「ダイエットを続けて、今年で9年目」笑いとウェルビーイング。ロングコートダディ・兎(後編)

笑うことは心身の健康に良いと言われています。では、日々誰かを笑わせているお笑い芸人は、自身も健やかな状態になっているのでしょうか。芸のために筋肉を鍛えることもあれば、不摂生が爆笑を生むこともある。ウェルビーイングの形は人それぞれです。本連載では放送作家の白武ときおさんが聞き手となり、芸人一人ひとりが考える「笑いとウェルビーイング」を掘り下げます。第11回後編も、ゲストはロングコートダディの兎さん。年に一度の釣りを楽しみ、独自のダイエット術を編み出し、島暮らしを夢見る兎さんの毎日に迫ります。

interview: Tokio Shiratake edit,text: Neo Iida photo: Wataru Kitao

Profile

兎(うさぎ)/1988年、岡山県生まれ。2009年、NSC大阪校31期生の堂前透とロングコートダディを結成。2014年『THE MANZAI』(フジテレビ)の認定漫才師50組に選出。2016年『新しい波24』(同)の波24メンバーにも選ばれた。『キングオブコント』では2020年、2022年、2024年と決勝に進出し、2025年に優勝を果たす。『M-1グランプリ』では2021年と2022年にファイナリストに。『ラヴィット!』(TBS・水隔週レギュラー)に出演中。

賞レースが楽しくて、まだ出たいと思った。

白武ときお(以下白武)
兎さんは釣りを楽しんでいますが、相方の堂前さんも趣味を楽しむ感じなんでしょうか。お二人のスタンスは似ていますか?
相方にはこれといってめっちゃデカい趣味があるわけじゃないですけど、ゆるくやろうっていうスタンスは似てますね。それはコンビ組んだ時に言われたんです。「正直テレビにガンガン出たりとかはそんなに望んでなくて、ゆるい感じでやっていきたいけどいい?」って言われて、「いいよ」みたいな。
白武
兎さんはそれでよかったんですか?
まあそうですね。その時、僕には目指すものが別に何もなかったんで。ガッツリめちゃくちゃ売れたいとかもなかったですし。
白武
でも『キングオブコント』で優勝して、この1年で忙しさは変わったんじゃないですか?
いや、そんな。いろんな仕事をいただけるようにはなりましたけど、元々ある程度はお仕事が入ってたんで、そこまで激変はしてないですね。ただその、なんていうんですかね、仕事の質を高めなきゃっていう意識はありますね。一つひとつの舞台においても、前と違ってチャンピオンとして紹介される。ネタをする時にお客さんもチャンピオンとして見てくれるんですよ。そこは前と同じクオリティじゃダメかなって。何回もやってきたネタでも、ネタ終わりにちょっとだけ話し合うようになったりしました。話し合おうって言いました。

白武
締め直すというか。
はい。何回もやってたけど「ここ変えようか」とかを話し合おうっていう。
白武
兎さんは仕事が忙しくてしんどくなったり、プレッシャーを感じることはありますか?
あー、なんだろう、ちょいちょい思うんですけど、俺はバイトとかめっちゃ得意なんですよ。実は要領が良くて、けっこう仕事できる人間で。でも芸人の仕事は面白いことを言わなきゃいけない、面白いことをしないといけないっていうプレッシャーがあるんで、しんどくはないですけど、痺れるというか、ドキドキする時はありますね。一番向いてない仕事選んだかなって思っちゃいます。
白武
そのヒリつきを楽しめるタイプか、憂鬱に感じるタイプか、どちらだと思います?
うーん、「うわー!」ってなったりしますけど、終わってみればいい経験だな、くらいです。誰もが経験できることでもないですしね。
白武
じゃあ『キングオブコント』や『M-1グランプリ』に出続けていた賞レース時代、勝つか負けるか、という瞬間は楽しかったですか?
賞レース自体がめっちゃ楽しかったんですよ。でも相方からは優勝する前に「しんどい。負けたら次はもう出ない」って言われてたんです。俺は「嫌だ」って。「今はまだ話し合わなくていいけど、終わってもし負けたら1回ちょっと話し合ってくれ。俺は出たい」って言いました。楽しいから。
白武
その堂前さんのしんどさは、ネタを生み出すしんどさだったんでしょうか。
プレッシャーなんでしょうね。ずっと優勝するって言われて、最初は楽しかったかもしれないですけど、認められ始めて、下手なネタできないとかもあるんでしょうね。決勝を逃したあと、次の年は面白くなかったなっていうのは許されないというか。そういう苦悩があったんじゃないですかね。

