上手に使えば強い味方に!スポーツの現場で活きる東洋医学。
自己記録更新を目指して走り続けるランナーから、ジム通いに励むトレーニーにまで、漢方と鍼灸は有用。末長く運動を楽しむためにも、上手に賢く活用したい。
取材・文/神津文人 イラストレーション/サイトウユウスケ 取材協力/矢嶋浩平(クラシエ薬品)、今野壮大(明治国際医療大学鍼灸学部講師、アスレティックトレーナー)
初出『Tarzan』No.919・2026年2月12日発売

漢方|“効く薬”。だからこそ、扱いは戦略的に。

筋肉の痙攣、こむら返りに効く、芍薬甘草湯を愛用する、持久系スポーツ愛好家は案外多い。
漢方は「薬」。アスリートはドーピングの恐れも。

一般人にはあまり関係がないが、アスリートの場合は禁止物質を含んでいないかを注意する必要がある。
病院処方だけでなく、ドラッグストアで購入することもできる漢方薬だが、健康補助のためのサプリメントではなく薬であることを忘れてはならない。
「たくさん飲めば効くというものではありません。用法・用量の記載を確かめて、その指示に従ってお飲みください。併用する場合は医師、薬剤師または登録販売者にご相談ください」(クラシエ薬品の矢嶋浩平さん)。
また、漢方薬にも禁止物質が含まれていることがあるので、アスリートは注意が必要だ。
「麻黄」を含む漢方薬に要注意!
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葛根湯 |
エフェドリン類を含み、競技によっては使用禁止になることがある |
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麻黄湯 |
風邪薬として有名だが、アスリートは原則NG |
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小青竜湯 |
花粉症・鼻炎で使われるが、試合期は避けたほうがよし |
ランナーを困らせる、4つの悩みに。
まず試したい4処方。スポーツに励んでいる人たちが活用しやすいのが、下の表に挙げた5つの漢方薬だ。
「マラソンなどで脚がつったときには芍薬甘草湯、過度な運動で疲れが溜まったときには補中益気湯、膝や股関節などの長引く関節痛には疎経活血湯、打撲には桂枝茯苓丸や桃核承気湯がよく活用されています」(矢嶋さん)
ドラッグストアで購入できる漢方薬には、パッケージの表面に特徴的な体質や症状が大きく記載されている。それも参考にしよう。
| 脚がつる | ・芍薬甘草湯(しゃくやくかんぞうとう) 急なこむら返りに |
| 疲労感が抜けない | ・補中益気湯(ほちゅうえっきとう) 酷使後の「気」を補う |
| 関節・筋肉の痛み | ・疎経活血湯(そけいかっけつとう) 炎症+瘀血タイプの痛みに |
| 打撲・ぶつけた | ・桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん) ・桃核承気湯(とうかくじょうきとう)系 瘀血タイプの痛みに |
メンタルとお腹も“パフォーマンスの一部”。
試合前に眠れなくなる人もいるだろう。
「神経症・不眠症などでお困りなら、抑肝散、柴胡加竜骨牡蛎湯、柴胡桂枝乾姜湯があります。抑肝散は気持ちが高ぶって興奮が鎮まらない方、柴胡加竜骨牡蛎湯は強い緊張(張り詰める・落ち着かない・不安)で眠れない方、柴胡桂枝乾姜湯は不安や心配で気持ちが疲れてしまい眠れない方におすすめです。また、緊張やストレスによって起こった腹痛や下痢には桂枝加芍薬湯という漢方薬もあります」(矢嶋さん)
Q. 試合やレース前に、漢方薬を飲んでも大丈夫?
初めての漢方薬を本番で試すのはNG。練習日から飲み始めて体調や眠気の有無をチェックしよう。異変があればすぐ中止し、医師や薬剤師または登録販売者に相談を。
Q.何種類まで一緒に飲んでいい?
自己判断での“多剤づけ”は禁物。2処方以上の服用による、生薬の重複や副作用を防ぐため、医師、薬剤師または登録販売者に必ず相談を。
一般人にはあまり関係がないが、アスリートの場合は禁止物質を含んでいないかを注意する必要がある。
鍼灸|プロは当たり前に使う、回復の一手。

トップアスリートたちも、コンディショニングに鍼灸を活用している。我々も活用しない手はない。
プロスポーツの現場では鍼が「標準装備」になっている。

肩〜肩甲骨まわりのツボに鍼を打つと、投球やスパイクで酷使した筋肉のこわばりがふっと緩む。オーバーヘッド動作のコンディショニングに欠かせないエリア。
プロ野球やサッカーの現場でトレーナーとして活躍した経験のある、アスレティックトレーナーで鍼灸師の今野壮大さんによれば、プロ野球選手は日常的に鍼灸を活用しているという。
「トレーニングや試合が終わった後にメンテナンスとして鍼を打つというのが、当たり前に定着している印象です。選手たちも鍼を非常に身近なものだと感じていると思います。特に投手は、肩や肘の周辺の筋肉の張りや重だるさを解消するのに鍼灸を上手く活用していますね」(今野さん)
手技では届かない深層へ。痛みがあるときの安全策にも。

特定のツボを狙い打ちできるのも鍼灸の魅力。膝の外側から指4本分下にある足三里は、健脚ツボとして知られる。
たとえば、筋肉に凝りや張りを感じたとき、マッサージやストレッチといった選択肢もあるが、鍼には鍼にしかないメリットがある。
「深層の筋肉、小さな筋肉にピンポイントでアプローチできるのが鍼の特徴です。アスリートは厚い筋肉をまとっているので、部位によっては手技だけで深層に届かせるのは難しくなります。また、痛みがあって筋肉や関節を大きく動かすのが難しかったり、強い刺激を避けるべきときも、鍼なら問題ありません」(今野さん)
痛みだけじゃない。女性アスリートや、日々のコンディションにも。
ドーピングの問題があるため、アスリートは迂闊に薬に頼ることができない。だからこそ、さまざまなトラブルにアプローチでき、コンディショニングにも役立つ鍼灸が重宝される。
「女性アスリートの月経による諸症状(頭痛や腹痛、重だるさ)を緩和する手段としても鍼灸が注目されています。ほかにも、目の疲れや不眠を解消するのに鍼灸は有効ですし、自然治癒力を促す効果も。薬に頼らないケアの一つとして活用してもらえればと思います」(今野さん)
Q.どんな人が鍼灸に向いてる?
関節や筋肉を大きく動かしたり、強く押したりすることなく、刺激を入れられるのが鍼灸の魅力。患部を動かすと痛むという人は、まず鍼灸を試してみるといい。
Q.スポーツ鍼灸師の選び方は?
ネット上の口コミはあまりあてにならず、確実なのは知人の紹介。運動による痛みの場合は、トレーナー資格などを持つ鍼灸師の方が相談しやすいのは間違いない。


