「いつもの通勤が豊かになる、友人から受け継ぎレストアしたピストバイク​」|生活と自転車 vol.10 清水雄也(ヘアスタイリスト)

自転車のある暮らしは楽しい。歩くよりも速くて、車よりも小回りが利く。有酸素運動にもなるし、街を見る視点も増える。こだわりの愛車との生活をドキュメントする連載。​第10回は、譲り受けたピストバイクで通勤時間を楽しむ、ヘアスタイリストの清水雄也さん。

interview, text: Satomi Yamada photo: Kazuharu Igarashi

Profile

清水雄也(しみず・ゆうや)/長野県出身。専門学校卒業後、都内の美容室に9年間勤務。その後、以前から客として通っていた恵比寿の美容室〈CLeF hair&works〉へ。ヘアスタイリストとして活躍する傍ら、現在は栃木県益子町にオープンした第2拠点〈Mashiko Service Center〉の運営にも携わっている。

東京・恵比寿駅から歩いて5分ほどの場所に店を構える美容室〈CLeF hair&works〉。ここでヘアスタイリストとして働く清水雄也さんは、就職を機に自転車を購入して以来、かれこれ20年近く、仕事も休みの日もそのほとんどを自転車で移動している。

「地元にいる高校の3年間も自転車通学でした。東京に出てきて専門学校の2年間は離れていましたが、就職してからは自転車が移動の基本です。バイクも好きなのですが、ここ半年くらいは壊れていることもあって、ずっと自転車生活。電車に乗る機会はほとんどないですね」

多摩川にはサイクリングロードが整備された区間もあり、車を気にすることなく、マイペースに走ることができる。

現在の住まいは、多摩川から歩いて30秒という立地にある。予定のない日はふらりと訪れて、土手沿いをサイクリングすることもあるという。

「最初は目黒など都心に近いエリアで探していたのですが、家賃の安さと広さを重視したら、たまたま今の物件に出会いました。普段、街中で過ごす時間が長い分、余計に自然のありがたみを感じますね。職場からは少し遠いのですが、ロケーションが気に入ってここに決めました」

2020年にリニューアルオープンした〈東京浴場〉。レンタルタオルもあり、手ぶらで気軽に立ち寄れる。

自宅からペダルを漕いで職場へ向かう道中、西小山にある〈東京浴場〉に足を運ぶのが、清水さんの大切なルーティンだ。昭和30年頃創業の銭湯を引き継ぎリニューアルしたこの場所は、朝5時から深夜2時まで営業し、個室のサウナや7000冊の漫画が並ぶロビー、クラフトビールやご当地アイスクリームなども揃っている。

深さ85cmのブランデー樽を使った水風呂や、熱いお湯に入れない子どものための「子ども風呂」も備えている。

右奥に見えるボックスは、個室の「おこもりサウナ」。好きな音楽をかけながら、セルフロウリュも楽しめる。

「小さいころから家族で地元の野沢温泉へ行く習慣があって、一人暮らしするようになってからはよく銭湯に来ています。朝起きて、出勤する前に入るとすごく気持ちがいいし、目が覚めるんですよね。でも、もっとゆっくりしたいなと思うこともあって(笑)。勤務後、帰宅途中に立ち寄ることもあります」

湯上がりは、瓶牛乳を飲みながら漫画を読んでくつろぐ。

東京浴場

 ●東京都品川区小山6-7-2。TEL03-6421-5739。5時00分〜12時00分、14時00分〜26時00分。火休(祝日の場合は営業)。@245tokyoyokujo 245tokyoyokujo@gmail.com

お風呂でさっぱりした後は、また20分ほどペダルを漕いで恵比寿の職場へ向かう。

〈CLeF hair&works〉は、スタッフ6名がそれぞれの「好き」を自由に持ち寄る空間だ。料理好きのスタッフがオープン当初から定期購読している『dancyu』が20年分溜まっていたり、客から譲り受けたという大きなお寺の書籍が置かれていたりする。

恵比寿駅から歩いて5分ほど。人や車が行き交う、賑やかな坂の途中に店を構える。

店内の本棚には、スタッフや常連客の趣味、そしてお店が重ねてきた年月が表れている。

長野の穏やかな環境で育ち、ものづくりを通して成長し続けたいと上京した清水さんにとって、この店との出会いは専門学校時代にさかのぼる。

「勉強のため代官山の美容室へ髪を切りに行ったとき、そこにいたスタイリストさんが自由に楽しく働くスタイルがすごく良くて。そこには就職できなかったのですが、1年後に恵比寿の坂を歩いていたら、たまたまその方が仲間や大工さんと一緒に新しくお店作りをしているところに出くわしたんです。それがこのお店でした」

別の美容室で9年間働いたのち、ステップアップのために憧れだった現在の店へ転職。落語家を呼んでのイベントや蚤の市など、客との関わりから生まれる活動はオープン当時から増え続けている。

デザインだけでなく、それぞれのクセや骨格を見極め、日々の生活に自然と馴染むスタイル提案を心がけているという。

現在は栃木県益子町に構えた〈Mashiko Service Center〉という新たな拠点にも、清水さんを含む3名のスタッフが交代で勤務している。そうした拠点を行き来するなかで、現在の愛車であるピストバイクを手に入れたのも、お店を通じた縁がきっかけだった。