こう見えて、食べることはめっちゃ好き。

白武
兎さんは普段、自分の機嫌を取るとか、ご機嫌に過ごすためにしていることとかありますか?
機嫌を取る。自分の?自分の機嫌?自分の機嫌って何なの?皆さん取ってますかね、自分の機嫌。
白武
例えばストレス解消にゲームをするとか…。
ああ〜。でも食べることはめっちゃ好きなんですよ、こう見えて。
白武
…なるほど。
ん?今何か変なこと言いました?毎日食事という時間があれば、ある程度は満たされると思います。
白武
自炊が多いですか?出前が多いですか?
両方ですね。あんまりうまくないけど簡単なものなら作ります。出前はあんまりないですけど、食べにも行きます。パッと目に入って、行くつもりはなかったけど気がついたら食べてた、みたいな。焼肉やラーメン、たまに寿司にも行くし、1人で居酒屋に入ることもあります。最近は家で1人で飲むことも増えました。

白武
先輩とか後輩とも行きますか?
ありますよ。でもいつも同じメンバーで、ってことは東京来てからはないですね。やっぱり東京の人って距離があるし、忙しそうだし、年齢的にも家族いたりするから誘いづらくて。
白武
日々体調を整えたり、健康に気を遣ってやっていることはありますか?
うーん、まあでもちょっと太りすぎてるんで、痩せたいなって気持ちは常にあるんですよ。ダイエットも9年目になりますけど、なかなか効果出なくて。
白武
それは「9年目」とカウントしていいんですか?
何がですか?
白武
ダイエットです。
はい。ダイエット9年目です。
白武
それは結果が出ないということ…?
まあそうですね、うん。結果が出てないっていうか、まあ食べちゃってるから。ダイエットをしてなかったと考える方もいるでしょうね。ただもしダイエットしてなかったら僕は今頃160キロだったかもしれない。
白武
今、体重は測っていますか?
はい、今日測りました。105キロでした。
白武
理想は何キロくらい?
本当に理想を言うんだったら80キロ。
白武
マイナス20キロですね。
まあでも少し高望みしすぎなんで、とりあえず95キロ、マイナス10キロを目指したいですね。

白武
ジムとかランニングとか、運動を習慣にできるタイプですか?
いや、できないですよ?なんで急にそんな話になったんですか?
白武
すみません、確かにそうですね。
びっくりした。
白武
でも釣りもありますし、体力が必要な場面は多そうかなと。
そうですね。確かに歳を取ってきてだいぶしんどいんですよ。1週間ずっと、1日に2〜3回釣りするんで。朝釣りに行って昼帰ってきて、銭湯入って、ちょっと寝て、夕方から釣り行って、晩ご飯食べてちょっと銭湯入って、夜また釣り行って、みたいな。これを毎日やるんでめっちゃしんどいですよ。5日目、6日目とかヘトヘトの状態になるんですけど、それを含めても楽しいです。体力いりますね、確かに。
白武
ちなみに、ダイエットって具体的にどんなことをしてきたんですか?
いろいろですね。その時によって選ぶんですけど、前にやってたのは「吟味ダイエット」っていうやつで。
白武
吟味する、の吟味ですか。
そうです。何でもかんでもすぐに食べちゃうんで、1回食べる前に「ほんまにこれ食べたいのか」「これを食べて後悔しないのか」って吟味して、「後悔しないし本当に食べたい」と思ったら食べていいというダイエットをしました。
白武
いつ頃されてたんですか?
えっと〜、吟味は〜。
白武
吟味って呼んでるんですね。
そうです。吟味は、3年前ですかね。東京来てすぐの頃にやってました。
白武
独自に編み出したダイエット方法ですか?
他では聞いたことないですね。置き換えダイエットとかいろいろあるじゃないですか。そういうのを調べて、ちょいちょいやってきてうまくいかなかったんで、食べるものを変えるんじゃなくて、ほんまに欲しいのか一回考えようと思って考えつきました。
白武
どれくらいの期間やっていたんですか?
吟味はけっこうやってましたよ。半年くらい。朝昼夜の食事も、お菓子食べる前もアイス食べる前も吟味します。大事なのが、買う前に吟味することなんです。アイスを買ってから吟味しちゃうと、もう食べるしかないですからね。
白武
吟味は買う前にやるものだ、と。
はい。これがけっこう大変で、買う時に吟味するのを忘れることがあるんですよ。これは太ってる人あるあるなんですけど、仕事終わってコンビニでご飯買おうと思うと、コンビニに入ったくらいから記憶がないんですよ。「は?」って思ったらコンビニの外にいる。で、買ったものを見て「食わなあかんやん」みたいになるんです。これ、ビスケットブラザーズのきんちゃんに言うとむっちゃわかってもらえます。なんて言うんですかね、買う時はダイエットなんて頭にないし、正直意識がない状態で買ってて記憶がない。そこをなんとかできるようなダイエットがあったらめっちゃいいですけどね。

