BTS帰還! 7人が示す新しいウェルビーイングのかたち。
4月9日、韓国・高陽の総合運動場メインスタジアムで幕を開けた『BTS WORLD TOUR 'ARIRANG'』。4月17日、18日の東京ドーム公演を経て、北米、ヨーロッパ、南米、アジアと全34都市85公演を巡る、グループ史上最大規模のツアーだ。日本での開催は、2019年の『BTS WORLD TOUR ‘LOVE YOURSELF : SPEAK YOURSELF’ – JAPAN EDITION』以来、およそ7年ぶり。本記事では18日の公演をもとにその一夜を辿る。
text: Shoko Matsumoto

(P)&(C)BIGHIT MUSIC
360度ステージが作る境界のない祝祭!
今回の演出における最大の特徴は、客席との境界を限りなく曖昧にした360度ステージ。どの席からでもアーティストの熱量をダイレクトに感じられる構造になっている。中央には、韓国でかつて国賓を迎える場であった景福宮の慶会楼(キョンフェル)をモチーフにしたパビリオン。会場全体がひとつの宴として立ち上がっていく。彼らがアイデンティティと語る韓国的な要素が随所に散りばめられた構成だ。

床面には韓国の国旗である太極旗の思想が織り込まれ、四方へ伸びるサブステージとともに、万物の調和を象徴する乾坤坎離(ケンコンカンリ)の哲学が、空間として可視化される。(P)&(C)BIGHIT MUSIC
開演。暗転ののち、ARMYの自発的なウェーブが起こり、ライトスティックの光が波のように揺れる。ダンサーを従えたRM、Jin、SUGA、j-hope、Jimin、V、Jung Kookの7人が、これまでの旅路を歌った「Hooligan」で登場! たちまち会場は歓声で満たされる。続く「Aliens」では円形ステージがせり上がり、「Run BTS」では回転するステージの上で、7人のみで密度の高いダンスを披露。止まらず進み続ける自分たちを象徴しているようだった。

リーダーとしての揺るぎない責任感と包容力。RMの力強いパフォーマンスと丁寧に紡がれる言葉から、7人とARMYが心をひとつにすれば進み続けられるという強い意志が滲んでいた。(P)&(C)BIGHIT MUSIC

家族の訃報を感じさせないほどの気丈なステージ。j-hopeは力強いラップとキレのあるダンスで空間を引き締め、プロフェッショナルとしての覚悟と責任を全身で表していた。(P)&(C)BIGHIT MUSIC
最初のMCでは、自然発生的に起きたARMYの“BTSコール”にRMが「Make some noise!」と応じ、歓声がさらに大きくなる。Jung Kookは「7年ぶりに東京ドームに帰ってきました。本当に会いたかったです!」と率直に語り、Vは「一緒に全力で楽しんでくださいね!」と微笑む。Jiminは「ワクワクします。一生懸命準備したので頑張ります!」と新たなツアーへの意気込みを見せ、SUGAは「今回のツアーでは新しい挑戦をしたので、最後まで楽しんでくれたら嬉しいです!」と手応えをにじませた。Jinは再び「楽しんでくれますよね? Make some noise!」と煽り、j-hopeは「最後まで後悔しないように!」と呼びかけた。ARMYとの再会を確かめ合う、あたたかなやりとりだった。

“ワールドワイドハンサム”の名にふさわしく、Jinが巨大モニターに映るたびにARMYの悲鳴が響く。最年長らしい安定感で場を支えながら、ステージを楽しむ姿が印象的。(P)&(C)BIGHIT MUSIC
「they don’t know ’bout us」では河回仮面(ハフェタル)や目、口などを映し出すタブレットを持ったダンサーと共演し、自分たちの成功を“僕たちはただ僕たちである”とウィットに包む。「Like Animals」では内省的な響きと幻想的なハーモニーで魅了。BTSのグローバルな存在感を一段引き上げた楽曲「FAKE LOVE」では、新たなアレンジでARMYの熱をさらに熱くした。
メンバーは四方のサブステージに分かれ、ARMYのすぐそばで歌う。その距離の近さが、このツアーの性格をよく表していたように思う。アルバムの核となる「SWIM」では白い布を波に見立て、沈み、這い上がる身体の動きで、荒波の中でも立ち止まることなく泳ぎ続ける意志を描く。「Merry Go Round」では美しい旋律と対照的に、メンバーが布に覆われることで閉塞感が表現された。前半は、白を基調にした静かな緊張感のなかで幕を閉じた。

