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日本記録達成! 90歳のベンチプレス王者に聞く、人生の楽しみ方

大会の様子。ベンチプレス大会には細かいレギュレーションがあり、少しでも違反すると失格になってしまう。

ベンチプレスを始めたのは72歳。

2020年11月に行われた「全日本ベンチプレス選手権大会2020」のマスターズ47kg級で、40kgの日本記録を達成して優勝した女性がいる。奥村正子さん、90歳。現役世界最高齢のベンチプレス選手だ。

てっきり20代や30代の頃から続けているのかと思いきや、奥村さんがベンチプレスを始めたのは、なんと72歳のとき。交通事故のリハビリで筋トレを始めた夫に付き添ってジムに通ううち、魅了されたのがベンチプレスだった。

「少し前まで軽いプレートでやっていた人が、ふと気づくと重たいプレートを上げている。“あ、続ければ、力がつくものなんだ”と気づいてやりたくなったの」

初めは20kgのシャフトすら上がらなかったが、練習を重ねて10か月後には30kgを上げる

「周囲に“40kgはいける。その歳で40kg上げたら、世界で金メダルが獲れる”とおだてられて、すっかりその気になっちゃった」

その後、ベンチプレスの指導者に師事し、メキメキと上達。82歳で日本代表になり、2013年にチェコでの世界マスターズベンチプレス大会で初優勝。これまで世界大会に6回出場して、5個の金メダルを獲得した。

奥村正子
奥村正子(おくむら・まさこ)/1930年、横浜生まれ。戦中戦後を生き、育て上げた息子は生化学者で現在ヨルダン在住。茨城県で一人暮らし。著書に『すごい90歳』(ダイヤモンド社)がある。

90歳までやるのが、3年前に亡くなった夫との約束でした。でも、90歳になると、友達が“人生100年時代だから、100歳までは続けなきゃダメよ”と言うから、それまで頑張るつもりです」

トレーニングは週2回。自宅から電車で1時間の距離があるジムまで一人で通う。90歳といえば、杖をついたり、車椅子に乗ったりしている人もいるのに、彼女は背すじをピンと伸ばし、颯爽と歩く。

水曜はスクワットデッドリフト腹筋背筋でおよそ2時間。そして土曜がベンチの日だ。

「スクワットは45kg担いで8回×3セット。足腰がしゃんとしてないと、ベンチは上がらないの」

世界各国での触れ合いが楽しい。

彼女の偉業を支えるのは、徹底した自己管理。起床は毎朝5時。外食はせず、食事は朝食がメイン。お昼はおにぎり、夕飯はハチミツ入りのホットミルクのみだ。

「朝はご飯70gと牛肉140gと決めて、1回分ずつ小分けして冷凍しています。牛肉は少しサシが入っているくらいが、美味しい。調理に使う油は、すべてオリーブ油に刻んだニンニクを入れた自家製ガーリックオイル。副菜はタコとキュウリとワカメの酢の物ね」

少々ストイックすぎるように思えるが、彼女は毎日楽しいという。

「だって神様は私をヘビにしたかもしれないし、ラクダにしたかもしれない。運良く人間にしてくれたんだから、楽しまなきゃ。世界大会に出たいのは、海外のいろいろな国で現地の人たちと触れ合い、お友達になれるからです」

今年カザフスタンで開催予定の世界大会で、6個目の金の獲得と世界記録に挑む。

「コロナで練習機会が減り、体重も落ちたから、日本選手権では40kgしか上がらなかった。ベスト体重は46.8〜9kg。その体重に調整して世界記録を更新したい。目標があると日々楽しいですよ〜

笑顔で決意を語るその横顔は、アスリートそのものだった。

取材・文/井上健二 撮影/山城健朗

初出『Tarzan』No.803・2021年1月28日発売

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