寒い冬こそ、あたたかい山小屋でのんびりと。|12月の山・北八ヶ岳・高見石

季節によって異なる表情を見せる日本の山。その時期だけに出会える風景や体験を求めて、写真家の根本絵梨子さんに毎月おすすめの山と、その歩き方を教えてもらいます。

取材・文/小林百合子 撮影/根本絵梨子

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今月の山 北八ヶ岳・高見石
きたやつがたけ・たかみいし
|長野県

標高/約2225m

おすすめコース

1日目
渋の湯登山口(1時間30分)賽ノ河原(40分)高見石小屋(5分)高見石(5分)高見石小屋
歩行時間計:2時間20分

2日目
高見石小屋(30分)白駒池(30分)高見石小屋(30分)賽ノ河原(1時間)渋の湯登山口
歩行時間計:2時間30分

冬山の魅力を教えてくれた、やさしい雪の山。

冬山は怖いし、特別な技術が必要だと思っている人も多いかもしれませんが、実は初心者でも安全に楽しめる冬山もあります。かくいう私も幼少期からしばらく離れていた登山を再開したとき、自分が真冬の山を登るようになるとは思っていませんでしたが、そんな先入観を払拭してくれたのが、北八ヶ岳の高見石でした。

27歳の夏に八ヶ岳で登山を再開してから、すっかり山の虜になってしまった私は、その4年後の冬に、同じ八ヶ岳の中でも北部エリアにある北八ヶ岳へ、友人の誘いで出かけました。高見石は標高が2000m以上ありますが、北八ヶ岳は深い針葉樹の森に包まれていて、雪の時期でも風雪から身を守ってくれるような安心感があります。ルートも危険な箇所が少なく、経験者を伴っていれば雪山初心者でも安全に登れるということで、思い切って行ってみることにしたのでした。

高見石から30分ほど下った場所にある白駒池を目にしたとき、本当に冬の山に来てよかったと心から思いました。池は全面結氷していて、氷が張った池の上を歩くことができました。私は幼少期から中学頃までフィギュアスケートに打ち込んでいたということもあって、小さな頃から「自然の中にできた、天然のスケートリンクを滑ってみたいなぁ……」と、夢見ていたんです。凍った池の上に立ったとき、心底ワクワクしたことを今もよく覚えています。

登山口のある渋の湯から高見石までは2時間ほどの登り。真っ白の世界の中に、ところどころ針葉樹の緑が混じる風景は白と緑のコントラストが美しくて、キンと冷えた空気が心地いい。夏とは全く違う山の世界に出会ったことにも感激でした。

高見石は高見石小屋という山小屋の裏手にあるちょっとした岩場で、いわゆる山頂のような派手さはないのですが、そのてっぺんからは北八ヶ岳の森を一望できて、朝も夕方も素晴らしく美しい。山小屋も素朴で、星空を愛するご主人がいつも温かく迎えてくれます。

2度目に小屋を訪れたとき、ご主人が私のバックパックを覚えていて、声をかけてくださいました。それがきっかけで言葉を交わすようになり、今では小屋で写真のイベントを開催していただくまでになりました。こんなふうに、山に知り合いができたのは初めてのことで、以来、ご主人に会いたくて小屋に通うように。コーヒーを飲んだり、本を読んだり、ただコタツに入って仲間とおしゃべりしたり。ひたすらのんびりするだけですが、その時間がたまらなく心地よくて、冬になると一番にこの小屋に出かけたくなります。

山頂を目指してダイナミックな稜線を歩く登山も気持ちがいいですが、極寒の雪山で、のんびり、ぬくぬくと過ごすのも最高。高見石はそんな新しい登山の魅力を教えてくれた、とても大切な場所です。

冬山入門にうってつけの北八ヶ岳。

南北に長くのびる八ヶ岳連峰。南部エリアは岩稜が多く、冬の登山には高い技術や知識が必要になるが、北部エリアは樹林帯が多く、ルート難易度も比較的低いため、冬山入門におすすめ。

渋の湯登山口から白駒池から高見石のルートはアップダウンが少なく初心者でも無理なく歩けるが、途中の賽ノ河原は風を遮るもののない、吹きさらしの場所。天候が荒れるとルートを見失うこともあるので、悪天候の際の登山は中止すること。冬季も営業している高見石小屋があるため、冬場も登山客が多く、踏み跡もしっかりと残っていることが多い。

冬は気温が低く、風や雪が強くなることもある。しっかりとした冬山の装備を持たない人は立ち入らないこと。軽アイゼンやチェーンスパイクも必須だ。

天気が良ければ日帰りで歩けるが、冬山初心者は高見石小屋で一泊してのんびり歩いた方が安心。翌日は白駒池まで往復して、凍結した湖の風景を見たり、スノーシューハイキングを楽しんだりするのもいい。

おすすめスポット情報

高見石小屋

高見石の下にある小さな山小屋。星空が綺麗に見える山小屋として有名で、タイミングが合えば小屋スタッフによる星空解説や天体望遠鏡を使った星空観察会などもある。手作りの食事も人気があり、立ち寄りでも食べられる揚げパンも名物。
https://takamiishi.com/

駅そば榑木川(くれきがわ)

JR茅野駅の中にある立ち食いそば店。長野県産のそばを独自の配合でブレンドし、石臼挽きで挽きたてのそば粉を使用した本格手打ちそばが味わえる。凍えるように寒い山から戻って、ここで食べる熱い一杯が至福。
https://www.kurekino.co.jp/archives/1386/

茅野市尖石縄文考古館

八ヶ岳山麓の尖石石器時代遺跡に隣接し、国宝の土偶「縄文のビーナス」「仮面の女神」のほか、出土品や縄文時代の生活などが紹介されている博物館。予約制で土偶づくりなどを体験できるのも、縄文好きにはたまらない!
https://www.city.chino.lg.jp/site/togariishi/