長期休暇でパワーアップ!企業に求められる“休ませる技術”。
働き方改革が進むなかで、さまざまな休暇制度や休息に繫がる福利厚生が広がっている。企業の導入事例と、“休息できる施設を提供する”という、新たな企業の取り組みもご紹介。
取材・文/重信 綾 イラストレーション/ICHASU 監修/菅原洋平
初出『Tarzan』No.908・2025年8月7日発売
休ませるには、会社の文化改革が必須。

仕事で疲労が溜まると、カラダの細胞が弱って免疫力が下がり、心身の不調を引き起こす可能性があると作業療法士の菅原洋平さん。
「たとえば、私たちの体内にはヘルペスウイルスが存在しますが、週の労働時間が40時間以下の人とそれより長い人のヘルペスウイルスの活性度合いを比較すると、後者のほうがウイルスが元気になり、ヘルペスができる確率が高まります。このように、疲労は感覚的なものではなく、実際にカラダに良くない影響をもたらしていることがわかりますよね。また、反応が悪くなったり、モチベーションが上がらないなど、仕事の効率を下げることにも繫がります」
疲労を回復し、楽しく健やかに働くためには、休むことが不可欠。その一方で、休みづらい風潮や文化が残っている企業も少なくない。
「近年は、仮眠室を作る、マッサージが受けられる、旅行ができるようサポートする、食べ放題のお菓子を用意するなど、休息に重点を置いた制度を設ける企業が徐々に増えています。ただ、体制が変わったとしても文化が追いつかない限り、制度の利用率は上がりません。社員が休暇を取りづらいと感じている状況を汲み取り、両輪で進めることが必要です」
ここでは休みにまつわるユニークな制度を設けている企業をピックアップ。社員が気兼ねなく利用できる気遣いにも注目しよう。
長期休暇|価値観をアップデートし、気分もリフレッシュ!

サバティカル休暇|23日間の連続休暇制度。
勤続7年以上の正社員と契約社員が23日間の連続休暇を取得できる制度。24時間365日稼働するサービスを提供する仕事において、長年走り続けてきた従業員に、一度立ち止まり、リフレッシュしてもらうことが目的。
日頃できない経験や自身と向き合う体験が価値観をアップデートし、会社にいい影響をもたらすというポジティブな循環を生む機会にもなっている。
業務代替者には5万円の賞与が支給されるため、休む人は気兼ねせず、仕事を引き継ぐ人は納得感を持てることもポイントだ。有給休暇となるため収入面も安心。「旅行ができて家族に喜ばれたし、仕事を任せた部下の成長を感じられてよかった」という取得者の声も。
〈PR TIMES〉
- 事業内容:プレスリリース配信サービス
- 社員数:151人
- 平均年齢:30.8歳
- 男女比:男性54% 女性46%
浮世離れ休暇|5年勤務者に1か月の休暇を。
ユニークな名前が印象的な「浮世離れ休暇」は、5年の勤続ごとに、有休とは別に1か月間のまとまった休暇を取得できるというもの。業務から一時的に離れることによる自己再発見やリフレッシュ、仕事を引き継ぐなかで業務の棚卸しや透明化ができること、休暇に備える過程で無駄な業務の発見や自動化、効率化のアイデアが出やすくなるなど目的はさまざま。
利用者からは「日本縦断ひとり旅をしたことで普段とは違う時間感覚で過ごせ、価値観をリセットできた」「時間の使い方を見直して、やらないことを決める勇気が持てた」「リフレッシュしたら意欲が湧いてプロジェクトに前向きになった」などのポジティブな声が聞かれた。
〈トライバルメディアハウス〉
- 事業内容: 総合マーケティング支援サービス
- 社員数:100人
- 平均年齢:36.2歳
- 男女比:男性44.5% 女性55.5%
休暇・福利厚生|働く人のパフォーマンスに配慮。
パートナーアニマル休暇|飼育ペットとの別れに。

ペットケア関連製品を扱う〈ユニ・チャーム〉ではペットも家族の一員と捉え、お別れの時間をしっかりと取れる休暇を設けている。
社員が志、経済、心とカラダという3つの豊かさを追求していける環境を整えることを目的とした制度の一つで、2017年1月の導入以来、これまでに約50人が活用している。
「斎場できちんと見送りをしたことでしっかりと受け止め、気持ちの整理ができてありがたかった」「会社の規定として定められているため、ペットの飼育経験がない方からも理解が得られた」「急に仕事を休むという状況のなかで納得のいく別れができた」など、大切な家族を失った社員の心に寄り添い、ケアする効果が生まれている。
〈ユニ・チャーム〉
- 事業内容: ウェルネスやペットをはじめとするケア関連製品などの販売
- 社員数:16,464人
- 平均年齢:40.9歳
- 男女比:男性63.2% 女性36.8%
全国ツアー遠征休暇|推し活を会社が応援。

