カフェインを摂取すると眠くなくなるのはなぜ?
カフェインは、時間と量を上手に管理すれば、睡眠の質も日中のパフォーマンスもアップ。その方法にまつわるQ&Aと、最適な用い方を解説。
取材・文/板倉みきこ 撮影/中島慶子 イラストレーション/荒木颯平 監修/石橋由基(睡眠プライマリケアクリニック池袋・院長)
初出『Tarzan』No.921・2026年3月12日発売

Q.なぜカフェインを摂取するとシャキッとするのか。
A.眠気を促す物質の働きをブロックするから。
「カフェインが、脳内で眠気を促す物質・アデノシンの働きをブロックしてしまうので、脳が覚醒したように感じるからです」(〈睡眠プライマリケアクリニック池袋〉院長・石橋由基さん)
アデノシンは、睡眠にとって重要な物質。カラダや脳の活動が続くと増加し、全身に存在するアデノシン受容体に結合する。その結果、脳内では神経の興奮を抑え、眠気を促し、心臓では心拍数を調整するなど、頭もカラダもオフモードに切り替わっていくのだ。
「アデノシンとカフェインには化学構造上共通する部分があり、カフェインが先回りしてアデノシン受容体に結合してしまいます。その結果全身がオンモードに切り替わり、頭がシャキッとするわけです。カフェインが疲労そのものを回復させるのではなく、疲労の“自覚”を弱めているだけです」

両者は似た土台構造を持ち、分子のサイズや立体的な形が近い。そのため、カフェインがアデノシン受容体に結合でき、アデノシンの作用を邪魔する。
Q.カフェインのメリット、デメリットを知りたい。
A.体質や摂取量によっては、不眠症の原因になりうる。
最近の研究では、コーヒーを定期的に摂取している人のほうが、消化器疾患による死亡リスクが有意に低いことが示され、認知症リスクの低下や糖尿病、心血管疾患を抑える可能性も示唆される。
「さらに持久力向上などの作用も示され、パフォーマンスアップのため上手に摂り入れているアスリートも増えてきました」
もちろん、デメリットもある。カフェインの刺激作用が、心身を回復に導く深い睡眠を妨げてしまうことはよく知られている。
「体質の違いや摂取量の違いにもよりますが、実は不眠症の原因がカフェインだったということも。精神面では、不安や焦燥感が増す場合もあるので要注意です」
【メリット】
覚醒作用、倦怠感の抑制、消化促進、認知機能低下のリスク軽減、発がん予防、スポーツパフォーマンスの向上……
【デメリット】
睡眠効率の低下、不眠症、頭痛、不安、イライラ感、心血管系への悪影響、中毒症状……
※上記メリット、デメリットには因果関係が完全に示されていないものもある。
Q.カフェインの適量って決まっているの?
A.世界基準を日本も推奨。ただ、個人差も考慮を。
アメリカ食品医薬品局(FDA)などの基準によると、健康な成人では1日400mgまでを概ね安全と評価。一般的な量のレギュラーコーヒーなら、1日4〜5杯程度だ。また、1回に多量摂取すると急性毒性の心配もあるので、その点も考慮。世界基準では、1回200mg以内が安全目安だ。
「日本もその量を目安にしていますが、体格など個人差がありますし、日本人は欧米人に比べ、アルコール同様カフェインの代謝も遅い、とされる説もあります。なので、睡眠外来で相談に来る人には、1日200mgまで(コーヒー2杯)を推奨しています」
カフェイン摂取の1日の目安量。
健康な成人で400mg(コーヒー4〜5杯程度)
カフェイン摂取の1回の目安量。
3mg/kg(体重)なら急性毒性の懸念なし
たとえば、体重70kgの健康な大人だと、1回当たりの摂取量が200mg(コーヒー2杯程度)を超えると、安全性に懸念が出るということ。
参照/アメリカ食品医薬品局、カナダ保健省、欧州食品安全機関の提唱
Q.人によって効きやすい、効きにくいってあるの?
A.効く=感受性が高い。効きにくい=代謝が速い。
カフェインは、主に肝臓の酵素で分解される。速く分解できる人は効果が短く、分解が遅い人は効果が長く残り、不安や不眠が出やすいという傾向が見られる。
「両親の体質に似ることも多いです。遺伝的タイプによって、同じ量でも不安感が強く出る人もいて、敏感な人は少量のカフェインでも睡眠障害になる可能性が」
妊娠中は代謝が大きく遅くなり、加齢でも代謝のスピードは遅くなっていくので、少量でも残りやすいことは知っておきたい。
「10代〜20代は代謝が比較的速いとされていますが、若いうちにカフェインに多量に曝露すると、依存傾向や使用量増大が起こりやすいことが指摘されています。また年齢にかかわらず、カフェインと多量の糖分が入ったエネルギードリンクは、中毒性が高い飲み物だと認知してほしいです」
睡眠の質を妨げない、カフェインマネジメント。
メリットがあっても、睡眠の質を下げてしまったら本末転倒。最新の知見を基に導き出したのは、自分に合う量と、睡眠に悪影響を及ぼさないタイミング(時間)の2軸で行う調整法。カフェインとうまく付き合う、自分の最適解を導き出そう。
量|コーヒー以外の含有飲料、食品も洗い出す。
日常的にコーヒーなどのカフェイン含有飲料や食品などを摂取し、睡眠の質に悩みを抱えているなら、1日のカフェイン摂取量を合計200mgに抑えたい。
「無意識に摂っていることが多いので注意が必要。自分はコーヒー2杯しか飲んでいないと思っていても、ほかのカフェイン含有飲料を飲んでいることがよくあります。また、慢性摂取すると耐性ができ、効果を求めて量が増えてしまうのもカフェインの特徴です」
下のカフェイン含有量を参考に、自分が1日にどれくらい摂取しているか意識的になろう。実はカフェインレスコーヒーもゼロではないので、敏感な人は含有量をチェックしてから飲むように。
「摂取量を調節しながら、睡眠の質の変化を確認してください」