公演の前半で披露された「SWIM」では、神秘的なムードでARMYを魅了。たゆたう白い布と音の波に、身体が飲み込まれるような感覚に。(P)&(C)BIGHIT MUSIC
ダイナミックなパフォーマンスで熱狂のピークに!
VCRを挟み、後半は太極図をモチーフにした演出からスタート。陰陽は赤と青で表現され、相反する2色が混ざり合うことで紫になる。紫はBTSとARMYの信頼と愛を象徴する色だ。そこから現れた7人は「2.0」で変化と成長を提示。「NORMAL」ではRMが「二階、三階も一緒に!」と呼びかけ、無数のライトが波のように揺れた。
続くMCでJung Kookが「これからもっとよいステージをお見せします!」と語ると、以前のインタビューで、その国の流行り言葉でARMYと繋がることが好きだと答えていたVは「ARMYが可愛すぎて滅!」と、その場の空気を軽やかに変える。Jiminは「僕たちが手を挙げたら皆さんも!」と、身体の動きで一体感を促した。

エネルギーが放出されるような、炎と光の爆発的な演出が印象的だった「MIC Drop」。最高潮の盛り上がりに。(P)&(C)BIGHIT MUSIC
「Not Today」「MIC Drop」と続くパートでは、無骨なアレンジと鋭いダンスで圧倒! しかしSUGAは「MIC Drop」でマイクを落とさなかった。それは「まだ終わっていない」「語り続ける」という意思表示のようにも見える。帰還を告げる「FYA」で7人は再び四方のサブステージへ。自由に身体を解き放ちながら、BTSのライブにおいて起爆剤となる「Burning Up(FIRE)」で会場の熱量は頂点へ! 熱狂のなかで、Jiminのしなやかなフリースタイルのダンスがひときわ強い印象を残した。

内面を記録するように紡がれるSUGAのラップ。自身のプロデュース曲ではARMYへの思いを丁寧に届け、音楽を通して絆を確かめ合うような時間を作り出していた。(P)&(C)BIGHIT MUSIC

ダイナミックさのなかに、妖艶でしなやかなパフォーマンスが際立つJimin。一方でMCではチャーミングな笑顔を見せ、そのギャップで観客を惹きつけた。(P)&(C)BIGHIT MUSIC
会場を見渡しながら、Jung Kookが「情熱がすごい!」と口にする。Jinは「ARMYのエネルギーが最高!」と笑う。RMは「ここで熱気を止めるのはもったいない。みんなで一緒に盛り上がってください!」と次の曲へとつなぐ。アルバムのオープニングを飾る「Body to Body」では「ここからは皆さんの声を!」と促し、韓国の代表的民謡「ARIRANG」の一節が会場を満たした。「IDOL」ではステージを降り、アリーナのARMYの間を練り歩きながら会場を一周! より近くでお互いを感じ合う時間だ! 怪我からの回復途上にあるRMはトロッコで移動していたが、それまでのパフォーマンスからは一切の不安を感じさせなかった。むしろその選択すら、ステージに立ち続けるための現実的な判断として映る。
衣装を変え、『ARIRANG (Deluxe Vinyl)』に収録されたボーナストラック「Come Over」を歌いながらフロアから再登場した7人。手を振るその動きは波のようにARMYへと伝わり、会場はひとつになった。
続くMCでRMが「Billboard Hot 100で10週連続1位、隣の家の猫も知っている曲です!」と茶目っ気たっぷりに紹介し、「Butter」へ。会場は自然と大きな歌声で満たされた。「Dynamite」ではVとJung Kookが『呪術廻戦』の“領域展開”を模したパフォーマンスを披露! 広がる大歓声! メンバー同士の小競り合いのような軽妙なやりとりを含めて、会場中を笑顔で満たした。