大画面でアイドルを鑑賞できる部屋や、推し会を応援するさまざまなサービスが用意されている〈カラオケパセラ〉。運営するNSグループは、社員も遠征などの推し活を満喫できるよう、年に1回以上、5連休以上を必ず取得する「推し活連休制度」を取り入れている。
荻野佳奈子社長自身も遠征を楽しんでいるといい、社員からも「ライブのために堂々と休めることが嬉しい」「グッズを購入するために早朝から並べるので助かる」などの意見が挙がっている。
さらに、社員の要望に応えて、カラオケパセラの名物「推し活アフタヌーンティー」を半額で利用できる福利厚生も25年から導入。全員に推しがいるとされる今の時代が反映されている。
〈NSグループ〉
- 事業内容: ホテル、飲食、カラオケ、ウェディングなど幅広いサービス業
- 社員数:949人
- 平均年齢:31.2歳
- 男女比:男性59.6% 女性40.4%
高性能ワークチェア支給制度|運命の一脚で、疲労を軽減。

フルリモートを前提とした働き方を行う〈カサナレ〉が、「自宅を最高の仕事場に」という理念のもと開始した制度。
一日の大半を過ごす場所ながら高額で手を出しづらい高機能チェアの購入を支援するもので、オフィスチェアを扱うセレクトショップ〈WORKAHOLIC〉での試座体験を経て、最適なチェアを選べる。
安田喬一代表は、「パフォーマンスを最大化するために、カラダに合ったワークチェアは必須だと考えている」という。正社員全員が制度を利用しており、「集中力が増して疲れにくくなった」「プロのヒアリングのもとでじっくり選べ、自分に合った仕事環境が整えられた」と変化を感じている人が多い。
〈カサナレ〉
- 事業内容:エンタープライズ生成AIソフトウェア『Kasanare』の開発・運用
- 社員数:28人(業務委託含む)
- 平均年齢:31.5歳
- 男女比:男性60% 女性40%
山ごもり休暇|一切のコンタクトを禁止。
2011年に導入された同制度は、すべての役職員を対象に、1年間に1度、9日間の連続休暇を義務付けるという内容で、休んでいる間は、会社との一切の連絡を絶つということが最大のポイントとなっている。
休みやすい環境を作って社員のリフレッシュを図ることはもちろんのこと、仕事の引き継ぎを発生させることで、業務の共有をし、属人性を解消する狙いもあるという。
取得率は100%で、「仕事へのいい活力になった」「モチベーションが上がった」「日常から離れた体験は人生を豊かにしてくれると感じる」というものから、「引継書の作成は仕事の棚卸しとなり、業務を見直すきっかけとなった」など、狙い通りの感想が。
〈イルグルム〉
- 事業内容:マーケティングDX支援事業、コマース支援事業
- 社員数:160人
- 平均年齢:34.2歳
- 男女比:男性58.1% 女性41.9%
休息施設|心身をリラックス。
〈Wellness Lounge™〉NTT東日本・NTTデータ・ストーリーライン運営|カラダや心をサポート。
NTT東日本を含む3社で運営する、新宿・初台エリアで働く人のパフォーマンスを底上げする施設〈Wellness Lounge™〉が、25年5月にオープン。
3つのエリアがあり、「KAGEROU」は先端テクノロジーによる感情や健康状態の測定と数値化、結果に基づいた心身を整える体験や飲食メニューの提案が行われる。
「覚醒」がテーマの「HINATA」では、集中力維持やストレス軽減を導く体験を提供。「鎮静」をテーマにした「KOKAGE」は、バーチャル森林浴やニューロミュージックなど、心身に安らぎを与えるギミックを用意。運営3社の関係会社に加え申請した企業も使える。ICTを活用した試みに注目が集まる。
〈とまり木〉三菱地所運営|定額で利用できるシェア型の休養室。
大手町にある〈とまり木〉は、契約している企業の従業員が使える「休養室」と、仕事のパフォーマンスを上げるための「チャージ機能」を提供する、国内初となる休養室の企業間シェアリング事業だ。2023年から試験運用が行われ、25年4月から本格始動。
「休養室」は体調不良の際に1時間まで休むことができ、「チャージ機能」は原則15分間、マッサージチェアや仮眠チェアでの休憩、トレーナーによる運動指導やストレッチが利用できる。
営業は平日の10時〜18時。利用料金は従業員50人未満で月5万円〜。今後は丸の内エリアへの展開も考えており、多くの人が健康に働くための三菱地所の街づくりは止まらない。


