「ここで働くようになってから、目黒のコワーキングスペースにあるコーヒースタンドに通うようになって。そのオーナーさんと、旅や音楽、自転車の趣味などを語り合ううちに仲良くなって、彼が乗っていたフレームを『誰かが乗ってくれるならうれしい』と譲ってもらいました」

CLeF hair&works

●東京都渋谷区恵比寿南1-14-9 アルティUn 101&201。TEL03-5773-1295。平日12時00分~22時00分、土日祝11時00分~20時00分。不定休。@clef.hair

それは、90年代の競輪選手が使っていたであろう〈Samson〉のピストフレームだった。

「トップチューブが壊れていたので、両国にある自転車店〈J.D. Cycle Tech〉で直してもらいました。はじめは青いフォークがついていたのですが、フレームを運んでいる最中に失くしてしまって。同じグレードのものをヤフオクで探して、たまたま見つけた色違いをつけています」

修理したトップチューブと溶接箇所は、あえて塗装を施さず、無骨な質感をそのまま残している。

偶然手に入れた色違いのフォーク。青と赤の鮮やかなコントラストが唯一無二の個性を放つ。

かつて競輪用パーツとしても高い信頼を得ていた〈SANSIN PROFESSIONAL〉のハブは、経年を感じさせない滑らかな回転と、高い耐久性を誇る。

クランクは友人から拝借したまますっかり馴染んでしまった、名作として名高い〈Sugino〉の「Mighty Competition」をセット。高い剛性を備え、踏み込んだ力をダイレクトに推進力へと変える。

その愛車のメンテナンスは、自宅の近く、田園調布に店を構える自転車店〈has GROWN bike〉に頼んでいる。

「家の近くを走っていたとき、自転車のフレームが見えてお店ができたことを知りました。スーパーもないような住宅地に、と驚きましたね」

メンテナンスや相談が必要なタイミングで、この店を訪れている。

店主の神戸喜郎さんは、2013年に渡ったニューヨークで自転車のカスタムを始め、2020年の帰国後に自身の店をオープンした。

「ニューヨークで自転車に乗るとすぐ盗まれてしまうので、できるだけ安くて、でもダサくないピストを組んで乗っていました。その経験をもとに、東京でもママチャリに乗っているような人が、ちょっとこだわってカスタムしてくれたらいいなと思って組んでいます。自分だけの自転車を持つと、愛着が全然違うんですよね。お金のない若い子にも乗ってほしいから、安くていい中古パーツを探して仕入れています」

来客のない時間は、左奥の定位置がデザインオフィスになる。

神戸さんの目利きで仕入れたフレームやパーツによる完成車が並ぶ。デザイナーの視点を取り入れた、自由な発想のカスタムバイクも展開されている。

フレーム単体での販売も行っている。自分のスタイルに合わせてパーツを吟味し、一から組み上げることもできる。

店内には、神戸さんが個人的に気に入って買い付けたアパレルやレコードも並ぶ。

自転車カバーやサドルカバーなど、日常使いの自転車に向けたアイテムも並ぶ。暮らしに寄り添う「街の自転車店」としての顔も併せ持つ。

そう語る神戸さんは、実はウェブデザイナーが本職だ。

「ここはデザインオフィスも兼ねていて、お客さまがたくさん来るとどっちの仕事も手に付かなくなってしまうので、あえてこの不便な立地を選びました(笑)。坂の下だしアクセスはよくないのですが、逆に近所の方には重宝してもらっています」

持ち込んだのは、確かな精度とタフさを誇る往年の〈National〉のフレーム。ここから、現在のライフスタイルに合わせて組み上げていく。

現在、清水さんは以前乗っていた〈National〉の古いフレームをもう一度組み直したいと、神戸さんに相談を持ちかけている。

「中目黒の古着店で2万円で買って、18年間乗っていたものです。古い規格なのでどこまでカスタムできるか探りつつですが、スポルティーフ(ロードバイクの軽快さに、旅のための実用性を美しくプラスした自転車)のような一台にしたいと思っています」

has GROWN bike

●東京都大田区田園調布5-34-11 #101。TEL03-6715-6888。12時00分〜18時00分。日月水休。@hasgrownbike info@hasgrown.com

清水さんは新しく組んだ自転車で、どんな場所へ出かけたいのだろう。

「ピストでは行けない河川敷や、自転車好きなお店の先輩が主催するバイク&キャンプイベントに参加してみたい気持ちもあります。でも、いまはやっぱり通勤が一番いい時間になっていますね。日常に自転車があれば、通り過ぎる景色とか季節の空気を感じられるし、運動にもなる。たまに寄り道しながらの通勤が、自分にとっては一番幸せだなと感じています」

〈BICYCLE SPECIFICATIONS〉

フレーム:Samson – illusion
ホイール:(front) Wolber – GTX, (rear) Araya
ハブ:Sanshin – Professional Track Model
ヘッドセット:Hatta – Swan Super Deluxe
ステム:Nitto – Pearl 6
ハンドル:Nitto – for shred bar
グリップ:Blue Lug – Cotton Cloth Bar Tape
ブレーキ:Dia-Compe – BRS101
ブレーキレバー:Odyssey – Monolever
クランクセット:Sugino – Mighty Competition
サドル:Selle Italia – Flite Transalp
ペダル:Odyssey – Trailmix Pedals Magnesium LB
トゥーストラップ:R.E.LORD
タイヤ:(front) Continental – Grand Prix 5000 23c, (rear) Vitoria – Rndonneur Classic 25c