歩行や姿勢維持の立役者!深層筋群の機能解剖。

姿勢を整え、動きを安定させ、内臓や呼吸をも支える「深層筋」。見えないがゆえに意識しづらい深層筋群の働きをひもとき、それぞれの力を最大限に引き出すヒントを探ろう。

取材・文/石飛カノ 撮影/小川朋央 スタイリスト/佐藤奈津美 ヘア&メイク/村田真弓 イラストレーション/野村憲司(トキア企画) 取材協力/金岡恒治(早稲田大学スポーツ科学学術院教授)

初出『Tarzan』No.911・2025年9月25日発売

1.頸長筋(けいちょうきん)|重い頭をサポートする縁の下の力持ち。

頸長筋は首の付け根から鎖骨に至る長い筋肉のこと。頸椎の前面にぺったり張り付くような形で存在し、重い頭を支えつつ“チンイン”という顎をぐっと手前に引く動作のときに働く。実はこの筋肉、肩こりや首痛の原因のひとつとされ、最近注目を浴びている深層筋でもある。

頸長筋がしっかり働くと7つある頸椎がまんべんなく動くため、ひとつひとつの骨への負荷が分散される。ところが頸長筋がうまく働かないと上から数えて5番、6番、7番目の頸椎に集中的に負荷がかかる。これが首こりや頸椎ヘルニアのリスクを高める原因に。

頸長筋・肩甲下筋・前鋸筋

2.菱形筋(りょうけいきん)・前鋸筋(ぜんきょきん)|協調して肩甲骨を正しい位置にセット。

  • 前鋸筋
  • 小菱形筋(しょうりょうけいきん)
  • 大菱形筋(だいりょうけいきん)

菱形筋は左右の肩甲骨の間に位置する、文字通り“菱形”の筋肉。菱形筋が収縮し、肩甲骨を内側に寄せることで物を手前に引く動作や、胸を張った“気をつけ”の姿勢を維持することができる。

一方、前鋸筋は肩甲骨の外側、ノコギリの歯のようなギザギザした形で存在している筋肉。こちらは肩甲骨を前に出すときに働き、物を前方に押す動作などで稼働する。

これらふたつの筋肉は肩甲骨の位置や動きをセットで制御している大事な深層筋。姿勢維持や肩まわりのパフォーマンスにも大きな影響を及ぼす。

ローテーターカフ

3.ローテーターカフ|物を投げるヒトならではの動作の源。

  • 肩甲下筋(けんこうかきん)
  • 棘上筋(りょくじょうきん)
  • 棘下筋(りょくかきん)
  • 小円筋(しょうえんきん)

ローテーターカフとは肩&肩甲骨まわりにある肩甲下筋、棘上筋、棘下筋、小円筋の4つの深層筋の総称。それぞれの形がカフス(袖口)に似ていることからこの名がついた。日本語では「回旋筋腱板」とも言う。

肩関節は人体の中で最も可動性が高い関節。それと同時に上腕の骨と肩関節のジョイントは非常に不安定。よって、ローテーターカフが関節まわりをガッチリ固め、安定性を担保している。二足歩行で生きていく道を選んだ以上、腕を上に振り上げたり物を投げたりする動きは生存戦略として必須。そのためにはローテーターカフが不可欠なのだ。

4.腸腰筋(ちょうようきん)|二足歩行が生んだ上半身と下半身の架け橋。

  • 小腰筋(しょうようきん)
  • 大腰筋(だいようきん)
  • 腸骨筋(ちょうこつきん)

脊柱と大腿骨を結ぶ大腰筋と小腰筋、そして骨盤と大腿骨を結ぶ腸骨筋。これらを総称して腸腰筋と呼ぶ。その主な働きは股関節をダイナミックに屈曲させたり、背骨を支える多裂筋と協調して姿勢を維持すること。

とはいえ、腸腰筋の本来の役割は四足歩行の際、後ろ脚を前方に移動させること。ヒトは二足で立ってしまったため階段で2段抜かしをしたり登山でもしない限り、稼働する機会は少ない。使わなければ衰えるのは万物みな同じ。もうひとつの姿勢維持の機能も維持できなければ早い段階で背骨が曲がった老人姿勢に。

せっかくの上半身と下半身のパイプ役、意識的に使って衰えさせない努力が必要。

腸腰筋

5.インナーユニット|あらゆる動作の核となるブレないコアを作る。

  • 横隔膜(おうかくまく)
  • 腹横筋(ふくおうきん)
  • 多裂筋(たれつきん)
  • 骨盤底筋群(こつばんていきんぐん)

四足動物の場合、体幹部は地面と平行。でも二足歩行のヒトの場合、骨盤から上の体幹部は地面に垂直。ただでさえ支持する脚は2本のみなので不安定、体幹が自立できなければ立てないし姿勢も保てない。そのサポート役が体幹の深層筋群であるインナーユニットだ。

最も重要なのはカラダの前面にある腹横筋と背面にある多裂筋。多裂筋は直接脊柱を支持し、腹横筋は前述したように5つの腰椎すべてにジョイントしている。さらにコンタクトスポーツなどで腹圧を高めるときには上部の横隔膜、下部の骨盤底筋群がフタをする形で機能する。

インナーユニット

6.外旋六筋(がいせんろっきん)|股関節を安定させるいぶし銀の立役者。

  • 梨状筋(りじょうきん)
  • 外閉鎖筋(がいへいさきん)
  • 上双子筋(じょうそうしきん)
  • 下双子筋(かそうしきん)
  • 大腿方形筋(だいたいほうけいきん)
  • 内閉鎖筋(ないへいさきん)

お尻の大きな筋肉の下には6つの小さな筋肉が横に向かって走っている。これが骨盤と大腿骨を繫ぐ外旋六筋という深層筋群。

主な役割は骨盤の安定性を保つこと。外旋六筋の上にはヒップアップに欠かせない中臀筋が存在するので、土台がしっかりしていないとお尻のシルエットも崩れがち。

また、外旋六筋が働かないと走ったりスクワットなどの動きをしたとき、骨盤が不安定になり体重を支えきれないため、膝が外側または内側に流れてしまう。つまりケガをしやすい。見た目にも機能的にも×。

外旋六筋

7.足の内在筋(あしのないざいきん)|立ち&歩き姿勢のファウンデーション。

  • 母趾内転筋(ぼしないてんきん)
  • 短母趾屈筋(たんぼしくっきん)
  • 短小趾屈筋(たんしょうしくっきん)
  • 小趾外転筋(たんしょうがいてんきん)
  • 母趾外転筋(ぼしがいてんきん)
  • 短趾屈筋(たんしくっきん)

足の裏は4つのレイヤーに分かれていて、それぞれの層に細かい深層筋が張り巡らされている。第1層には母趾外転筋や短趾屈筋、第2層には虫様筋、第3層には母趾内転筋、第4層には骨間筋という具合。下に図示したのはこれらのうち最も代表的な筋肉。

その役割は足のアーチを維持し、立位姿勢や歩行時の安定性を確保し、足指を的確に動かすこと。そもそも地面にしっかり立てなければどんな日常動作やスポーツも成立しない。地味だが何はなくても覚醒させなければならないのが、実は足の内在筋なのだ。

外旋六筋