山本由伸を作り上げたトレーニングとは? スポーツライター・中島大輔さんに聞く
WBCでも活躍した日本のエース・山本由伸投手のトレーニングに迫った一冊が、『山本由伸 常識を変える投球術』だ。著者であるスポーツライター・中島大輔さんが魅了されたという独自の練習法・考え方とは?
取材・文/黒田 創 撮影/石原敦志 写真/CTK Photo/アフロ
初出『Tarzan』No.854・2023年4月6日発売
中島大輔さん
教えてくれた人
スポーツライター
なかじま・だいすけ/1979年生まれ。プロアマ問わず野球界を広く取材。『中南米野球はなぜ強いのか』(亜紀書房)で第28回ミズノスポーツライター賞優秀賞を受賞している。
山本由伸投手の進化に迫った一冊
2年連続МVPと投手5冠を達成。オリックス・バファローズのリーグ連覇および昨年の日本一の立役者であり、先日のWBCでも活躍した山本由伸投手。
誰もが認める「日本球界最高の投手」は何を考え、どんなトレーニングを行っているのか。そこに迫った話題の一冊がスポーツライター・中島大輔さんによる『山本由伸 常識を変える投球術』(新潮新書)である。
『山本由伸 常識を変える投球術』新潮新書
ウェイトトレをせず、得意球を自ら封印するなどあらゆる面で「規格外れ」の山本由伸投手。一風変わったトレーニングの理由や独自の思考法、そして未来のビジョンまで、本人および周辺人物への徹底取材で解読している。858円。
「山本投手に注目したきっかけは、入団1年目に対戦した大谷翔平選手が“今年対戦した投手で一番良かった”とコメントしたり、西武の主砲・山川穂高選手が“こんなカットボール見たことない”と絶賛していたこと。
1年目の登板は5試合で、身長178cm、体重80kgとカラダも大きくない。高校を出てすぐのドラフト下位の投手が、名だたるバッターにそう言わしめる理由を探りたくなったのです」
それから何度か取材の機会を得た中島さんは、山本投手独自の練習法や考え方に魅了される。
そのひとつが、現在球界で主流のウェイトトレーニングは一切行わず、カラダの協調性を高める「BCエクササイズ」に重きを置いている点だ。
「BCエクササイズは柔道整復師の矢田修さんが考案し、彼は1年目のオフから集中的に指導を受けていますが、とても地道な内容なんですよ。
同じ指導を受けても継続できない選手が少なくないなか、山本投手はこのトレーニングに“ピンときた”と言います。その結果、それまでの投球フォームから、右腕を大きく後ろに伸ばして投げる投げ方に変え、肘に負担がかかるとの理由で得意球だったスライダーを封印したのです」
カラダの中心を意識しつつ重心をコントロールする
山本投手のフォームはしばしば「アーム投げ」と表現されるが実際は違う。足から手先を一本の釣り竿のように使い、一番大きなカラダの使い方でボールに最大の力を伝える。
小柄なピッチャーが怪我のリスクを抑えながら第一線で投げるためのフォームであり、BCエクササイズはその基礎となるものだった。
「言語化するのが難しいのですが、要はカラダの中心を意識しながら動きの中で重心をコントロールし、カラダの芯から力を発揮できるようにするのがBCエクササイズのポイントです。
山本投手も決してウェイトを否定しているのではなく、あくまで自分に合った鍛え方を選んでいるというだけ。ウェイトをしなくても全身の筋量は増えているそうですし、球速もどんどん伸びています」
山本投手は登板中、ベンチ内で立ち姿勢を確認して重心バランスを整える作業を行うことがあるという。
闇雲に鍛えるのではなく、そうした根本に立ち返るような行いには、どこか古武術的なニュアンスも感じられる。
「このハイテクの時代に面白いですよね。人に言われたことやセオリー通りにするのではなく、根拠を持って自分のやり方を貫く山本投手への興味は尽きません。
中継や動画などで彼のピッチングを見ながら本を読んでもらうと、彼のことをもっと知りたくなると思いますよ」