22人の名医に聞く!酒に呑まれないための自己管理術。
肝臓・腎臓・膵臓治療の最前線にいる医師。知識を総動員してカラダにいい飲み方を実践しているに違いない、と名医たちを直撃。飲む頻度から、好きな銘柄、意外なお酒の失敗談まで、22人の名医たちのお酒のリアルを丸裸にしました。
取材・文/石井 良 撮影/園山友基 イラストレーション/谷端 実
初出『Tarzan』No.916・2025年12月11日発売

お酒好きな名医の自己管理方法とは?
多忙な生活を送る名医たちは、どのように酒と付き合っているのか。アンケート調査を集計すると、プロならではの工夫に満ちた、合理的な姿が浮かび上がってきた。
名医だって毎日飲む。
まず押さえておきたいのは、名医たちは決して「禁酒一択」ではないということ。週当たりの飲酒回数は平均4.11回。なかには休肝日を設けず週7日飲むと答えた医師も4人いた。
ただし大事なのは、しっかり自己管理ができている点。「日本酒換算で2合まで」(自治医科大学分子病態治療研究センター抗加齢医学研究部教授・黒尾誠さん)、「1回30分以内に飲み終える」(麻布医院院長・髙橋弘さん)など、明確な自分ルールを設けることでアルコール量をコントロールしている。彼らにとって飲酒は日常のルーティーンの一部であることが分かる。

飲酒が人生を豊かにする要素でありながら、同時に健康上のリスクもあることを理解し、個々人の「適量」を見極めている結果だ。
家では控えめに、外ではしっかり飲む。
飲酒1回当たりに摂取する純アルコール量を比べると、家飲みは平均約24・2g、外飲みは約60.8gと、実に2倍以上の開き。その差は偶然ではない。名医たちは、家飲みを「仕事終わりのリラックスやパフォーマンス維持」、外飲みを「社交やイベント」と位置づけ、役割ごとに飲み方を切り替えている。感情ではなく、目的でアルコールをマネジメントしている名医たちの視点がよく表れている。
家で飲む量

外飲みで飲む量

家飲みの場合、飲酒量は純アルコール量換算で20g台が最多。一方、外飲みの場合は最多が40g台と倍以上の開きがある。
純アルコール量の換算表

名医の半数は家飲み派。
アンケートでは、家飲みの頻度が外飲みより多い「家飲み派」が半数以上を占めた。「少しお酒が入った方が論文執筆がはかどる」(虎の門病院消化器外科部長・進藤潤一さん)、「酔って帰宅するのが面倒。外飲みは衛生面が気になる」(麻布医院院長・髙橋弘さん)など、理由はさまざまだが、どの理由にも名医の合理性が見える。酔いたいから飲むのではなく、飲酒を「生活を豊かにし、質の高い仕事を生むための手段」と捉えているのだ。

名医たちが家飲みを好む理由には、健康管理、酒量のコントロールのしやすさ、効率性、快適さなどが深く関わっているようだ。
休肝日は平均週2日。

休肝日は平均2.45日。とはいえあくまで平均値。「週の適量を超えない範囲であれば休肝日は不要」(栗原クリニック東京日本橋院長・栗原毅さん)というスタンスや「翌日の仕事に影響が出ないようにするため、基本的に平日は飲まない」(ヨナハ丘の上病院理事長・伊佐地秀司さん)というようなルールを設けている人までさまざま。
“飲むか、飲まないか”の二択ではなく、自分の健康観に合わせた適切な飲酒が大切だ。
カラダにいいお酒はある?
“悪影響を少しでも減らせる酒”はあるという。判断基準は、「純アルコール量を調整しやすいか」と「糖質・プリン体が少ないか」の2点。蒸留酒やワインを支持する意見が多かった。
一方で、「種類ではなく結局は純アルコール量の問題」(虎の門病院消化器外科部長・進藤潤一さん)と、酒そのものの善悪を語ることに慎重な医師も少なくない。いずれにしても、「どれだけ飲むか」に重心を置いて考えたほうがよさそうだ。

