柔軟性アップのその先へ!今こそ知りたいストレッチの魅力。

ストレッチは、カラダを柔らかくするためだけのものではない。コンディションの把握からリラックス、疲労感の軽減、血圧への好影響まで、そのメリットは思いのほか幅広い。最新エビデンスから、いま知っておきたいストレッチの価値を見直そう。

text: Kenji Inoue illustration: Masaki Takahashi expert advisor: Masatoshi Nakamura

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スポーツをする人達がストレッチをしている様子
教えてくれた人

中村雅俊(なかむら・まさとし)/西九州大学リハビリテーション学科理学療法学専攻主任、准教授。理学療法士、博士(人間健康科学)。2013〜23年の10年間において「Expertscape」によりストレッチ分野の世界No.1研究者にランキング。

週にたった10分でカラダもココロも変わる。

リハビリとしてのストレッチに取り組む前に、その常識をアップデートしておこう。まずはストレッチの盟友、筋トレの話から。

筋肉を大きくするなら「10回×3セット」。10回しかできない重さで限界ギリギリまで行い、それを3セット続けるのである。この長年の常識は最近揺らぎつつある。大事なのは、1週間単位のトータルボリューム(TV)で、10回×3セットが唯一の正解ではないとわかったのだ。

筋トレだけではない。どうやらストレッチでも、1回で何秒伸ばすかよりも、TVがより重要らしいというエビデンスが出てきた。

「1部位につき、1週間トータル10分間のストレッチにより、柔軟性がアップするという最新研究があり、私を含めて多くの専門家たちが支持しています」(西九州大学の中村雅俊教授)

1週間で10分(600秒)を、毎日行うなら1日約86秒。関節の柔軟性を上げるには1回最低30秒のストレッチが求められるから、1回30秒のストレッチを朝昼晩と3回行えばクリアできる。

平日5日なら1日120秒。一人ひとりのライフスタイルに応じて自由にプランニングできるから、ストレッチを無理なく継続できそう。

ただし「週末2日で5分ずつ行う」といったウィークエンドウォーリアー(週末戦士)作戦はお薦めできない。3日以上空けると高まった柔軟性が落ち、1歩進んで2歩下がる羽目に陥るからだ。

週10分以上やっても変わらない。

静的ストレッチが柔軟性に与える影響を非ストレッチ群と比較した189件の研究を統計的に分析したグラフ

静的ストレッチが柔軟性に与える影響を非ストレッチ群と比較した189件の研究を統計的に分析。柔軟性向上が最大化されるボリュームを解析した結果、週10分で最大化し、それ以上やっても効果量は上がらなかった。

出典/L. A. Ingram et al. 2024

その日の調子を教えてくれる。

肩周りのストレッチを10分している様子

毎日を自然体で過ごすには、コンディションをつねに把握することが大切。

そのために体調を“見える化”してモニタリング。調子が悪いと感じたら、睡眠時間を増やしたり、食生活を調整して栄養素を過不足なく摂り入れたりするのだ。

見える化したい項目には体重、体温、眠気、スマートウォッチが知らせる活動量や心拍数などがあるが、そこへぜひ加えてほしいのがストレッチの成果。日々のルーティンに組み込んでいれば、スマートウォッチも教えてくれない筋肉の硬さや関節の動きが定点観測できるようになる。

手始めに、起床時や、夜入浴後などとタイミングを決める(すると忘れずに行える)。そして普段よりカラダが硬かったり、動きが悪かったりしたら、決して軽視しないこと。手抜きをせずにストレッチを丁寧に行い、できるだけ早く良好なコンディションへ近づける。

放置すると状況は悪くなり、万全の体調へリカバリーできるまでに時間も手間もかかる。

リラックスできて「疲労感」も抑える。

ストレスや緊張を強いられる日々を送っていると、本当の自分をふと見失いそうになる。

そんなときに頼りになるのも、ストレッチ。ストレッチをするとカラダだけではなく心もほぐれて、ほっとリラックスできるのだ。

背景にあるのは自律神経。自律神経には、心身を活動的に整える交感神経と、休息モードへ誘う副交感神経があり、両者のバランスが大切。緊張やストレスがあると交感神経ばかりが優位となり、自律神経のバランスが崩れる。

メカニズムはよくわかっていないものの、ストレッチ後には副交感神経が優位に。リラックス効果を発揮して、自分自身を取り戻すきっかけを与えてくれる。また、ストレッチに集中すると、その間はストレスや緊張のタネも忘れられる。

同時に疲労感(疲れたという感覚)も軽減される。とはいえ、疲労自体はストレッチでは軽くならない。疲労感が霧散して気持ちが前向きになったら、睡眠や休養などで疲労そのものをリセットする努力を怠らないようにしよう。

筋肉だけでなく脳にも働きかける。

カラダの柔らかさを左右するのは筋肉だけではない。筋肉を包む筋膜などの結合組織や関節の状態も関わる。

ことに筋肉を動かさないと結合組織が硬くなったり、癒着したりしてカラダは物理的に硬くなる。硬くなると動かしにくくなり、結合組織がより拘縮して一層硬くなるという悪循環に陥る。

