倒れる前に、防ぐ。メタボリックドミノの“先”に潜むキーワード。

メタボを甘く見てはいけない。高血糖、高血圧、高コレステロールを起点に、動脈硬化、心疾患、脳卒中へとドミノ倒しに進むことも。血管の異変を見逃さないために、知っておきたいキーワードを専門医が解説する。
なお自分の血管と血糖値の状態を知るためのセルフチェックや、異常を食い止めるための対策は、『Tarzan』932号『血管・血糖値セルフチェック&メンテナンス』で詳しく紹介。

text: Kano Ishitobi illustration: noa1008

『Tarzan』No.932 on sale August 27, 2026.

ドミノ倒しのイラスト
教えてくれた人

梅津拓史(うめつ・ひろし)/日本循環器学会専門医。心臓血管治療のエキスパートで通算の心臓カテーテル治療件数は2500例以上。治療だけでなく心臓疾患の予防を重視し、生活習慣病の啓蒙にも努めている。

メタボリックドミノって、知ってる?

血流力が衰える原因に、高血糖や高コレステロール、高血圧などがある。これらの病態はメタボリックシンドローム、いわゆるメタボだ。

メタボという概念は1988年にアメリカで提唱された「シンドロームX」に端を発する。これは高血圧、高インスリン血症、脂質異常の合併症の危険性を指摘したもの。2000年代に入ると日本でも肥満(主に内臓肥満)を引き金に陥る複数の生活習慣病が重なった状態をメタボと称するように。

メタボ検診がスタートしたのは2008年と意外と最近。その診断基準は腹囲が85cm以上(女性は90cm以上)で、コレステロールまたは中性脂肪、血圧、空腹時血糖の3つの値のうち、2つ以上が基準値から外れているというもの。

これを放置しているとやがて心疾患や脳卒中など深刻な病気に繫がり、最悪の場合は死に至る。ご覧のように、まるでドミノ倒しの如く血管の病気が進んでいく。

重大な病気を未然に防げるよう、ドミノを倒し進めた先に待ち受けるキーワードを解説。

インスリン抵抗性|内臓脂肪が高血糖の原因に。

インスリン抵抗性は、糖代謝に欠かせないインスリンの効きが悪い状態。といってもインスリンが「出ない」のではなく、「出ているのに効かない」状態だ。

「内臓脂肪が溜まっている人でも膵臓が頑張ってインスリンを大量に出しているケースもあります。医療機関では“Cペプチド検査”というインスリンの分解物を調べる血液検査が受けられます。この検査はインスリンの分泌量を正確に反映するんですが、インスリン抵抗性が高い人の中には正常な分泌量の上限の3〜4倍のインスリンを出している人が結構ザラにいるんです」

主な原因は溜まりすぎた内臓脂肪から分泌される悪玉物質で、これらがインスリンの効き目を低下させる。頑張る膵臓が疲れ果ててやがて機能不全になるというわけ。

食後血糖値|空腹時より食後の血糖値に注目。

食後高血糖は食後2時間で計測した血糖値のこと。通常は食事を摂ったときに一旦上がった血糖値もその2時間後にはインスリンの作用で平常レベルに戻るはず。でも、この時点で140mg/dL以上の状態が続いていたら黄色信号。

「空腹時の血糖値が正常値でも、食後血糖値が高いという人がいます。心血管疾患や死亡のリスクが高いのは後者。また、過去の血糖値の平均値のヘモグロビンA1cも、検査会社によっては6%くらいまで正常値と判断されることがあります。そういう意味で通常の健康診断ではインスリン抵抗性を見つけづらいかもしれません」

食後に強い眠気を覚えたり、だるさを感じたり、食後に集中力がダダ下がりするという場合、食後高血糖に陥っている可能性あり。一度、医療機関で検査を受けよう。

脂質異常症|コレステロールと中性脂肪を注視。

脂質異常症は血液中のコレステロールや中性脂肪の数値が正常より上回っている状態。高血糖の血液が糖まみれだとすれば、こちらは脂まみれの血液。

「コレステロールはある程度までは体重に比例します。アジア人の場合はBMIが25くらいまでは体重が重い人ほどコレステロール値が高く、男性の場合はそれ以上になると低下します。これには落とし穴があって、コレステロール値が下がる分、中性脂肪値が上がるんです。LDLコレステロールより悪玉といわれるVLDL(超低密度リポタンパク質)コレステロールが増えて、肝臓から血液中に中性脂肪を運ぶからといわれています」

コレステロール値がそれほど高くないからといって油断は禁物。代わりに中性脂肪の数値が上がっていないかチェックを。

高血圧|自己計測できる唯一の数値。

高血糖、脂質異常症とともにメタボ診断の目安となるのが高血圧。高血糖や高コレステロールが先で高血圧が引き起こされるようにも思えるが、一概にそうとは言えない。血圧を決定する因子は5つあり、そのシステムは複雑だからだ。

ひとつには心拍出量で心臓が1分間に血液を送り出す量、全身に流れる循環血液量、細い血管の抵抗性を表す末梢血管抵抗、血液の粘着度、さらに大動脈の弾力性。

「5つの因子のどれかの活性度が高まったり低下することで血圧は変化します。だから同じような体格の人でも血圧の数値はバラバラ。動脈硬化によって確かに血圧は上がりますが、血圧が高い状態が続けば血管がダメージを受けて動脈硬化になるという逆の機序も」