参考/「日本食品標準成分表2020年版(八訂)」(文部科学省)など。※製品や、浸出方法により内容量は異なる。
健康に悪影響を及ぼさない1日のカフェイン量200mgの目安例
- コーヒー:2杯程度
- 紅茶:10杯程度
- 緑茶やウーロン茶のペットボトル:500 mLを2本
100mL換算では少量に思えても、緑茶やウーロン茶、インスタントコーヒーなどは飲みやすいので、飲む量が嵩み、カフェイン摂取量も増えがち。
タイミング|カフェインの作用を知り、摂取時機を調整。
研究によれば、血液中のカフェイン残留量が50mgで睡眠の質に影響するという説がある。カフェインは、摂取後30分〜2時間後に血中濃度のピークを迎え、その後代謝されて2〜8時間後に半分になり、さらにゆっくり減少する。この作用を理解したうえで、摂取のタイミングを調整したい。
「個人差があるので一概には言えませんが、就寝時間の8時間前には摂取を控えるのが得策です。外来では、午後3時以降は控えるよう伝えています。また、朝の目覚めに使いたいなら、仕事など覚醒したいタイミングに合わせ、血中濃度のピークから逆算して飲むといいのでは。大事なのは、眠気覚ましをカフェインに頼らないこと。睡眠の質を高めていけば、量も回数も減らせるはずです」
カフェイン摂取のタイミング
- カフェインの血中濃度は飲んで30分〜2時間後ピーク
- カフェインの濃度半減時間は飲んで2〜8時間後
- 眠る前に血液中に50mg以上のカフェインを残さない
ついでに知っておきたい、ニコチンやアルコールの影響。

コーヒーと同じ嗜好品、タバコやアルコールが及ぼす睡眠への影響も考慮。
「日本は寝酒文化が根強く、睡眠薬に頼るよりお酒がいいと思っている人が多い印象です。アルコールは寝入りを早くしますが、眠りは浅くなる。さらに耐性ができるので、入眠効果を得ようとどんどん量が増えてしまいます」
ニコチンのリラックス作用を求め、夜の一服が欠かせない人も要注意。
「実はニコチンは覚醒系を活性化させる作用があるので、寝つきを悪くし、深睡眠を削り、夜中に目が覚めやすくなります。睡眠に悩みを抱える愛煙家には、夕方以降は吸わないようにとアドバイスしています」
嗜好品と睡眠の関係を知り、上手にコントロールしていこう。
睡眠の質を上げるコーヒーマネジメント
- 摂取量は1日トータル200mg程度に。
- 朝の1杯のタイミングは、血中濃度のピークから逆算。
- 摂取は午後3時までとする。
睡眠時の血中カフェインが50mgより少なくても、深い睡眠が減ったり自律神経が変化するというデータもある。3つのルールを基に、自分の睡眠×カフェインの最適解を導き出そう。


