坂本勇人(野球)「野球が上手くなりたい、 本当にそれだけです」
本誌で長年にわたり続くアスリート連載「Here Comes Tarzan!」のスペシャル版。プロ20年目、坂本勇人が見る景色とは。(雑誌『Tarzan』の人気連載「Here Comes Tarzan」〈2026年3月26日発売〉より全文掲載)
取材・文/吉澤裕亮 撮影/下屋敷和文
初出『Tarzan』No.922・2026年3月26日発売

Profile
坂本勇人(さかもと・はやと)/1988年生まれ。186cm、86kg。内野手(右投げ・右打ち)。光星学院高校から2006年、高校生ドラフト1巡目で巨人に入団。右打者として最年少での通算2000安打達成、NPB初のショートでの2000試合出場達成など、数々の記録を打ち立てた“ジャイアンツの顔”。
“うねり”のイメージが湧きづらくなっている。
トレーニングルームでバットを振る下の写真を見て、目の肥えたプロ野球ファンは違和感を覚えたかもしれない。プロ野球選手がバットを振るのは、球場や室内練習場、スイングルームであることがほとんどだからだ。しかし、これは撮影のためのサービスではなく、今年でプロ20年目となる坂本勇人にとってごく当たり前の風景である。春季キャンプでもシーズン中でも、坂本は一番乗りで球場入りする。

「最初にストレッチやエクササイズ、コア(体幹)の種目をやってからウェイトトレーニングをやります。下半身の日もあれば、上半身の日もあって、背中、肩、腕の日と分けたり。朝はそんなメニューを2、3種目やって、初動負荷トレーニングを入れる日も。それをしているとあっという間に2時間くらいは経ちますね。練習が終わったら、朝とは違うしんどい種目をまた2、3種目やって。そこから細かい動きの確認やウォーターバッグの種目、最後にまたコアの種目をやっていきます」
そして、時にはバットを手にして鏡の前でスイングをする。気になる動きがあれば、すぐにその部位のトレーニングを始めるそうだ。ここまで時間をかけるのは、長年プレーすることでカラダにさまざまな変化を感じているから。

「年齢とともに、カラダの変化は感じますね。特に胸郭まわりが硬くなってきたのはすごく感じます。僕はどちらかというと柔らかく打ちにいきたいので、どうしても。なんていうんだろう、“うねり”というか。うねり、ひねりっていうカラダのイメージが湧きづらくなってきているのは間違いない。だから胸郭の柔らかさを出すことを意識したメニューを入れています。でもバッティングって、これをしたからすぐ良くなるってものではないんですけどね」
もう一度、活躍したい。ジャイアンツの中心で戦いたい。
19年間で積み上げた実績はまさに唯一無二。カラダの変化に伴い、達成感や“燃え尽き”を感じることはないのだろうか。

「それが、あんまり変わらないんですよね。自主トレでもキャンプに入る時もそうですけど、野球上手くなりたいなと思って。朝早く行ってケアするのもそうで、いい状態で練習をやりたいので。ただそこだけですね。活躍しなきゃいけないという不安もありますけど、もっともっと野球が上手くなりたい、試合で結果を出したい。本当にそこだけですね、僕は」
宮崎キャンプで巨人軍を撮影したカメラマンは「坂本選手はどこにいるかすぐに分かる」と言う。言葉では説明できないオーラがあるのだという。坂本がバッティング練習を始めればファンは注目し、練習場所を変えればファンも移動を始める。これが20年間ずっと、坂本勇人という野球選手を取り巻く当たり前の風景だった。「しんどくないのかな……」、撮影しながらカメラマンがつぶやいた。

「いや、それをしんどいと思ったことはないですね。僕が動くとお客さんも移動するとか、そういうのは本当にありがたいと思います。でも、そこに気持ちが左右されることは一切ない。本当に自分のレベルアップのことしか考えていないんで。でも、まったく誰も移動してくれなくなったら寂しくなるかもしれないですけど(笑)」
昨年秋から巨人軍の取材を続けてきた中で、ひとつ強烈に印象に残ったシーンがあった。昨年11月『ジャイアンツファンフェスタ2025』で行われた、盟友・長野久義の引退セレモニー。花束を手渡した坂本は大粒の涙を流しながら、長野と抱き合った。その姿を間近で見て、どうしても聞きたくなった。すでに球史に名を刻む稀代の選手が、この先の選手生活にどんな道筋を描いているのかを。

「それは……想像が湧かないですね。イメージもしていない。ボロボロになるまでは、多分やらないですけど(笑)。でもやりたいと思うかもしれないし、今はまったくイメージしていないです。本当に今はとにかく、レギュラーで試合に出て、もう一度ちゃんと活躍したい。ジャイアンツの中心で戦えるような成績を残せるように、頑張りたいと思っています」



