々に覆われたコースは、真夏であっても2〜3度は涼しい。園内には遊歩道が張り巡らされ、テーマごとに分けられた17のコースが整備されている。

ガイドの松山さんを先頭に、後ろからは清光さんに焚き付けられながら、鬱蒼とした土のトレイルへと入り込む。ここでも、最新のe-Bikeの威力は絶大だ。木の根や起伏の激しいダートコースでも、モーターの力強いトルクが車体をグイグイと前に押し出してくれる。

札幌市街地とはうって変わり、時折聞こえる鳥のさえずりや、風に揺れる木々のざわめきが心地よい。鳥の声を聞けば、すかさず松山さんがその声の主を教えてくれ、トレイル沿いで見つけた草花や大木に目を止めれば、その植生や森の生態系をていねいにガイドしてくれる。

季節ごとに見られる植物や動物の名前はもちろん、森の成り立ちなども詳しく教えてくれる。

〈Giro21〉のツアーでは、途中休憩を取りながら、松山さんがのっぽろの森をガイド。札幌の市内観光では味わえない体験だ。

街を駆け抜ける爽快感と、五感を研ぎ澄ませて原生林の土を踏みしめる没入感。その両極端な魅力が、車でわずか数十分の距離に同居しているのが札幌という街だ。

レンタカーの窓越しでは決して気づけない、風の温度や街の匂い。距離もペースも自由自在な自転車旅は、札幌観光の新しい魅力を引き出してくれるはずだ。

giro21

今回の「のっぽろの森マウンテンバイクツアー」は、札幌駅もしくは街の中心部のホテルを9:00に出発し、12:30には戻るツアー内容。大人8,000円、子供6,000円(1週間前までに予約)。冬はワカサギ釣りのツアーもある。HPから申し込みや問い合わせ可能。
https://www.giro21.com/