「ヤケ食いでスッキリしたい」のはなぜ? 脳とストレス、食欲の関係。

忙しいときに食べ過ぎるのも、ショックなことが起きて食に走るのも、要因は脳の働きにある。食事でストレスを解消したくなるメカニズムを学べば、「気づいたら食べ過ぎてしまった」なんて事態も避けられるはずだ。そんな減量の大敵について、解説していこう。

text: Kano Ishitobi illustration: Sho Fujita cooperation: Kazushige Sasaki

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脳の上に男性が座りお菓子やジャンクフードをたくさん食べている様子
教えてくれた人

佐々木一茂(ささき・かずしげ)/東京大学大学院総合文化研究科准教授。筑波大学大学院体育研究科、東京大学大学院総合文化研究科修了。専門は運動生理学。加齢やトレーニングによるカラダの変化や健康との関連についての研究を手がける。

時間割引率の高い人、食べ過ぎに注意。

目の前にあるものを食べるか食べないか、最終的な決断をしているのは前頭前野である。今この瞬間に得られる心地よさや報酬の大きさを判断するのが内側前頭前野で将来的なメリットを重視して自制心を働かせるのが背外側前頭前野。

実はこうした脳の働きは行動経済学の「時間割引率」という考え方に深く関わっている。

時間割引率とは、将来得られる報酬を現在に置き換えたとき、どれだけ価値が差っ引かれるかというパラメーター。これは個人によって大いに異なる。

たとえば、今すぐもらえる9000円と1週間後にもらえる1万円を比較した場合、どちらを選ぶか?

前者を選ぶ人は将来の報酬に対する割引率が高い、つまり時間割引率が高い人。後者を選ぶ人は割引率が低く、自制心が利く人。前者は内側前頭前野、後者は背外側前頭前野に影響されやすい脳と解釈できる。

さらに、太っている人は時間割引率が高い傾向にあるという研究報告も。目先の利益を優先しがちなせっかちさんは、一旦立ち止まって時間割引率を熟考する習慣をつけたいもの。

感情が揺さぶられた時、食事が精神安定剤になる。

「そもそも精神状態は食欲に対して大きな影響を及ぼします」と、東京大学大学院准教授・佐々木一茂さんは言う。

「分かりやすいのはストレスです。ストレスは食欲を低下させると考えがちですが、ほどほどのストレスであればかえって食欲が増すこともあります。また、たとえば大きな仕事を終えた後、食欲が解放され、普段と同じようなものを食べてもおいしく感じるということが起こります」(東京大学大学院准教授・佐々木一茂さん)

何かのきっかけで感情が揺さぶられたときに、こうした現象が起きやすいという。

「エネルギー的に今それが必要だから食べるという意味ではなく、空腹ではないけれど食べている最中は目の前のストレスから一時的に解放され、ある意味精神安定剤として作用します。これは前頭前野が発達した人間特有の反応です」

苦手な上司に無茶ぶりをされる、責任を持って進めていたプロジェクトが成功する、長年つきあっていた彼女にフラれる。内容の良し悪しは別として、感情が揺さぶられるような出来事はすべて脳にとってはストレスとなる。

そんなとき、精神安定剤を求めて居酒屋へ直行してはいけない。くれぐれも、目先の快楽に惑わされぬよう。

分かっていても食べ過ぎる。原因は報酬系の刺激。

ストレスで食欲が増す理由には脳の中に備わっている「報酬系」というシステムが大きく関わっている。

生まれて初めてファストフードのハンバーガーを食べ、衝撃が走るほどおいしいと感じたとしよう。すると脳の奥深い部分、脳幹からドーパミンという神経伝達物質が分泌される。

この物質が快感を感じる快楽中枢を経由して前頭前野全体に拡散していく。こうして脳はハンバーガー→おいしい→また食べたいという行動様式を学習する。これが報酬系というシステム。

ヒトの脳の面白いところは、ここに「報酬予測誤差」が生じるところ。これは文字通り、予測していた報酬と実際得られた報酬のズレのこと。ズレが大きいほど報酬系による学習は強化されやすい。

しょっぱいものの次に食べる甘いもの、辛い仕事の後に飲むビール、腹ペコでかき込むカップラーメン。どれも報酬予測誤差の大きさによって得られる悪魔的快楽。こうして報酬系の奴隷になってしまうと、分かっちゃいるけどやめられない状態に。

流される前に一度、自分に問うてみよう。今本当にその食べ物を欲しているのか?

脳が特定の食べ物を報酬として学習する前頭連合野などの流れの図

おいしい!と脳が感じたときに脳幹からドーパミンが分泌され、報酬系の回路を介して大脳皮質の前頭前野に拡散されていく。こうして脳は特定の食べ物を報酬(快楽)と結びつけて学習する。

『文系のための 東大の先生が教える 減量の科学』(NEWTON PRESS)より