血圧は自分で計測できる唯一のメタボ指標。日々観察を。

動脈硬化|始まりは血管内皮細胞障害。

メタボリックシンドロームを放置すると、そのちょっと先に待っているドミノが太い血管の動脈硬化。すべての始まりは、血管内皮細胞の機能低下によって、血管の収縮や弾力性を担保するNOの量が減ってしまうこと。原因は加齢に肥満、喫煙、運動不足などなど。

「ステージが進んでいくと、3層構造の血管のうち、一番内側にある内膜が増殖して厚みを増してきます。さらに進行すると酸化コレステロールが血管壁に溜まってプラークを作り、それが破れると血栓ができて心筋梗塞など重大な病気を引き起こします」

自助努力で引き返せるのは、血管内皮細胞の機能が低下する初期段階。FMDという超音波検査で血管内皮機能を調べることができるのでB判定のうちに検査を。

糖尿病|軽度肥満で罹患することもある。

インスリン抵抗性の状態が続き、膵臓がインスリンを作れなくなり、血液中の糖質をエネルギーとして代謝できなくなるのが糖尿病。

進行すれば3大合併症といわれる神経障害、網膜症、腎症に陥るリスクが高くなる。細い血管から酸素や栄養が送られてくる器官のため、自覚症状を感じにくく、合併症が起こって初めて糖尿病の罹患に気づくというケースもある。

「また、3大合併症とは別に血管障害も起こります。たとえば脚の血管が詰まる下肢閉塞性動脈硬化が引き起こされることも。初期症状としては、数百m歩くとふくらはぎが痛くなりますが、しばらく休むと回復してまた歩けるようになる“間欠性跛行”が特徴的」

とくに日本人はちょっと太った程度でも糖尿病になりやすい。血糖値の経年変化を見逃さずに。

慢性腎臓病|心臓疾患リスクにも関連する。

現在、医療の世界で社会問題ともいうべきトピックとなっているのが慢性腎臓病(CKD)。

腎臓の主な働きは糸球体という濾過組織によって血液中の老廃物と必要なものを選り分けて尿の原料を作ること。いわばフィルター装置の糸球体が1分間に濾過する血液の量を表すのがGFR。正常値より60%未満の状態が3か月以上続くとCKDと診断される。

「糸球体は毛細血管の固まりなので、血圧の影響をわりと受けやすいといえます。もちろん、糖尿病による高血糖状態で血流力が落ちることでもCKDは進行します」

近年は心腎連関といって心臓と腎臓が影響し合っていることが明らかに。腎臓の機能低下は心臓のダメージに繫がる。将来的に心疾患を避けるためにも、腎臓系の血液検査の数値に敏感になるべし。

虚血性心疾患|狭くなる&詰まる。どちらも深刻。

心臓に分布している冠動脈が狭くなったり詰まったりして心筋への血流が不足する病気。冠動脈が狭くなると胸に痛みを感じる狭心症、冠動脈が詰まると詰まった部位から先の心筋が壊死する心筋梗塞に陥る。原因の多くはメタボ由来の動脈硬化だ。

「先ほど動脈硬化は最初に血管内皮細胞の機能低下が起きて、段階的に進行するという話をしました。確かにこれが一般的なケースですが、なかには不安定プラークという膜が薄くて破れやすいコレステロールの塊がいきなりできて破裂し、冠動脈に血栓を作ることも。例外的に何の前兆もなく倒れて後遺症が残ったり、最悪の場合は命を落とすケースもあります」

虚血性心疾患から心不全に進む前に動脈硬化のドミノ、さらにその前のドミノの転倒を防ぎたい。

脳卒中|健康寿命を大きく左右する病気。

脳卒中には大きく分けて脳の血管が詰まる脳梗塞と、脳の血管が破れる脳出血(脳の表面のプラークが破れるのがくも膜下出血)の2種類がある。どちらもやはり動脈硬化が主な原因。

「動脈硬化が原因で心疾患に進行するのか脳卒中が引き起こされるのかは予測がつきません。ただ、脳梗塞を発症した人はとくに血管内皮細胞の機能が低下していることが分かっています」

日常生活を制限なく送れる健康寿命を延ばすことが、今後の高齢化社会の大きなテーマ。その健康寿命を短縮するリスク因子の1位は認知症、2位が脳卒中だ。手足の麻痺や言語障害などの後遺症のせいで寝たきりになる可能性が高いことがその理由。生活習慣を見直し、年齢に見合った血流力を維持すれば、リスク減は十分可能。

認知症と血液の深い関係。

認知症の要因の約15%は遺伝、残りの85%は生活習慣という話。認知症の多くを占めるのはアルツハイマー型と脳血管性型の2種類だが、どちらにも血流不足が深く関わっていることが分かっている。

詳しいメカニズムはまだ不明だが、アルツハイマー型は後部帯状回、楔前部、海馬などに病変が、脳血管性では前頭葉中心に病変が見られるという報告がある。これもまた生活習慣病による血流力不足が原因の病だ。

認知症と血液の深い関係を表すため脳内の名称のイラスト

ゴースト血管のサインは耳たぶに現れる。

毛細血管に血液がうまく供給されなくなると、酸素や栄養が行き渡らなくなった血管の細胞が機能しなくなる。これが一時期話題になった「ゴースト血管」。シミやシワなどの美容的なダメージや高血圧など、全身的な健康被害を引き起こすことが知られている。

で、実は毛細血管だらけの耳たぶにゴースト血管が増えると、脂肪が萎縮して深いシワが生じる。耳にシワが現れたら、それが心疾患のサインという説もあり。怖っ。

ランクサイン:耳たぶのシワの様子

ここに斜めに入る深いシワは別名「フランクサイン」。血管の異常の兆候。