ストレッチで筋肉と結合組織を伸ばして動かせば、この悪循環が断ち切れて柔軟性は回復する。

そしてカラダの硬さにはメンタル、具体的に言うと脳での「閾値」も関わる。

閾値とは、痛みなどの反応を起こす最小の強度や刺激のこと。ストレッチをサボっていると閾値が低い(感覚が鋭い)ままなので、少し伸ばすだけでも「痛いからこれ以上はムリ」と早々に諦める。

ストレッチを続けるうちに閾値は徐々に高まる(感覚が鈍くなる)から、強い痛みを感じずに伸ばせる範囲が広がってくるのだ。

「その意味でストレッチには鎮痛剤のような作用があるのです」

何歳からでも始められる。

テニスをする女性がストレッチしている様子

運動はいくつになっても効果がある。よく知られているように、筋トレを行うと80代でも90代でも筋肥大は起こる。

同じようにストレッチは何歳から始めても遅くない。筋肉や関節などに異常がなければ、カラダは何歳になっても柔らかくなる。

「100歳以上のデータは少ないのですが、少なくとも80〜90代ならストレッチで柔軟性が高くなるというエビデンスがあります」

ましてや40〜50代の若造が二の足を踏む必要はどこにもない。年齢が壁にならないのは、前述のようにストレッチは痛み止めのように作用するから。

たとえ高齢になっても、脳さえきちんと働いていれば、ストレッチによる閾値の変化は起こる。脳が「ここまで伸ばしても平気なんだ」と慣れてきて、若い頃の柔軟性が少しずつ取り戻せるのだ。

その成功体験は自信に変わる。それを足がかりに筋トレやランニングなどにもトライしてみよう。

筋トレ効果も秘めている。

バスケットをする人がアキレス腱を伸ばしている様子

筋トレには、大きく分けて2つの局面がある。筋肉を縮めて力を出すコンセントリックと、筋肉が伸ばされながら元に戻るエキセントリックだ。筋肉への刺激はエキセントリックの方が強く、研究ではエキセントリックのみでも筋肥大は起こるとか。

「ダンベルを戻すときはできるだけゆっくり」などとアドバイスされるのは、エキセントリックの時間をより長く取ることを促すためである。

視点を変えると、ストレッチで筋肉を伸ばしているプロセスは、筋トレにおけるエキセントリックのようなもの。ゆえにわずかながら筋肥大も促してくれる。

筋トレが支障なくできるなら、ストレッチではなく筋トレに励むのが正解。ただ何らかの理由で筋トレができないか、もしくは苦手な人にとってストレッチは貴重な選択肢となり得る。1つの筋肉当たり1日15分以上、6週間続けると、筋肥大が起こるというエビデンスが報告されている。

生活習慣病を防いで健康度アップ。

ランニング前に太もものストレッチをしている男性

30歳を越えて以降、他人事だった生活習慣病が俄然気になってくる。なかでも要注意なのは、高血圧。国民の約3人に1人が該当するとされており、ほったらかしにすると心臓病や脳卒中といった死に至る病のリスクを上げる。

塩分摂取が多い日本人にとって高血圧予防にはまず減塩だが、加えてストレッチも血圧を下げてくれる。カナダで行われたスタディでは、血圧高めの人が1日30分のストレッチを週5回、8週間続けたところ、血圧を下げる効果が高いとされる速歩きよりも、血圧を引き下げてくれたのである。

速歩きで血圧が落ちるのは、血流が良くなり、その刺激で血管の内側をカバーしている内皮細胞からNO(一酸化窒素)が分泌されるため。血管が縮むと血圧は上がるが、NOには血管を広げる働きがあり、それにより高かった血圧は適度に下がってくる。

ストレッチをすると、筋肉とともに周辺を走る血管も伸びる。それが刺激となり、NOが出てきて血圧を押し下げてくれるようだ。

収縮期血圧を下げてくれる。

ストレッチによる降圧効果を調べた11件の研究を解析のグラフ

本文で触れた研究(Ko et al. 2021)を含め、ストレッチによる降圧効果を調べた11件の研究を解析。多くの研究でストレッチが収縮期血圧を下げる可能性が示唆される。

出典/J. Funct. Morphol. Kinesiol. 2026, 11(2),164

賢く活用すれば、トレーニングの効果アップ。

足裏を合わせストレッチをしている女性

運動前後にストレッチするなら古い常識をアップデート。

まず運動前。ストレッチに筋肉を温めるウォーミングアップ作用はない。さらにストレッチを長く行うと筋力は低下してしまう。

「関節を固定して力を出すアームレスリングや柔道などの直前に、60秒以上の長いストレッチを行うと不利になる恐れがあります」

ただ、運動前にストレッチで可動域を広げるとトレーニングの質は上がる。加えてストレッチをしても10分ほどで筋力は復活する。

運動後はどうか。ストレッチをすると爽快で運動後にリラックスできる。でも、多忙で隙間時間に運動しているタイプは、ストレッチにかける時間をもったいなく感じるだろう。そういうタイプはストレッチをパスしても大丈夫。

「ストレッチで運動後の筋肉痛や疲労蓄積は解消できない。ストレッチを省き、その分だけ入浴や睡眠の時間を延ばした方が筋肉のコンディション維持にプラスです」