たった9秒、10秒で終わる100Mに、なぜここまで惹きつけられるのか
スポーツ写真を始めてからいままで、撮影時の緊張が半端ない競技種目がある。
陸上競技の100Mだ。とりわけ、決勝においては日本選手権、世界陸上、そしてオリンピックの決勝における緊張感と集中力、それだけは未だ変わらない。
過去のハードディスクから100Mの魅力ある写真をセレクトしていたら自然とウサイン・ボルト(ジャマイカ)、桐生祥秀、サニブラウン・アデブル・ハキームの写真が多くなった(笑)。
スポーツ写真を撮り始めて30年余り経つ。まだ筆者が高校生だった80年代はカール・ルイス(アメリカ)やソウル五輪でのドーピングで話題になったベン・ジョンソン(カナダ)達の後、圧倒的なカリスマを持つ男子選手は不在だった気がする。
しかし気がついたらボルトというカリスマが生まれ、そして桐生が高校生の時に
記録した10秒01を境にのめり込んでいった。近い将来、必ず日本人も9秒台で走るだろうと思い、桐生が出場すると聞いては色々な大会に出かけた。
2016年の春、フィギュアスケート世界選手権(取材中にも関わらず)、浅田真央のフリー演技を放棄して開催地のボストンから絶好調と噂されていた桐生が出場するテキサスまで1日かけて移動した記憶がある。不運にもそのレースは向かい風で、記録が出ることはなかった。
たった9秒、10秒で終わってしまう100Mだが、なぜそこまで惹きつけられているのだろうか。ただひとつ言えるのは満員のスタジアムが静まり返り、号砲と共に沸く観客と世界一、または日本一を決める「かけっこ」が単純で面白いから。少なくとも僕はそう思う。
2009年8月16日 世界陸上ベルリン大会 男子100m決勝 ウサイン・ボルト(ジャマイカ)/未だ破られていないボルトが叩き出した9秒58という世界記録
2011年8月27日 世界陸上大邱大会 男子100m予選 ウサイン・ボルト(ジャマイカ)/他の選手に比べ、頭ひとつ、いや二つくらい大きなボルト。スタートも圧倒的な瞬発力で他の選手を退けていた。
2011年8月28日 世界陸上大邱大会 男子100m決勝 ウサイン・ボルト(ジャマイカ)/決勝にてフライング失格。控室から引き上げるボルト。後にも先にもこんな姿は見られなかった。
2012年8月5日 ロンドンオリンピック 男子100m決勝 ウサイン・ボルト(ジャマイカ)/この直前までハンマー投げ・室伏宏治の撮影をしていたためインフィールドから撮影した、強さと速さが表現できた一枚。
2013年4月29日 織田記念陸上 男子100m 桐生祥秀/当時まだ高校生の桐生が10秒01というタイムを叩き出した。隣には現在の日本記録保持者・山縣。
2014年7月23日 世界ジュニア陸上 男子100m決勝 桐生祥秀/この大会で銅メダルを獲得した桐生。日の丸をまといウィニングラン。
2017年8月5日 世界陸上ロンドン大会 男子100m ウサイン・ボルト(ジャマイカ)/おそらくプーマがボルトのために作ったであろうゴールドのソールのスパイク。
2019年6月24日 サニブラウン・アデブル・ハキーム/都内のスタジオで撮影したサニブラウン。この撮影から4年経った今夏、世界陸上ブダペスト見た彼はまたさらに大きく見えた。
2019年6月27日 陸上日本選手権 サニブラウン・アデブル・ハキーム/スタート時に見せる力強い大きな腕の振り。
2019年6月27日 陸上日本選手権 サニブラウン・アデブル・ハキーム/爆発的なパワーでスタートするサニブラウン(左)。
2021年6月24日 陸上日本選手権 山縣亮太/コロナ禍ではアスリートもスタート直前までマスク着用。
2021年6月25日 陸上日本選手権 桐生祥秀/100mの決勝前にひとりひとりコールされてトラックに入る。レース前に集中する桐生。
2021年8月13日 東京オリンピック2020(2021) 男子100m決勝 ラモントマルチェル・ヤコブス(イタリア)/まさかヤコブスが勝つとは思ってもいなかったこのレース。トラックにある五輪マークを絡めて撮影できたのがよかった。
2023年6月4日 陸上日本選手権 サニブラウン・アデブル・ハキーム/サニブラウンがスタート前に身体を動かしながら集中力を高める。
2023年8月19日 世界陸上ブダペスト大会 100m準決勝 フレッド・カーリー(アメリカ)/アシックス社製のゴールドのスパイクで挑んだカーリーだったが、惜しくも決勝進出ならず。
2023年8月19日 世界陸上ブダペスト大会 100m準決勝 サニブラウン・アデブル・ハキーム/サニブラウンが渾身の走りで100m決勝へと駒を進めた準決勝。
2023年8月20日 世界陸上ブダペスト大会 100m決勝 ノア・ライルズ(アメリカ)/この大会で100m、200m、そして4x100mリレーで金メダルを獲得し3冠に輝いたライルズ。真正面に置いたリモートカメラで捉えた1枚。
2023年8月21日 世界陸上ブダペスト大会 シェリーアン・フレイザープライス(ジャマイカ)/毎日変わるとも言われている髪の毛の色、今大会でも見る者、撮る者を楽しませてくれた。
2023年8月21日 世界陸上ブダペスト大会 シャカリ・リチャードソン(アメリカ)/今季世界最高、そして大会新で世界女王になったリチャードソン。彼女のネイルも話題に。
フォトグラファー・岸本勉
岸本勉(きしもと・つとむ)/1969年生まれ、東京都出身。10年余りスタッフフォトグラファーとして国内外の様々なスポーツイベントを撮影。2003年に独立、「PICSPORT(ピクスポルト)」を設立。オリンピックは夏季冬季合わせて14大会、FIFAワールドカップは8大会、ほか国内外問わず様々なスポーツイベントを取材。2015年FINA世界水泳選手権カザン大会より、オフィシャルFINAフォトグラファーを担当。国際スポーツプレス協会会員(A.I.P.S.)/日本スポーツプレス協会会員(A.J.P.S.)
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