優勝した瞬間、泣こうとしたけど泣けなかった。

白武
兎さんが喜びや幸せを感じる瞬間ってどんな時ですか?プライベートでも舞台でも。
なんだろうな。でもウケると嬉しいですね、もちろん。あとやっぱり美味しいお店見つけた時も嬉しいですし。なんかな、嬉しいこと。あんまり意識しないですね。ゴルフでもいいショット打てたら嬉しいですし、僕が嬉しいと思うことって結構一つひとつがちっちゃいことかもしれないです。大きく構えてないんで。
白武
じゃあ日々、幸せを感じやすい方ですか?
うーん、ずっと幸せやと思ってますね。なんだろう、「うわっ嬉しい!」とかじゃなくて、普通に。まぁうまくいってるじゃないですか、全体的に。一握りしか売れない世界って言われてる中、ある程度のお仕事をいただけるところまで来られたのも、ラッキーがめっちゃあったんで、正直。まあ相方と、堂前と組めたのもラッキーですし。別に何の文句もないですね。
白武
素敵なスタンスですね。大きな大会で優勝する人ってやっぱりストイックなイメージがあったので。
まあストイックじゃないって言ったらあれですけど。でも優勝した瞬間に「ワーッ!よっしゃ!」って泣こうとしたんですけど、全然泣けなくて、ヤバッと思って。堂前の方に行って泣いた顔を隠してた感じだったんですけど、マジで泣いてないんです。堂前にも「お前嘘泣きしてたろ」って言われたんですけど、嘘泣きじゃなくて。感極まって、感極まった顔で涙が出なかったってだけで。
白武
(笑)。優勝されてからって、芸人人生の目標が変わったり新たに設定したりしてるんですか?
そうですね、優勝した後によくこういうインタビューを受けたんですけど、相方ですら目標を探していたんですよね。僕の中では、まあ漠然とですけど、「チャンピオンとしての責任を持つ」というのは思いました。目指すとか目標とかじゃなくて、ここからのすべてにおいてチャンピオンとしての行動をしようっていう。まずは大前提、それを打ち立てたくらいですね。だから今向かっている目標というのは、お笑い方面ではないです。
白武
プライベートでは?
将来やりたいことはいろいろありますよ。ずっと言ってるのは、島で自給自足の生活がしたい。で、半年くらい前から思ってるのは、うなぎの養殖。うなぎの養殖されてる方はいっぱいいると思うんですけど、釣り堀はないなと思って。調べたら、うなぎの釣り堀は原価が高いから意味ないって書いてあったんですよ。昔はそうかもしれないけど、今って完全養殖も成功してるし、うまいことやれば面白そうなのができるんじゃないかなと。あとは焼き鳥もやってみたいなと思ってます。焼き鳥を焼くのが好きで。
白武
うなぎと焼き鳥。
はい。民家の家先でやってる動画とか見てたら楽しそうで。大変なこともあるんでしょうけど。例えばね、もし釣り堀が上手くいったらその横で焼き鳥が焼けるだろうし、うなぎだったら釣ったやつを炭で焼いて食べてもらうことになるだろうし、ちょうどいいなっていう。そういうのを頭の中で考えるのは楽しいですね。全然何の現実味も帯びてないんですけど。

白武
理想だと何歳ぐらいまでに実現できてたらいいなと思いますか?
芸人始めたての頃は45歳ぐらいで芸人をフェードアウトしながら釣り堀やりたいとか言ってたんです。でも今38歳で、45歳だったら7年後ですもんね。芸人はもうちょっとやりたいですね。東京03さんとラジオをやった時に、「おじさんになって高校生役のコントとかできなくなった」「僕らも子ども役とかできなくなりました」って話をした流れで、「東京03さんが70歳、僕ら60歳とかで、全員がおじいちゃんのコントやりたいですね」とか言ったら、飯塚さんが「それやろうよ」って言ってくれはって。「ちゃんと覚えてて」みたいな感じだったし、むちゃくちゃやりたいと思ってしまって。人生でやりたいことに追加されたんです。
白武
それはもうやるしかないですね。
そうなんです。やりたいことはいっぱいあるけど、たぶん全部はできないと思うんで、その時その時で選んでいきたいなって思いますね。昔からやりたいことがいっぱいあるタイプだったんですよ。「1個じゃないんかい」とかよく言われるんですけど、やりたいことが2つあるのはめっちゃいいことだと思うし、別に10個あろうが、その時その時で自分で選べばいいだけ。やりたいことが多いことは素敵なことだと自分では思いますけどね。
白武
ぜひ実現させてほしいです。
まあねえ。なんせ動かないんで。どっかのタイミングで動きたいですね。

