〈On〉の《クラウドブーム ストライク LS》

〈On〉の《クラウドブーム ストライク LS》| これ、履きたい。

スタイリング・文/小澤匡行 写真/イアン・ランターマン ヘアメイク/曳田萌恵

〈On〉の《クラウドブーム ストライク LS》

ランニングをする女性
モデル、英里香

シューズ《クラウドブームストライクLS》 44,000円、ジャケット 27,280円、トップス 13,200円、ショートタイツ 10,450円、以上オン、問い合わせ先:オン・ジャパン 公式サイト:on.com

ランニングをする女性
〈On〉の《クラウドブーム ストライク LS》

文・小澤匡行

たいした目的もなく(健康への意識はそれなりに芽生えている)、それなりに長いこと走り続けていた僕のような気まぐれジョガーにとって、走ることで一番難しいのは、まずその日にシューズを履いて外に飛び出すこと。そしてそれを習慣化することである。継続できないのは、ランニングの行為自体が自分ごとにできなくて、億劫になってしまったり、飽きてしまうからだ。そうならないために、それが自分にとって必要であると自覚する、もしくは好きであることを自覚しなければならない。

大袈裟に聞こえるかもしれないが、〈オン〉の《クラウドモンスター》というシューズに出会ってから、ゆるりと続いていたランニングが習慣化できるようになった。それが僕にとって、記録を狙うためではなく、楽しむための厚底シューズだったからだ。ブランドを知ったきっかけは、輪切りにしたゴムのホースを参考に開発されたという「CloudTec®」ソールのインパクトだ。それを極厚にした《クラウドモンスター》を履いて走ったとき、それまでの自分のランとは違う何か、踊るように気持ちよくて、いやな疲労のない感覚があった。

ダイエットのためでも、大会のためでもいい。禅問答のようだが人は走る目的を明確に持てるようになると、それに合った走りをしようとして自分と対話するようになる。呼吸のリズム、ロードへの弾みに刺激される筋肉、もしくは心地よい朝の風にふれる頬、でもいい。それが何かで繋がり、チューニングができたとき、ランニングが楽しくて、続くような気がしている。だから習慣とは対話の連続であり、(ランナーとしての)レベルとは別軸じゃないかと思う。どのメーカーも走力に合ったシューズをラインナップしているが、〈オン〉は走る目的に合ったシューズを揃えている気がする。それが結果的にはフルでサブ3用とか、キロ7分のジョグ用のテクノロジーかも知れない。でも、何か別の思考を与えてくれるのが、〈オン〉がいま企業として伸びている理由なんだろうと思う。

今回紹介する《クラウドブーム ストライク LS》は、競技者のヒーローのためのシューズ。僕にはちょっと縁遠い存在ではあるものの、走り手に思考を与えてくれる〈オン〉が考える最高のシューズを試したくなった。LSとはアッパーを製造する技術「LightSpray」の略だ。自動化されたロボットアームを使用することで、たったひとつの工程で立体的に成形していくプロセスでは、アッパーの部位によって厚みや密度を変えられる。シームレスで、シューレースはいらない、そしてたった7つのパーツだけでシューズが構成されている。さらにアッパーの重さはわずか30gほどしかない(サイズによって質量は異なるが、全体は170gほどだろうか)。そしてフィットに優れるということは、走ることに集中できるということだ。

エチオピア出身の女性ランナー、ストゥメ・アセファ・ケベデ選手は、これを履いて先日の東京マラソンを昨年に続いて優勝した。シューズが発表された時は、製造の自動化とか、サステナビリティの観点からのイノベーションが注目されたが、それがトップランナーの記録を支えるシューズであることも証明されている。

余計なものが一切ないシューズを履いて走りたい人は、きっとケベデのように余計なものをとにかく削ぎ落としている人だと思う。僕の身体には残念ながら無駄なものが多いし、ランニングに割り当てられる心のスペースもそんなに広くはない。けれど、このシューズのことを知り、実際に履かせてもらったときのインパクトは、走る目的とチューニングを続けていくことで、新しい思考や今までにない感情に出会えるかも、と思えた。僕にとって〈オン〉は、いつだって自分と向き合うヒントを与えてくれるブランドである。

ランニングをする女性

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