絶景と温泉、土地の味を楽しむ。心身を癒すリトリートホテル5選。

風景を眺め、湯に浸かり、土地の味を楽しむ。日常から少し離れて、その土地ならではの時間に身をゆだねれば、心とカラダの緊張も自然とゆるんでいく。心身をリセットしたいときに訪れたい、5つの宿を紹介。

text: Rie Nishikawa, Ai Sakamoto, Takahiko Koike

『Tarzan』No.931 on sale August 6, 2026.

柳川藩主立花邸 御花

“大海”に見立てた松の庭園と、町を巡る掘割が与える水の癒やし。

〈柳川藩主立花邸 御花〉福岡・柳川
日本庭園「松濤園」

和館の大広間はホテルのラウンジ空間に。日本庭園「松濤園」を望める。

福岡の柳川といえば、市内を網の目のように巡る掘割(水路)。江戸時代以来人々は「どんこ舟」と呼ばれる手漕ぎ舟を用いて、穏やかな流れとともに暮らしを営んできた。

昨年に全面リニューアルを行った〈柳川藩主立花邸 御花〉もまた、長い歴史をその景色に残している。敷地全体が国指定名勝となっており、日本で唯一の「国指定名勝に泊まれる宿」。

現存する和館、洋館、日本庭園「松濤園」は進取の精神の持ち主だった14代目当主・立花寛治が生んだもので、明治時代からのもの。とはいえ、単に歴史が深いだけではない。

庭園は国内でも珍しく植栽のほぼすべてが黒松で、あとは大海に見立てた広い池に、岩が島嶼のように散るのみ。統一感のある庭景色は静謐で、潔く、むしろ現代の美意識にこそ適っている。

醍醐味は和館の大広間からの景色。夕方以降に置かれる座椅子に背を預け、フリードリンクとともに明治以来の庭の景色に向かううち、古くから人々が求めてきた「癒やし」「禅」の感覚が問答無用で腑に落ちる。宿の目の前から出発する川下り体験も含め、水に育まれた土地のリズムに、心身がほどかれる旅になる。

「どんこ舟」の様子

朝の静かな掘割を「どんこ舟」で巡る宿泊者限定プランも。

うなぎのせいろ蒸し

〈御花〉秘伝のタレを使った柳川名物「うなぎのせいろ蒸し」も絶品。

特別室 黒松の様子

客室一例。こちらは「特別室 黒松」。庭園を上から見渡せる特等室。

「松濤園」全景

「松濤園」全景。左手が和館、奥に宿泊棟。

〈柳川藩主立花邸 御花〉

宿泊者は敷地内に位置する、国宝1点、重要文化財3点を含む5000点にも及ぶ美術工芸品を収蔵する〈立花家史料館〉も無料見学が可能だ。福岡県柳川市新外町1-1。1泊1室1名49,000円〜(2名利用時)。WEBサイト

人も食も、ほどよく蒸される。現代湯治の新しいかたち。

〈冨士屋ホテル〉大分・別府
〈冨士屋ホテル〉大分・別府 大浴場

大浴場。美肌効果のあるメタケイ酸が豊富。アート感満載の「寝湯」もおすすめ。

町のあちこちから湯煙が立ち上る温泉は、日本一の湧出量を誇る別府八湯の中でも最も源泉数が集まるエリア。127年の歴史を持ち、文化・芸術交流拠点でもある旧冨士屋旅館が〈冨士屋ホテル〉としてリニューアルした。

町のシンボルでもある登録有形文化財の建物は、明治時代の旅館建築で、その庭園内に16室の宿泊棟ができたのだ。湯煙の景色を楽しめるスイートや、香りやオーディオにこだわったコンセプトルームなど、どの部屋も個性豊か。

湯治文化が色濃く残る場所だけに、体験を重視した2つの“蒸し”にこだわった。ひとつが「地獄蒸し」。源泉が100度に近いことから、ミネラル豊富な蒸気で蒸す調理法が日常的に行われている。少し蒸すだけでも、食材が驚くほどのおいしさに。地獄蒸しキッチンを併設し、低温スチーミングを長年研究するオーナーの技法で、一歩進んだ蒸し料理が味わえる。

もうひとつは源泉かけ流しの大浴場に用意された「むし湯」。むし湯とは温泉の蒸気を用いた日本のサウナ。鎌倉時代に一遍上人が創設した鉄輪のむし湯文化を取り入れている。カラダの内外からゆっくり蒸されれば、心までほどけていく。

