和田由紀子(バレーボール)「世界と比べて負けない オポジットになりたい」

昨年の世界選手権で活躍した彼女だが、ここに至るまでの苦悩は大きく深かった。彼女のこれまでと、これからを聞いた。(雑誌『Tarzan』の人気連載「Here Comes Tarzan」〈2026年2月26日発売〉より全文掲載)

取材・文/鈴木一朗 撮影/中西祐介

初出『Tarzan』No.920・2026年2月26日発売

和田由紀子_バレーボール
Profile

和田由紀子(わだ・ゆきこ)/2002年生まれ。174cm。京都橘高校2年時に、U18世界選手権の日本代表に。3年時はコルナッキアワールドカップ2019優勝。20年、JTマーヴェラス入団。23年、日本代表に初選出され、同年のネーションズリーグに出場。24年、NECレッドロケッツ川崎へ移籍。同年、パリ・オリンピック、ネーションズリーグ出場。25年、世界選手権4位。NECレッドロケッツ川崎所属。

試合では常に、自分が点を取りたいという気持ちでいる。

バレーボール女子日本代表でアウトサイドヒッター、オポジットとして活躍するのが和田由紀子だ。オポジットとはセッター(主にトスを上げるのが仕事)とは対角線上に位置するポジションで、その特徴は攻撃に特化していることである。

和田は身長174cmとバレーボール選手としては小柄だが、スパイクの爆発力は群を抜いているし何より勝負強い。昨年行われた世界選手権の準々決勝のオランダ戦では、両チーム最多の27点を挙げ、日本を勝利に導いた。

フルセットまでもつれ込んだこの試合で和田は、日本が苦境に陥った場面でことごとく得点を決め、反撃のチャンスを作った。ジャンプサーブも大きな武器で、サービスエースを4本決めた。この大会では惜しくも4位だったが、試合前に彼女はどのような準備をしているのか。

和田由紀子_バレーボール

「できるだけ不安を残さずに試合に行きたいんです。そのためには、できるようになりたいことを、できるようになるまで、やり続けていくことが大切です。練習でミスが出てしまうことはたくさんある。ただ、試合になって大事な場面で決め切るためには、自分にとって必要なことを何回もやる練習であったり、時間をかけることが必要だと思っています。大会前は特になんですが、不安の解消を練習でどれだけできるかということを意識してやっています」

不安材料が少なければ、それだけ自信を持って挑める。そして、それが力強いプレイに繫がっていくのであろう。実際に試合となったときは、こんな心境にもなっている。

和田由紀子_バレーボール

「どんなときも、一番活躍したいと思ってやっています。チームが苦しい状況になったら、自分が決めたい。他の人が決めてくれるのもすごく嬉しいんですけど、それだとやっぱり物足りなさがあったり、達成感が得られなかったりもする。だから、試合では常に自分が点を決めたいという気持ちでいるんですよね」

強気である。トップには大切な要素だろう。しかし、和田は最初からこんな気持ちで競技を続けてきたわけではない。実は、多くの時間を劣等感に苛まれた。そして、少しずつ強い精神力を培ってきたのである。

上手い人がいっぱい。勝てないと思った。

小学校4年時にバレーボールを始める。ロンドン・オリンピックの江畑幸子に憧れたという。小学校では全国大会に出場、高校は強豪・京都橘高校へ進学。2年のときに、U18の世界選手権に、日本代表として選出された。

3年にはキャプテンとして、ワールドカップ優勝へとチームを導き、最優秀選手にもなっている。まったくもって、輝かしい戦績であるのだが、和田自身はそのような捉え方はしていなかったようだ。

「自信がなかったんです。アンダー(U18)に呼んでもらったときも、試合に出たときもずっと不安で。上手い人がいっぱいいて、そういう人たちには勝てないと思っていました。キャプテンなんかも他の人がいいって考えていましたし、代表なんて目標にする以前の段階で、残っていられるはずがないと感じていました」

だから、高校卒業後の進路には悩んだ。実業団のチームに入って、本当にやっていけるのであろうか。他にも別の道があるのではないか。

和田由紀子_バレーボール

「バレーボールを長く続ける自信もなかったですし、大学に行こうかとも思ったんです。大学に行けば勉強もあるし、いろんなことをたくさん楽しめる。バレーボールは、あと4年間やってやめようかなって。やっぱり、企業のチームだと一日中練習だから、それがイヤだったんですね(笑)。ただ、最終的には高校の監督とか両親には、企業を選んだほうが恩返しできると決断したんです」

V1リーグの〈JTマーヴェラス〉に入団。1年目から多くの試合に出場する。やはり実力はずば抜けていたのだ。本人のみが、それを理解していない。が、実業団のチームに入り、しっかりと厳しさも学んだ。

「仕事としてバレーボールをやるのなら、常に上を目指しなさいという言葉を監督をはじめいろんな人にかけてもらって。今は日本代表が一番上だと思えるんですが、その頃はチームで活躍できればという程度。代表入りは頭になかったです」

すべての基準を世界のトップ選手にして、続けていくことが重要。

4シーズンをこのチームで過ごし、現在所属する〈NECレッドロケッツ川崎〉へと移籍。ここで、ひとつ貴重な出会いがあった。それが、チームの強化戦略コーディネーター兼パフォーマンスアーキテクトの里大輔氏だ。

さまざまな競技で指導を行ってきた里氏は、動きを言語化して説明する。それまでは抽象的に言われていたことが明確になり、具体的な答えを出せるようになった。

和田由紀子_バレーボール

「それだから感覚に頼っていました。調子がいいときは高く跳べる、なんて。でも、高く跳ぶためには何が必要で、だから日々の練習で何をしないといけないのかということがわかった。試合当日のコンディション頼りじゃなくて、それを自分で作り上げるということを、今もまだすごく勉強できていると思います」

日々のチーム練習、火曜日と木曜日の筋力トレーニング、そして毎水曜日に里氏のトレーニングだ。「頭も使いますから、水曜日が一番きついです」と、笑う。これで、土・日曜日は公式戦なのだから厳しい。

今の女子日本代表は本当に強くなった。だがそれでも、前述したが世界選手権では4位だった。3位決定戦でフルセットの末、ブラジルに敗れた。日本代表チームには、いったい何が足りなかったのだろう。

和田由紀子_バレーボール

「一番はやっぱり金メダルを目指して練習してこなかったことです。まずは、メダルが目標って感じになっていた。でも、他の国の選手は代表期間以外、いろんなリーグでやっているときも、いつも金メダルが獲りたくて、世界で一番になりたくて練習していると思うんです。それが、私たちには足りない、そして甘いところだったということですね」

和田個人としては、自分の何を伸ばしていこうと考えているのか。

「日本のチームで活躍するオポジットじゃなくて、世界と比べたときに負けないオポジットになりたい。ボールを拾ったり、ディフェンスや繫ぐ部分は大事にしています。でも、オポジットはやっぱり攻撃ですから。得点を挙げられるようになりたい。そのためには、チームで毎日練習するなかでも、これが世界のチームでも決まるのかとか、すべての基準を世界のトップ選手にして、それに負けないように続けることが重要だと思っています」

今シーズンはケガにより出遅れた和田だが、チームは好調だ。今後の活躍を期待して見ていただきたい。