あの偉人も悩まされた!?忍び寄る「三大サイレントキラー」の恐怖。
自覚症状なく死亡リスクを上げるからこそ、血圧、血糖値、コレステロール値は「三大サイレントキラー」として恐れられている。多くの現代人が悩まされる、三大キラーにまつわる病。実はかの偉人たちも苦しんでいた!?
取材・文/井上健二 イラストレーション/ハイゼア、野村憲司(トキア企画) 取材協力・監修/渡辺尚彦(日本歯科大学生命歯学部客員教授)、山田 悟(北里大学北里研究所病院糖尿病センター長)、山下静也(りんくう総合医療センター理事長) 画像提供/アフロ
初出『Tarzan』No.898・2025年3月6日発売

教えてくれた人
山下静也(やました・しずや)/りんくう総合医療センター理事長。大阪大学医学部卒業。大阪大学大学院総合地域医療学寄附講座教授などを経て現職。専門は脂質異常症、動脈硬化症など。日本動脈硬化学会動脈硬化専門医・指導医。医学博士。
山田悟(やまだ・さとる)/北里大学北里研究所病院院長補佐、糖尿病センター長。慶應義塾大学医学部卒業。日本糖尿病学会糖尿病専門医・指導医。カロリー制限中心の食事療法から、緩やかな糖質制限食への大転換を図るパイオニア。医学博士。
渡辺尚彦(わたなべ・よしひこ)/高血圧専門医、日本歯科大学客員教授。聖マリアンナ医科大学医学部卒業。東京女子医科大学教授、早稲田大学客員教授などを経て現職。1987年から自らの血圧を30分おきに測り続けて研究に活かす。医学博士。
目次
死亡リスクを上げる「三大サイレントキラー」とは?
血圧、血糖値、コレステロール値は高くなっても、自覚症状はほぼゼロ。それでいて突然死などの死亡リスクを爆上げすることから、サイレントキラー(静かなる殺人者)という物騒なニックネームがつく。いわば三大キラー。古今東西の偉人も苦しめられてきた。
血圧、血糖値、コレステロール値は、人間ドックはもちろん健康診断でも必ず測る。にもかかわらず、多少高くても痛くも痒くもないことから、医師の警告も無視して放置する人が後を絶たない。
そしてその油断が数年後、十数年後に深刻な病を招いて、大きな後悔に繫がりかねないのだ。三大キラーを正しく怖がるために“殺人者ぶり”を知り、我が身を守るヒントを探ろう。
日本人の1400万人は高血圧を放置。
日本人にもっとも多い病気が、高血圧。高血圧人口は約4300万人と推定される。高齢者の話だ、とスルーしそうになるが、男性では30代でも5人に1人、40代では3人に1人が高血圧だ。
見逃せないのは、4300万人のうちで薬物治療などにより、血圧を適切にコントロールできている人は1200万人にすぎないという事実。
残る3100万人のうち、高血圧の認識がなく未治療な人が約45%の1400万人を占めており、それ以外は気づいても治療を受けていないか、治療を受けても血圧がきちんとコントロールできていないのだ。
他のサイレントキラーと違い、血圧は自宅でも正確に測れる。まず測定習慣を身につけることから始めよう。
高血圧患者4300万人のうちで、治療を受けて適切な血圧が保てている人は1200万人。認識がなく未治療な人は1400万人であり、認識しているのに治療を受けてない人も450万人に上っている。
出典/日本高血圧学会「高血圧治療ガイドライン2019」
日本人の2人に1人は食後高血糖。
血糖値で長年重視されるのは、空腹時血糖値とヘモグロビンA1c。ヘモグロビンA1cは過去1〜2か月の血糖値の平均を示す。
加えて注目されているのが、食後に血糖値が140mg/dlを超える「食後高血糖」。
「中国で行われた研究では成人の2人に1人が食後高血糖。その割合はおそらく日本人でも同じでしょう」(北里大学北里研究所病院糖尿病センター長の山田悟先生)
食後高血糖は万病の元であり、空腹時血糖値が上昇に転じる前の段階から始まる。食後高血糖の段階で血糖値の異変に気づくことが大事だ。
50歳以上の2人に1人が脂質異常症。
血中を流れる脂質には、コレステロールと中性脂肪(トリグリセライド)などがある。
このコレステロールと中性脂肪の値が正常ゾーンから外れるのが脂質異常症。おもに高LDLコレステロール血症、低HDLコレステロール血症、高トリグリセライド血症の3タイプがある。
「脂質異常症という医師の診断を受けていなくても、検査数値が基準値を超えてその疑いがある人まで含めると、50歳以上の2人に1人が脂質異常症と推定されています」(りんくう総合医療センター理事長の山下静也先生)
女性ホルモンは脂質代謝を適正に保つため、女性は男性より脂質異常症の割合は低め。でも50歳前後で閉経すると、罹患率は男性とほぼ変わらなくなる。
年齢・性別で見た脂質異常症が疑われる人の割合。
日本動脈硬化学会『動脈硬化性疾患予防ガイドライン2007年版』の基準による「脂質異常症が疑われる人」の割合。50代以降では男女ともに50%前後に増えてくる。
出典/厚生労働省「平成18年国民健康・栄養調査」
三大キラーが重なるとリスクは30倍。
三大キラーはそれぞれ単独でも凶暴極まりないが、困ったことに同時多発しやすい。なぜなら、いずれも源流にあるのは、偏った食生活や運動不足といった悪しきライフスタイルであり、それによる肥満(とくにお腹が出てくる内臓脂肪型肥満)も一役買うから。
高血糖には高血圧が隠れていたり、高血圧の人は脂質異常症を持っていたりするのだ。高血糖から糖尿病に至ると、およそ50%で高血圧を合併するとされる。
三大キラーを併発すると、人生100年どころか、健康寿命は崖っぷちに立たされる。三大キラー+肥満という4因子の数と、動脈硬化による心筋梗塞や狭心症といった心臓病リスクを調べた研究で、因子ゼロの人と比べて1個あるだけで危険度は5倍、2個で約10倍、3〜4個で30倍以上に。
これに喫煙や飲酒といった悪癖が加わると泣きっ面に蜂。突然死は“いまそこにある危機”となる。
全国12万人の労働者の10年間の健診データを基に分析したもの。冠動脈疾患(心筋梗塞、狭心症)のリスクは危険因子(肥満、高血圧、糖尿病、脂質異常症)の数が増えるほど急激に高まる。
出典/松澤佑次監修『メタボリックシンドローム実践マニュアル初版』73, 2005より改変
あの偉人たちも悩まされた!?
織田信長は高血圧だった。
塩辛い味付けを好み、激昂しやすい性格だった織田信長は高血圧だったといわれる。本能寺の変で倒れなくても、長生きできなかったかも。
藤原道長、糖尿病で死す。
「望月の欠けたることも無しと思へば」と詠んだ平安時代の最高権力者は、記録に残る日本最古の糖尿病患者。最期は免疫力が下がり、多臓器不全で死んだらしい。
モナリザは脂質異常症?
レオナルド・ダ・ヴィンチの名画のモデルとなった女性の左目頭には黄色いしこりが。これはLDLコレステロール値が高くなる脂質異常症の証しと考えられている。