旧冨士屋旅館

歴史ある旧冨士屋旅館。その隣に宿泊棟を新設。

鉄輪の独自の湯煙が立ち上る景観

湯煙が立ち上る景観は鉄輪の独自のもの。

地獄蒸しのキッチン

地獄蒸しのキッチンは使い勝手のいい調理台やテーブルがある。

地獄蒸し

温泉由来のミネラルが奥深い味わいに。

スイートルームの様子

リビングエリアを設けたスイートルーム。

〈冨士屋ホテル〉

全16室。大分らしい竹細工や味噌作りなどの体験(有料)も楽しい。大分県別府市鉄輪上1組。1泊素泊まり1名22,800円〜(サービス料込み、1室2名利用時)。朝食付きはプラス3,300円、夕食付きプラス8,800円もあり。WEBサイト

お茶と和菓子で、五感を解放する滞在を。

〈KÚON 箱根強羅〉神奈川・箱根
〈KÚON 箱根強羅〉神奈川・箱根

大テーブルが設えられたティーラウンジで、淹れたてのお茶が楽しめる「菓演」。

“お茶と和菓子で五感をひらく”をテーマに、昨秋、強羅温泉の高台に誕生したデザインホテル。和菓子作家・坂本紫穗が監修した和菓子とお茶のマリアージュが体験できるティーセレモニー「菓演」や、創作コースとティーペアリングを楽しむ夕食が用意されている。

和菓子に見立てた一品

和菓子に見立てた一品は、夕食のアミューズ。フレンチをベースにしたイノベーティブ・フュージョンが味わえる。

気鋭の建築家が手がけた“おこもり感”のある14の客室は、すべて温泉かけ流し。4室あるコンセプトルームには、露天風呂を備えている。お茶と温泉で自律神経を整え、リラックスするのはいかが?

コンセプトルーム。

コンセプトルーム。

ティーラウンジ

箱根外輪山を借景に望むティーラウンジ。

〈KÚON 箱根強羅〉

自分でお茶を淹れて、ゆったりとした時間を過ごすフリーラウンジも用意されている。神奈川県足柄下郡箱根町強羅1322-32。1泊2食付き1名42,000円〜(1室2名利用時)。オールインクルーシブ。WEBサイト

日本のヴェネチア、伊根で舟屋に泊まる。

舟屋日和の宿 〈あおしま〉京都・伊根 
舟屋日和の宿 〈あおしま〉京都・伊根 

伊根湾に面して舟屋が立ち並ぶ。舟屋とは1階が船の格納庫、2階が居室となっている建物のこと。

京都府北部の丹後半島に位置する伊根は、穏やかな入り江を囲むように約230軒の舟屋が立ち並ぶ素朴な漁村。その一角にある観光交流施設〈舟屋日和〉に、1日1組限定の宿がオープンしたのはこの6月のことだ。

宿があるのは、伊根祭の祭礼船を保管するための舟屋の2階。セミダブルベッド2台を備えた寝室が2室あり、いずれの部屋からも伊根湾に浮かぶ青島と、舟屋の町並みを一望できる。夕食には、隣接する和食店でその日揚がった地魚を味わいたい。

海側の客室

海側が一面ガラス張りの客室。

和食店〈海宮—WADATSUMI—〉の様子

和食店〈海宮—WADATSUMI—〉の夜のコースは6,000円〜。夏は岩ガキ、秋には伊根マグロやブリが味わえる。

舟屋日和の宿 〈あおしま〉

予約は公式サイトから。食事は〈舟屋日和〉内のカフェと〈海宮〉で摂るのがオススメ。京都府与謝郡伊根町字平田593-1。1泊1名35,000円〜。最大4名まで宿泊可。WEBサイト

9種の温泉とサウナでととのうひとときを。

〈おちあいろう〉静岡・伊豆 
〈おちあいろう〉静岡・伊豆 

「サーマルスプリング」。泉質は硫酸塩泉で、高い保湿効果から“美肌の湯”と呼ばれる。

明治7年創業、国の有形文化財にも登録される温泉宿が昨年、大リニューアル。その目玉は、新設&改装された温泉とサウナだ。

長年愛されてきた露天風呂と洞窟風呂は、カップルや家族連れも一緒に過ごせる水着着用の「サーマルスプリング」に。バレルサウナも新設。目の前を流れる川での水風呂という非日常が体験できる。

別邸も含めると、9種類もの温泉とサウナが楽しめる。川端康成ら文豪も泊まった歴史ある宿で、心ゆくまでととのう時間を過ごしたい。

しゃくなげ」の露天風呂の様子

一棟貸しの別邸「しゃくなげ」の露天風呂。

茶室サウナの様子

内風呂「月の湯」に併設された「茶室サウナ」。

バレルサウナの外装

バレルサウナは貸し切りにて利用。

〈おちあいろう〉静岡・伊豆 

伊豆の豊かな山間に位置する。

〈おちあいろう〉

全16室。一棟貸しの別邸「しゃくなげ」は最大12名宿泊可。うち4室と別邸には露天風呂付き。静岡県伊豆市湯ケ島1887-1。1泊1名2食付き71,000円〜(1室2名利用時)。WEBサイト