
教えてくれた人
西岡賢一(にしおか・けんいち)/〈FLAT RUNNING CLUB〉代表。学生時代から長距離に取り組み、現在はトレイルランナーとしてUTMB、TDSなどの海外レースを完走。トレーナーとしても、ロードもトレイルもカラダの構造や動きの原理に基づいたフォーム指導を行う。
トレイルに挑戦した人
牧野紗英(まきの・さえ)/PR会社勤務。学生時代に陸上を経験。ソウルでランニングクルーと出会ったことを機に走る楽しさに開眼。2024年の富山マラソンでフルマラソンを初完走。国内外の旅先で現地クルーと走るのが趣味。目標は年内にトレイル30km、将来的には100kmレースの完走。
歴史の語り部が緑に佇む「奥多摩むかし道」。

新宿から電車に揺られて約2時間、JR奥多摩駅を降りるとひんやりとした山の空気が肌を撫でる。
奥多摩駅からゴールの奥多摩湖へと続く「奥多摩むかし道」は、かつて旧青梅街道と呼ばれていた歴史あるルート。
今回、コースガイドを務めるのは、トレイルランナーとして活躍し、トレーナーとしても数多くのトレランデビューに伴走してきた西岡賢一さん。一緒に走るのは、ここ数年でロードランを本格的に始め、トレランはこれが2度目という牧野紗英さん。
「“むかし道”というだけあって、奥多摩の歴史を感じられたり、見どころがたくさんあります。それでもしっかりと山を走った感覚になれる。舗装路も多いので、とくにロード経験者にとってはトレランデビューにすごくいいルートだと思います」と西岡さん。
都内からのアクセスであれば、高尾山はアクセスが良く、多様なコースを楽しめるランナー格好のフィールドだが、奥多摩まで少し足を延ばすといっそう森が深くなる。駅を出発して「武蔵三氷川社」のひとつ「奥氷川神社」を左手に、氷川大橋を渡ると徒歩10分ほどでスタートの標識が現れる。コース入り口から青々とした奥多摩の梢が出迎えてくれる。
まもなくすると、かつて小河内ダム建設の資材輸送に活躍した廃トンネルと廃線跡が見えてくる。ノスタルジックな遺構が深い緑のなかに涼やかな陰影を落としている。トレランにプラスアルファの楽しみも添えてくれる、デビューにうってつけのコースだが早くも見どころに足が止まる。
深い渓谷を流れる風が、火照ったカラダを包み込む。
コースは、心地よい舗装路と土のトレイルを繰り返しながらリズミカルに距離を進めていく。ここで暮らす人たちの民家の軒先やふいに現れる道祖神、多摩川が深く穿つ惣岳(そうがく)渓谷の美しさと、走っていてまったく飽きがこないコースだ。
コースマップ

奥多摩駅から奥多摩湖まで全長9.4kmの「奥多摩むかし道」は、名所旧跡も多く見どころがたくさん。舗装路とトレイルが7:3程度なので、グラベル的な楽しみ方ができる。民家の軒先や畑の脇など、住民の生活感も感じられ、走っていても飽きないコース。
ルート上には歴史を記す標識だけでなく、整備されたトイレも多く、初心者が休憩を挟みながらマイペースで走れるのも利点だ。
ロードでの経験が豊富な牧野さんだが、初めて訪れるトレイルに緊張の面持ち。そんな彼女にアドバイスを重ねていく西岡さん。
「しっかりと踵から着地して足を転がしていくイメージで。下り坂だからといって飛ばしすぎると、ロードと違ってサーフェイス(路面)が安定していないので危険です。慎重にいきましょう」
ロードを走ってきた人だと、速い人ほど着地が前足部に寄っていくが、トレイルはしっかりと面で地面をとらえ、足全体で地面をグリップすることが大切。きちんと骨盤の幅くらいを意識して、2軸のレールの上を走るように両足を前に接地させること。トレーナーの顔も持つ西岡さんのアドバイスは的確だ。
コースの中盤は民家や畑を横目に舗装路が続く。とはいえ、渓谷沿いの左岸を走ることになるので、トレイルならではの涼感には事欠かない。耳の患いに祈願した「耳神様」や牛馬の通行の無事を祈った「牛頭(ごず)観音」、歯痛に大豆を供えて平穏を祈った「虫歯地蔵」など、歴史の語り部たちの前で思わず立ち止まってしまうのもこのコースの楽しみ。

惣岳渓谷に架かるしだくら吊橋。渓谷には度重なる多摩川の氾濫による巨岩怪岩が点在。
なかでも圧巻なのが、「しだくら吊橋」。多摩産木材の運搬に使われた多摩川の、最難所とされた惣岳渓谷を渡す吊り橋で、奥多摩町内で最長となる全長67.15m。眼下に荒々しい惣岳渓谷の姿を見ることができ、深く美しい渓谷の下から吹き上げる川風が、ランで火照ったカラダをすっと包み込んでいく。

「ロードにはない、自然のなかで五感を使ってサバイブする時間が心地いい」と西岡さん。

《Suunto Vertical 2》は、高精度GPSモードなど、過酷な山岳地帯も対応可能な本格アドベンチャーウォッチ。99,000円〜。WEBサイト
湖のパノラマを横目に、ご褒美が待つ奥多摩駅へ。
心地よい疲労感が足に溜まってきたころ、いよいよコースは最後の上りへ。「ラスト、歩幅を小さく刻んでリズミカルにいきましょう」と西岡さん。ロードで鍛えた健脚の牧野さんも腕が鳴る。

「トレイルランでは、ずっと走っていなくても大丈夫。下りや平坦だけを走るのでも問題ありません。このコースはいい塩梅で上りと下りがあって、しかも周囲は高い木立に囲まれて、渓谷と川の風が涼しい、トレランデビューにはうってつけのコースですね」
600m程度まで標高が上がると木立の切れ目からうっすらと奥多摩湖が姿を現す。奥多摩湖を望む大パノラマに自然と歩みも速くなる。トレイルから舗装路を下りると奥多摩湖に到着だ。

小河内ダムに対しダムによってできた人造湖の名称が奥多摩湖。平年に比べ貯水量が少ない状態が続いているが、これでも40%前後とダムのスケールの大きさがうかがえる。

奥多摩湖湖畔で足つぼマッサージ!
東京都民の「水がめ」といわれる奥多摩湖は、都の生活用水の約2割を供給しているそうだ。あいにくの空梅雨で十分な貯水率ではなかったが、それでもそのスケールは壮大。ダムの湖畔で涼を感じつつ、奥多摩駅行きのバスに飛び乗ると、「ご褒美」まであと少し。
約20分バスに揺られ、奥多摩駅に戻ってくると、本日の最終目的地、奥多摩発のクラフトビール《VERTERE》のタップルームが駅の目の前だ。

〈VERTERE Okutama Taproom〉
2015年7月に開業した奥多摩発のクラフトビール店《VERTERE》。奥多摩駅前に〈Bottle Shop駅前店〉、その裏に〈Okutama Taproom本店〉がある。
毎週2種のビールをリリース、常時10〜15種が楽しめる。本店はオーナーと醸造長が自らDIYして作った築70年の古民家を再利用しており、ビールと相性抜群のフードメニューも充実。
東京都西多摩郡奥多摩町氷川212。11:00〜19:30(土・日のみ)、月〜金休。WEBサイト