Vはフランクで自然体なコミュニケーションで、ARMYとの距離を一気に縮める。ステージ上でも観客と同じ目線に立つような振る舞いが、会場に温かな一体感を生んでいた。(P)&(C)BIGHIT MUSIC
「一緒に歌いたい曲はありますか?」というJiminの問いに続き、「どんな曲でも一緒に歌って!」とRM。選曲は舞台監督に委ねられ、イントロが流れるまでメンバーにもわからないというユニークな演出だ。「어서 와, 방탄은 처음이지? (オソワ、バンタンウン チョウミジ?)」=ようこそ、BTSは初めてだろ?」のセリフが響くと、悲鳴のような歓声が轟く。「DOPE」だ! Jung Kookの高音パート「I gotta make it fire baby」のメッセージは鋭く伸び、会場を貫いた。日本オリジナル曲「FOR YOU」ではあえて歌い切らず、ARMYに委ねる時間に。離れていても、君を思い続けると歌うこの曲で、メンバーたちが、歌うARMYを愛おしそうに見つめる姿が印象的だった。

「ARMYに会いたい」と語り続けてきたJung Kook。圧倒的な歌唱力と完成度の高いパフォーマンスに加え、ARMY一人ひとりに目を配るような優しさが光る。(P)&(C)BIGHIT MUSIC
最後のMCでは、Jung Kookが「ARMYの幸せそうな表情からたくさん元気をもらえました!」と語り、次に会う時の自身、そしてグループの成長を約束。Jinは「久しぶりの公演で緊張するかもしれないとメンバーと心配していたけれど、ARMYのおかげで楽しかったです!」と率直に話す。
Jiminは準備した手紙を読み上げながら「軍隊へ行っている間に忘れられていたらどうしようと心配していた」と不安を明かしつつ、「会ってその心配はなくなりました! たった2日だけだったので、あっという間に過ぎてしまいましたね。でも本当に今日が最後なのでしょうか?」と余韻を残し、ARMYの期待に満ちた歓声を誘う。
Vは「今日は本当に幸せでした。ARMYが送ってくれたエナジーが大きな力になった。鉄板焼きを食べたりしながら待っていて。紫(ムラサキ)するよ! また日本に戻ってきます」と末長く愛し合うことを意味する自身の造語を使い再会を約束。RMは「映画館で映画を観るのが好きだ」と言い、「その時間は作品だけに集中する。今日はスマホより自分の目で見てステージを楽しんでくれた。それが嬉しかった。僕たちを映画の中にいさせてくれて、映画の主人公にしてくれました」と語る。
SUGAは「7年ぶりのグループでの公演は、ソロとは違う感覚」と口にし、男性ファンの増加を確かめて満面の笑みを見せた。j-hopeは「マジで約束します、必ずまた戻ってきます。その時は今以上に楽しい時間を過ごしましょう」と繰り返し、再会を強く誓った。

センターの円形ステージはMC中も止まることなくゆっくりと回り続け、360度すべてのARMYへ7人の想いを届ける。(P)&(C)BIGHIT MUSIC
そして公演は、アルバムのように「Please」「Into the Sun」で締めくくられ、「またすぐに会いましょう」という言葉を残して幕を閉じた。

7色の光で包まれた東京ドーム。公演中、ARMYの声を直接確かめるように、何度もイヤモニを外すメンバーの姿が印象的だった。(P)&(C)BIGHIT MUSIC
止まらない進化と挑戦。BTSの新章へ!
印象的だったのは、完璧なパフォーマンスを見せ切ること以上に、ARMYと同じ空間にいる時間そのものを噛み締めているように感じられたこと。7年間の空白をゆっくりと埋めていくように。緻密なダンスで魅せる瞬間と、ARMYと呼吸を合わせて楽しむ時間。その両方が、自然に織り交ぜられていたように思う。
本公演の中枢を担い、これまでの旅路での経験や葛藤、普遍的な情緒が込められたアルバム『ARIRANG』が提示する「泳ぎ続ける」というモチーフ。それは押し寄せる流れに抗うのではなく、状況にしなやかに応じながら、自分たちのペースで進み続けていく姿勢でもある。その考えは、ステージ上でも体現されていたように思う。歳を重ねても同じメンバーで、環境や身体の変化を受け止めながら、緩やかに形を変えていくこと。完璧さだけに固執せず、お互いとARMYとの関係性を健やかに育てていくこと。それは、7人で長く続けていくための現実的な選択であり、同時にメンバーにとっても、ARMYにとっても、無理のない幸福のかたち、すなわちウェルビーイングなあり方なんじゃないだろうか。BTSの第二章は、そうした持続可能性を内包しながら、確かに動き出している。


