
シューズ《FuelCell Rebel v5》 16,940円、トレーナー 9,900円、Tシャツ 4,950円、タイツ 11,990円、以上ニューバランス、問い合わせ先:ニューバランスジャパンお客様相談室



文・小澤匡行
ニューバランス社からお誘いを受けて、スポンサーしている名古屋シティマラソンのハーフに出場することになった。1年半ぶりのレースに向けて残された準備期間は約1ヶ月半。少しずつ走行距離を伸ばし始めたものの、年始から春にかけて、僕の仕事はまずまずの繁忙期になる。フルマラソンの半分とはいえ、満足できる走りをするには、ちょっと時間が足りない状態だった。
ブランドから用意してもらったシューズは《フューエルセル レベル v5(FuelCell Rebel v5)》。カーボンプレートは非搭載で、いわゆる反発系のデイリーシューズに分類される。軽いけど、ちゃんと厚底で、反発もしっかり、を叶えた万能タイプだ。レースや大会で尖るよりも、日々のランニング強度を安定させる靴。自分の走りを理解して、少し上の目線で返してくれる靴。この手のシューズは、靴と自分が一致するために、どのくらいの距離が必要なのか見えにくい。シューズの素材が馴染むことと、それに足側が適応すること、2種類の慣れがある。感覚的だが、いつも20〜30km走ると、クッションと反発のバランスが整って、ようやく靴のことを理解し始める。足と一体化しているかどうか。違和感や痛みを覚えると「ちょっと違うかも」と不安になる。まだ様子を見て長く付き合う意思をみせるか、別のシューズに履き替えるか。まるで人と人との相性を品定めしている感覚だ。自分の脚(筋肉や腱)は年齢とともに衰えるばかり。ランニングシューズがどれほど進化しても、すべてが自分に寄り添ってくれて相性抜群! など過剰な期待をしてはいけない。どれほど万能型といっても、シューズにだって個性がある。そして履き主を選ぶのだ。
前回のレガシーハーフマラソンは、トップランナーが履くためのスーパーシューズ《フューエルセル SC エリート v4》を買って臨んだ。カーボンプレートがフルレングスで搭載された40mmの厚底。試走が不十分なままレースに入ったが、靴のポテンシャルで十分に押し切れると思っていた。結果的に17km地点で両脚が攣ってしまった。靴に見限られたというか、波が引くように自分の力が消えていったのを実感したのである。マラソンはじわじわとペースが落ちるのではなく、ある種の臨界点なようなものを超えると、足と靴の均衡がふいにほどけ、一瞬で崩れることを学んだ。日々の練習はその限界ポイントを後ろにずらすことでレース耐性を高めていく作業と思うと、なるほど計画性と効率は重要である。
他社と比較すると〈ニューバランス〉は足が主役、その延長に靴がある気がする。存在感の強い厚底シューズは靴に乗り、靴に運ばれるような感覚を楽しんでいるが、〈ニューバランス〉は出力をそのまま引き出す写鏡のような設計だ。PEBAとEVAをブレンドしたミッドソールのFuelCellは反発の立ち上がりがマイルドで、自分の速さをコントロールしながら引き出してくれるタイプ。一般的なレビュー記事は「軽い」とか「足が前に出る」や「幅広いペースに対応する」といった肯定的なテーマとして反復されるが、《フューエルセル レベル v5》は速さを買う目的ではなく「自分が崩れにくい」特徴をもったシューズだと思う。
2月は国内外の出張が続いて、あまり走る時間はとれなかったが、ミラノ滞在中にも15kmほど走る機会があった。石畳が多く、路面が凹凸している不整地では、過度に浮いたようなクッションシューズは怖さがあるが、これは安定感の高さが際立った。出張中の練習不足は否めず、本番までの残り1週間も慌ただしく過ごすまま名古屋に入ったが、大会当日はシューズに引っ張られることを求めず、自分の出力に対応するようにスピードを組み立てられた。そして鬼門だった15〜18kmを快適に通過できたのは収穫だった。しかし残り3kmの局面では、一歩一歩のコストがすごく上昇したように感じ、足がどんどん鈍くなっていった。この矯正というか対策は、シューズではなく、筋持久力の問題と捉えている。ただ、もっと走り込みが必要であることも靴が教えてくれた。
僕の日常のランニングは極めて内省的で、走ることで感じることや、心身の変化にもたらす意味を考える時間で、その時間に適したシューズを探すことを楽しんでいた。しかしレースを前にするとシューズとの関係性が変わる。主観を受け止めて、自分を写すための道具が、パフォーマンスを左右する要素として、より具体的、機能的に相性を考えるようになる。それを前提に走ると、自分とシューズの関係がセンシティブになるが、それも現代のランニングの楽しみ方だろう。しかし本当にしんどいレースの時間帯は、内省との戦いだ。自分の内側に意識を向け、感覚を残しながら走る折り合いをどうつけていくのか。その答えのヒントに〈ニューバランス〉が、《フューエルセル レベル v5》があると思う。






