メイド・イン・メキシコの隠れた名作《フォルクスワーゲン BEETLE》|クルマと好日

アウトドアフィールドに、あるいはちょっとした小旅行に。クルマがあれば、お気に入りのギアを積んで、思い立った時にどこへでも出かけられる。こだわりの愛車を所有する人たちに、クルマのある暮らしを見せてもらいました。

撮影/伊達直人 文/豊田耕志

初出『Tarzan』No.845・2022年11月2日発売

日々の生活にはオールディーズレゲエと、30年近く乗り続けるビートルが欠かせない。

おっ! ビートルだ。懐かしい! と道行く人にチラチラと見られるこちらは、オールディーズレゲエを中心に扱うオンラインレコード店〈FAR EAST RECORDS〉のオーナー、富田実さんの愛車。しかも、創刊まもない『ポパイ』の1977年11月10日号の表紙を飾った車体と同じネイビーブルー! もしや45年選手?

「僕の年齢は45歳ですが、このビートルは1996年式なのでまだ若者です(笑)。98年に新型のニュービートルに切り替わるんですが、その少し前に生産されたラストビートルで、メイド・イン・メキシコなんです。18歳のときにVW専門店の〈FLAT4F〉で新車購入して以来27年乗り続ける相棒ですね」

当時はヴィンテージにするか? 新車にするか? だいぶ迷ったと言うが、「新車を20年、30年乗り続けていったらどうなるんだろう?」という素朴な疑問から新車を選んだら、そのまんま27年も乗ることになったというからすごい!

「もともとは、60年代後半のロンドンのスキンヘッドレゲエが好きで。当時の写真集を見ると、ビートルに乗っている人がたびたび登場するんですよ。それに憧れてビートルに決めたんですが、どうやらレゲエの聖地・ジャマイカでもビートル乗りが多かったみたいですね。現にソウル・オブ・ジャマイカと呼ばれるレジェンドミュージシャン、アルトン・エリスが来日した際に乗ってもらったこともあるんですが、そのときは彼もノリノリになってくれて、“最高だよ! ロンドンに移住する前は、ジャマイカでもたくさん見たし、俺も昔、赤い色のビートルに乗っていたよ!”と喜んでくれましたねぇ。何十年と乗っているとたまにミラクルが起きるんですよ(笑)」

とはいえ、古いクルマだけに故障は付き物だというけれど……。

「確かに突然エンジンベルトが切れたり、日光のいろは坂でエンジンが止まったり。予期せぬ故障はよくありますね。でも、それは女性のわがままみたいなものだと思っているんで、あまり気にしない(笑)。走行距離のメーターも3回転していますが、単純な構造なのでエンジンやパーツを替えれば、ずっと乗れる。LAのヴィンテージトラックは、じいちゃんが農作業用に手に入れたトラックを自ら板金や塗装して綺麗に乗っていると聞きますしね」

一台のクルマを生涯の伴侶として添い遂げる。その行為はとても険しい道のりのようにも思えるが、質実剛健なビートルとならば、意外と無謀なことじゃないかもしれないな。

VOLKSWAGEN BEETLE

ビートルの初代、正式名称タイプ1の中でも、こちらはメキビーと呼ばれるメキシコ製。1996年当時、約280万円で購入したというが、現在の中古車市場では180万円くらいの値が付く。富田さんが購入した〈FLAT4〉では、メキビーのリプレイスメントパーツも充実している。

アルミ製のホイールキャップがクラシック。物として美しいからよく盗まれるらしい。

塗装も内装も27年前からほとんど手入れせずにこの状態。メキシコの民芸品のような素朴なファブリックシートも最高だ。

サイドガラスにあしらわれた「HECHO EN MEXICO」がメキシコ製の証し。

富田さんのレーベルが復刻した、アルトン・エリスの幻の7インチ。彼が亡くなるまでの間、家族のような付き合いをさせてもらったとか。

  • 全長4,070×全幅1,540×全高1,480mm
  • エンジン=1,600cc、MT4速
  • 乗車定員=5名
Owner

富田実(〈FAR EAST RECORDS〉オーナー)
1977年、神奈川県生まれ。オールディーズレゲエの中古盤を中心としたオンラインレコード店〈FAR EAST RECORDS〉を営む。幻の7インチも復刻。