「翌日に残りにくいと感じる」(自治医科大学分子病態治療研究センター抗加齢医学研究部教授・黒尾誠さん)と焼酎、「低度数だから」(JA尾道総合病院副院長・花田敬士さん)とビール、「ポリフェノールに富む」(虎ノ門ヒルズレジデンシャルタワー健康相談クリニック院長・川村哲也さん)という理由で赤ワインが人気。純アルコール量を適切に守ることが健康への近道!
名医が選ぶ酒の金言。
お酒にまつわる言葉の選び方にも、名医のバランス感覚がにじむ。その一部をご紹介。
「ワインの中に真理あり」
お酒を飲むと本音や隠された真実が表に出やすくなることを表した「In vino veritas」というラテン語の諺。「飾らない言葉で話せる時間は、人と人との距離をそっと縮めてくれます」(板橋中央総合病院副院長・小松康宏さん)。
「酒に十の徳あり」
「適量を守って飲めば、お酒には延命や人との交流を促すなど、10種の長所があるという意味の言葉です」(久留米大学医学部内科学講座消化器内科部門主任教授・川口巧さん)。人生を豊かにする酒の効能を列挙した先人の知恵。
「アルコールは人間にとって最悪の敵かもしれないが、聖書には敵を愛せと書いてある」
アメリカを代表する歌手・俳優であるフランク・シナトラが、愛飲するアルコールへの愛着をユーモラスに表現した名セリフ。「最悪の敵をも取り込もうとしてる感じが好きです」(用賀きくち内科肝臓・内視鏡クリニック・菊池真大さん)。
名医が実践する家飲み術。
健康のプロである名医たち。カラダを知り尽くした彼らは、決して酒に飲まれることはない!? パフォーマンスを維持するルールと哲学、彼らの家飲みの実態はいかに。
おうち酒の極意。
名医たちは、自己管理の達人だ。健康維持と酒量コントロールのため、各人の工夫が垣間見える。
「飲んだ後は15分歩く」(久留米大学医学部内科学講座消化器内科部門主任教授・川口巧さん)、「甘くないチューハイを選び、氷を入れたグラスに移して飲む」(栗原クリニック東京日本橋院長・栗原毅さん)、「最初から飲む量を決め、その量を飲み終えたらノンアルに切り替える」(アシュラスメディカル代表・浅部伸一さん)など、独自のルールを作り、意志固く守っている人が多い。
一方で「家飲みはしない」と決めた医師も。「ソファなどで寝落ちしてしまうと睡眠の質が下がる」(虎ノ門ヒルズレジデンシャルタワー健康相談クリニック院長・川村哲也さん)、「生産性の低下、健康リスクから自宅ではほとんど飲まない」(JA尾道総合病院副院長・花田敬士さん)という。
酒に飲まれず、健康や生産性の維持という観点から合理的に判断するのが、名医の極意だ。
家飲み平均時間76分。
「食事をしながらゆっくり飲む」(板橋中央総合病院副院長・小松康宏さん)という人もいれば、「ダラダラ飲むと、いつの間にか酒量が増えるので、通常は30分以内で飲み終える」(麻布医院院長・髙橋弘さん)という人もいた。平均すると、食事と合わせてゆっくりお酒を飲む名医が多い結果に。

時間管理が酒量と健康のコントロールに直結する。閉店や帰宅がない自宅だからこそ、長くても120分までに収める名医がほとんどだった。
名医が家に常備するお酒をチェック。
家にストックしているお酒は日本酒が最多。次いで定番のワイン、ビール。その選び方には、“酒に飲まれない”ための戦略があった。独立行政法人地域医療機能推進機構東京蒲田医療センター・永井英成さんは、純粋なエタノール換算量を増やさないため「アルコールは6%以下」を徹底。
自治医科大学分子病態治療研究センター抗加齢医学研究部教授・黒尾さんは「日本酒は1mL当たり2円、ワインは3円を超えない範囲で美味しいものを」と経済性にも気を使っているそう。名医たちが実際に家に常備するお酒を紹介しよう。
日本酒

1.龍力 純米大吟醸 秋津
最高品質を求め、山田錦の生産者からこだわった“究極の大吟醸”。720mL16,500円。WEBサイト
2.作 雅乃智 中取り
国内外で評価を受ける《作》シリーズの純米大吟醸。山田錦らしい、コクのある華やかな味わい。750mL2,915円。WEBサイト
3.大吟醸 八海山
蔵人の技が光る八海山の大吟醸。山田錦・五百万石を45%精米し、雪解け水で醸造。上品な甘さが料理を引き立てる。720mL2,145円。WEBサイト
4.風の森 秋津穂 657
65%精米の純米無濾過生酒。ほのかな微発泡がジューシーな酸味を引き立てる薫酒だ。720mL1,540円。WEBサイト
定番

1.インドの青鬼
ホップの苦味が効いたインディアペールエール。350mL317円。WEBサイト
2.サッポロ 麦とホップ
カラメル麦芽を使用し、濃いコクを楽しめるビールテイスト飲料。350mL176円。WEBサイト
3.ブレッド&バターシャルドネ
カリフォルニア発の人気ブランド。リッチな果実味の白ワイン。750mL3,980円。WEBサイト
4.紫芋焼き芋焼酎 農家の嫁
焼き芋にした紫芋で仕込んだ、すっきりした甘さの芋焼酎。720mL1,888円。WEBサイト
5.サントリー ウィスキー角瓶
1937年発売のベストセラー。ハイボール作りに欠かせない大定番。700
mL1,910円。WEBサイト
お酒選びで気にすることは?

名医が最も気にするのは健康リスクに直結する「糖質」や「プリン体」。栗原さんは「糖質の少なさ」重視で、高取さんは、さらに「人工甘味料や添加物」に関しても厳しくチェックしているそう。飲むなら賢く、健康リスクにつながる成分を避けるのが名医の流儀だ。
名医が選ぶ、家のおつまみ。
おつまみは単なる酒のアテではなく、アルコール代謝とカラダのケアのための“ツール”として捉えているのが名医の共通見解。
「最強なのは高タンパクなおつまみです」(栗原クリニック東京日本橋院長・栗原さん)、「良質なタンパク質が大切」(サルスクリニック日本橋院長・山下徹志さん)と複数の医師が推奨する理由は、タンパク質はアルコールを分解する酵素の材料になるから。たかがおつまみと侮るなかれ。翌日のコンディションを大きく左右する。

タンパク質が豊富なチーズ、急激なアルコールの吸収を抑える高カカオチョコ、ミネラルを補うナッツなどは“ツール”としても最適。

「スティック野菜は嚙む刺激で満足感が得られ、食べすぎ防止と血糖コントロールにも役立ちます」(埼友クリニック外来部長・高取優二さん)