麒麟の田村さんがくれた新幹線のグリーンの回数券。

白武
カバンの中に入っている、持ってると落ち着くものって何かありますか?
今日はカバン持ってくるかどうかも迷ったんです。……何があるかな。あ、これはいつも持ってます、ゴルフのグローブ。時間がパッと空いた時に打ちっぱなしに行けるように入れてますね。あと財布の中に入れて絶対持ち歩くようにしてるのが、この新幹線のグリーンの回数券。2022年まで有効のやつだから、2021年くらいにもらったんかな。当時まだ大阪にいて、終電で東京行って始発で帰ってくる仕事があったんですよ。もうほんまにしんどくて、大阪の劇場の楽屋でめっちゃテンション下がってたら、隣にいた麒麟の田村さんが「なんなのお前、なんでそんなテンション低いんだ」って。で、僕がこうこうこうでめっちゃ大変なんすよ、みたいなことを言ったら、「仕事あるからええがな」ってパッて財布開けて、シャッて1枚回数券をくれたんですよ。「やるわ」って。ほんま何気ない行動やったんですけど、なんかその時僕むちゃくちゃ元気出てきて。で、結局行きも帰りも元気だったんでこれ使わずに、あの時の気持ちを忘れないようにしようと思って、お守りとしてずっと入れてます。

白武
めちゃくちゃいい話ですね。
あと牧野真莉愛ちゃんのカード。なんかね、会うたびにカードくれるんですよ。 皆さんに配ってるやつですけど。今2枚あります。
白武
ありがとうございます。兎さんにとってご機嫌に生きるための秘訣はありますか?
えー、なんだろう。けっこうご機嫌かもしれないです。気をつけてることでいえば、「いろんな人がいますよね」って思いますね。マジで同じ人って1人もいない。自分の価値観もあれば人の価値観も絶対あるんで、気に入らないとかムカつくとかあの人が嫌いだとかって思う前に、その人なりに生きて考えてるわけだから1回ちょっと落ち着いてみようって。全員が違うからめっちゃ楽しいと思うんで。
白武
たしかに。そう思います。
だから、マナーが悪かったりルールを守らない人がいたとしても、俺は「めっちゃムカつく」じゃなくて「自分じゃなくてよかったな」って思うんですよ。その人がどういう人間になるかは育ってきた環境とかいろんなことが関係してると思うんですけど、自分がああいう性格になってたかもしれない可能性もあるわけで、そうなってなくてよかったなと思うんです。「腹立つなこいつ」とかはないです。ただ「そのタイミングでそれする?それ言うの?」って思わせるような言動はめっちゃ気になりますね。絶対に理由があってその行動をしてると思うから。嫌味とかじゃなくて普通に気になる。そういうふうに考えた方が楽しいかなって僕は思うし、懐を深くというか、自分の許容範囲を広げれば楽しいし、気持ちも楽になると思うんです。
白武
すごく素敵な考え方ですね。
あ、あとそうだ、昔思ったことがあって。僕って関西弁じゃないんですよ。岡山生まれで、別に岡山弁もそれほど強くなかったんですけど、言葉遣いが結構うつりやすくて、関西で10年くらい過ごしたんでぐちゃぐちゃになっちゃって。よく「ロングコートダディの太ってる方のエセ関西弁が気になる」とか「生理的に受け付けない」って言われてたんです。で、ふと思ったのが、映画とか観ても英語の癖ってあんまり気にならないなと。だから僕のエセ関西弁が気になる人って、日本語がなまじわかるから気になるだけで、「自分の許容範囲の狭さを露呈してるだけなんじゃない?」って思っちゃうんです。「言葉遣いだけで、仲良くなれるかもしれない貴重な人を弾いちゃうの?」って。狭いところでワーワー言うんじゃなくて、デカくなろうとしてもいいんじゃないかなと思います。そうすればけっこうね、いろんなことを楽しい気持ちで包み込めると思う。自分の人生も豊かになると思いますよ。