このニオイの原因は? 口臭が発生するメカニズム。
自分では気がつきにくい口のニオイ。その原因は? 仕組みは? 口臭外来の専門医が科学的に解説。
編集・取材・文/河野友紀 イラストレーション/サンダースタジオ
初出『Tarzan』No.913・2025年10月23日発売

教えてくれた人
有冨理左(ありとみ・りさ)/東京科学大学病院特任助教。東京科学大学病院「息さわやか外来」の外来医長も務める。外来診察をしながら、同大大学院の歯学総合研究科にて、「次世代多孔性素材を用いた遠隔口臭測定システムの構築」を研究中。
口臭とは主に「口の中で発生するガス」のこと。
口腔内で発生する揮発性硫黄化合物=ガスが呼気で外に運ばれ、臭いが拡散。第三者がクサいと感じたら、それは口臭。
「口臭症は、本当に臭う真性口臭症、臭いがほぼないのにあると思い込む仮性口臭症、その思い込みに心理的な苦痛が伴う口臭恐怖症の3つに分類されます。実際に臭う場合、実はほとんどの人が持つ生理的口臭と、原因があり持続的に臭う病的口臭の2種類があります」(東京科学大学病院・有冨理左さん)
真性口臭症
【生理的口臭】
起床時や、一時的に口の中が不潔になっているとき、口の中が乾燥したときなどに発生する。臭いは軽度~中等度。口腔ケアや唾液分泌で軽減する。
【病的口臭】
歯周病やむし歯など口の中に疾患がある場合。臭いは中~強度。また肝硬変や肝がん、糖尿病など全身疾患が由来の場合もあり、強度は原因によって異なる。いずれも持続的に臭いが発生し、原因疾患の治療が必要。
仮性口臭症
ほとんど口臭がないのに本人は「ある」と言う。心理的な要因が大きい。
口臭恐怖症
上記2つに対する治療では改善が期待できないもの。
口の中はこんなに汚い!口臭の生まれかた。
歯磨き不足で残った食べかすや、歯周病で破壊された歯肉や組織、死滅した細菌などのタンパク質が口腔内に山積。舌の上に蓄積し舌苔として付着したり、あるいは歯周ポケットやむし歯の穴に入り込み、ますます口腔内が不潔に。
「その状態で唾液の分泌が減り口の中が乾くと、嫌気性菌が活発になり、口の中のタンパク質を分解。その過程で揮発性硫黄化合物=ガスが発生する、というのが口臭発生の仕組みです」
口臭が発生するまでの流れ。
1-1.口の中に汚れがたくさん。
- 舌の上に、死んだ細菌や食べかすなどが堆積し、 「舌苔」と呼ばれる苔状の汚れが付着している。
- 歯周ポケットに汚れが入り込んでいる。
- 歯の表面に歯垢(プラーク)が付着している。
- むし歯の穴に汚れが詰まっている。
1-2.唾液も少なく口が乾いている。
2.嫌気性菌が活発に活動し、口の中のタンパク質を分解。
3.ガスが発生!
4.呼気に乗って口の外へ…。
自分では分かりにくい口臭のニオイ。

口腔内で発生するガスは主に3種類。
「臭いは異なりますが、どれも腐敗臭やゴミのような臭いです。硫化水素の場合はおなら、メチルメルカプタンの場合は腐った玉ネギのよう、などと言う人もいます。ただこれ、発している本人はなかなか気づかないもので、口臭はそこがやっかいなんです」
| どんなニオイ? | どんなガス? | どこから出てる? |
| 卵の腐ったようなニオイ | 硫化水素 | 主に舌苔が原因 |
| 血なまぐさい、 魚の腐ったようなニオイ |
メチル メルカプタン |
主に歯周病が原因 |
| 生ゴミのようなニオイ | ジメチル サルファイド |
主に古い舌苔が原因 口腔以外の疾患が原因のことも |
ちなみに口臭の定義って?
- 硫化水素→1.5ng/10ml
- メチルメルカプタン→0.5ng/10ml
- ジメチルサルファイド→0.2ng/10ml
呼気を検査しこの数値を超えたら「口臭陽性」がプラス=病的口臭の可能性が、という診断。
舌が白、黄色、 茶褐色。カサカサの人は要注意!

舌の表面に残った汚れは、通常は殺菌作用を保つ唾液で洗い流されるもの。しかし唾液の分泌が減ると汚れが口腔内に留まり、汚れ同士が塊になって舌苔となって舌に付着。
「白い舌苔はさほど臭いませんし、多少の付着は問題ありません。でも放置すると黄色や茶褐色など色が濃くなり、口臭が強くなる傾向が。潤いのないカサカサな舌も臭いの元になりがち。気になる人は鏡で自分の舌を見てみましょう」
原因は口の中以外にあることも。
実際のところ口臭の原因のほとんどは口腔内にあるが、それ以外の原因があることもゼロではない。副鼻腔炎や咽頭炎などによって発生する膿が臭うこともあれば、肝硬変や肝がん、糖尿病といった全身症状の場合、肺から出る呼気に臭い成分が含まれていることが多い。
「また、アルコール摂取による脱水症状で口が乾燥したり、ストレスで交感神経が活発になると粘ついた唾液が分泌され、口臭が出ることもあります」
悩んだら「口臭専門外来」へ!
口臭があると困ることはこの3つ!
- 第三者が不快に感じ、 人間関係がギクシャク。
- 本人が気にしすぎて消極的になり、QOLが低下。
- 口やカラダの中に 疾患がある可能性が!
口臭があることで社会生活に支障をきたすのが問題、と有冨さん。深く悩む前に病院で診察を受けてほしいとも。
「口臭専門外来は、口の臭いを科学的に測定し、口臭症の診断や治療、予防を行う外来。呼気内のガスの濃度を測定し、そこから原因を探し、口腔内に問題がある場合は歯科治療に、全身疾患があると判明した場合はそちらの治療に繫げます。また心因性の口臭症の場合はカウンセリングを行う場合もあります」
口臭外来ではこんな治療をしてくれる。
- 口臭測定機を使って、ガスの濃度の測定。
- 歯科治療。
- 口臭の原因を診断。
- 薬物療法。
- カウンセリングなど 。(心因性の口臭の場合)
デイリーケアは舌磨き&唾液を出すマッサージを。

「まずは定期的に歯科医院に通いクリーニングや口腔ケア指導を受け、そのうえでセルフケアを行いましょう」。
起床後はまず舌ブラシで舌を磨き、しっかりとうがい。毎食後と寝る前の歯磨きはもちろん、ドライマウス用ジェルや殺菌効果のある洗口剤で口腔環境を改善。
また、唾液の分泌を促すマッサージも効果的。頰の奥歯近辺に指を当て前に向かってゆっくり回し、耳下腺を刺激しよう。タブレットやキシリトールガムも唾液分泌の一助に。
【How to 舌磨き】
- 朝起きたら歯を磨く前にまず舌磨きを。
- 水に塗らしただけの舌ブラシを使用。
- 舌を最大限突き出し、呼吸を一時止めてブラシを奥まで入れる。
- 奥から手前に優しく磨く。汚れがつかなくなるまで。
- 最後にしっかりうがいを。



















