• 日本人アスリートは“世界”にどう挑むべきか|米国スポーツ見聞録 vol.8
COLUMN
2019.07.12

日本人アスリートは“世界”にどう挑むべきか|米国スポーツ見聞録 vol.8

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IMGアカデミーで行われたテニスのエリア別カップで優勝したアジアチーム。

テニスプレーヤー・錦織圭も在籍していた最高峰のスポーツ教育機関「IMGアカデミー」。そのアジアトップを務める田丸尚稔がアメリカで実際に見た、聞いたスポーツの現場から、日本の未来を変えるヒントを考える。第8回のテーマは、日本人アスリートと“グローバル”への危機感。

アイデンティティを意識せざるを得ない環境

米国に渡ってから、ちょうど6年が経つ。日本を離れた理由やきっかけはいくつかあるけれど、大きく占めたのは日本に対するある種の失望であったり、限界を感じたことだった。

特にスポーツに関して言えば、米国は輝いて見えた。プロの世界はもちろん、大学スポーツはビジネス的にも教育的にも進んでいる。スポーツサイエンスや心理学、あるいは私がフロリダの大学院で専攻したスポーツマネジメントなどを体系的、実践的に学べるシステムも世界の中で先端を走っているのは間違いないだろう。

しかしながら皮肉なことに、日本を離れ、米国にいればいるほど“日本”、あるいは“日本人”というものを意識せざるを得なくなっている。

大学院のクラスで日本人は私一人だった。マーケティングやメディア、法律などさまざまな分野を学ぶ際に、ケーススタディとして出る話題はもちろん米国の事例が主だったが、日本のものと比較することでその特異性や要所はより明確になったし、授業の中では日本の事象や日本人としての見解を求められることも多く、それが学びに深みを与えた。

IMGアカデミーで職に就いても同じだ。スタッフも国際色豊かなメンツが揃っているが、学生たちを見ると世界中の80か国から集まっていて、スポーツのプレースタイルも違えば、バックグラウンドもさまざまで、言語も生活習慣も違う。

その多様な環境では、日本人はやはり“日本”というものを強く意識せざるを得なくなる。さらに言えば、IMGアカデミーでは、その“違い”があることを是として、積極的に意識させる取り組みも多く見られる。

毎年、IMGアカデミーの長期留学生に配られるゴルフバッグ
毎年、長期留学生に配られるゴルフバッグには出身国の国旗が刺繡されている。

たとえばテニスプログラムで開催しているコンチネンタル・カップという試合がある。大陸や地域で選手を分けて団体戦を行うのだが、端的に言ってとても盛り上がる。チームメイトには親近感を抱くし、試合戦略など地域ごとに特徴があり、コントラストが明確になって見ていて面白い。

一方で、ゴルフプログラムの例も挙げてみる。学生たちには年度の初めにゴルフバッグが配られる。それぞれ出身国の国旗が刺繡され、否が応でも自分が生まれ育ったところを意識するし、“国を代表している”というモチベーションに繫がっていたりもする。

世界で戦う。しかし、それは自国から離れるということではない。むしろ自身の源泉を見つめ、多かれ少なかれ、それに基づく戦い方を探ることが必要だ。

国籍を超えたコミュニケーションが生まれる場所にいるからこそ、アジアあるいは日本という地域を強く意識することにもなる。つまり、グローバルな視点は常にローカルを認識することも含んでいる。

曖昧なまま抱く“グローバル”への危機感

スポーツに限らず、海を渡った日本人なら誰しも感じたことはあると思うのだが、距離を取ったからこそ見える日本の良さはたくさんある。ホスピタリティやサービスは抜群だし、料理だって高級なものからB級グルメまで、日本に帰るたびその美味しさに感動する。

コンビニだってそうだ。フロリダなら青や赤の毒のような色をしたキャンディだとか油ギトギトのドーナツが並んでいるが、日本なら繊細な味の焼き菓子や和菓子が安価で手に入れられる天国みたいな場所だと思ったりする。日本にいたらあまりにも日常的すぎて気づけなかったことの素晴らしさを、世界に出ることで改めて知る。

しかし、だ。“日本人らしく”というキレイゴトで勝負できるほど、世界は甘くない。

IMGアカデミーには、田中力というバスケットボールの次世代のヒーローが在籍している。年齢はまだ16歳。日本代表の合宿に呼ばれるほどの逸材で、ジュニア世代では間違いなく日本トップレベルにある。

身長は188cmで日本の同年齢の平均が170cm程度だから身体的には恵まれている。しかし、IMGアカデミーのチーム写真を撮影する時に「背の低いヤツは前に並んで…チカラ!」と呼ばれた本人はショックを受けていた。

確かに身長2m前後の選手がザラにいて、しかも彼らは俊敏に動ける。田中力はドリブルやパス、シュートとそのセンスや精度は抜けているが、高さやパワーがなければ勝負にならない。

2018-19年度はチームとして全米高校チャンピオンになったけれど、年齢の若さや米国での経験の少なさもあって試合機会は十分に与えられなかった。だから、来季に向けて、ジャンプ力や当たりに負けないパワーを身につけなければならない。日本人的な“うまさ”だけでは世界の舞台には上がれないのだ。

“グローバル化”だとか“世界”だとかの言葉が頻繁に聞かれる時代だ。しかし「欧米」という曖昧な言葉(欧州と米国を同じもののように括るのは乱暴すぎる。同じ米国内ですら州によって文化も法律も違うほど、一緒くたにできないことが多い)が示す通り、日本では本質的に世界を見つめる視線が欠けたまま、“海外”に対する危機感を抱いていないだろうか?

いま一度“日本”を再認識すること。さらには盲目的に“日本的”なるものを絶賛することを超え、冷静に捉えること。その先にやっと本当のグローバル化があるはずだ。

田丸尚稔(たまる・なおとし)

出版社でスポーツ誌等の編集職を経て渡米。フロリダ州立大学教育学部にてスポーツマネジメント修士課程を修了。2015年からスポーツ教育機関、IMGアカデミーのフロリダ現地にてアジア・日本地区代表を務める。

文/田丸尚稔

(初出『Tarzan』No.765・2019年5月23日発売)

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