ルカ・ カラバティッチ(ハンドボール)「試合前にできることは、すべてやることが一番大切」

世界最強との呼び声が高い〈パリ・サン=ジェルマン〉。そのチームの主将がルカ・カラバティッチだ。彼は今年集大成ともいえる最後のシーズンを過ごす。(雑誌『Tarzan』の人気連載「Here Comes Tarzan」〈2026年9月10日発売〉より全文掲載)

text: Ichiro Suzuki photo: Tsutomu Kishimoto

『Tarzan』No.933 on sale September 10, 2026.

ルカ・ カラバティッチ/ハンドボールをしている様子
Profile

ルカ・ カラバティッチ/1988年生まれ。2m2cm。フランスのラン県ストラスブール出身。3歳のころより父の影響でハンドボールを始める。2007年、モンペリエ・アグロメレーション・ハンドボールに加入。11年に初のフランス代表に。15年にパリ・サン=ジェルマンハンドボールと契約を結び、チームの12連覇に貢献する。21年、東京オリンピックでは金メダル。

スピード感があるし、コンタクトも激しい。選手は高い能力を持つ。

ハンドボールは、ヨーロッパでは絶大な人気を誇るスポーツである。試合となれば、毎回会場に溢れんばかりの観客が押し寄せる。そして、数あるチームの中でも、最強の呼び声が高いのが〈パリ・サン=ジェルマンハンドボール〉だ。なにしろフランスの国内リーグで12連覇。フランス、オランダ、スペインなどの代表選手が顔を揃える。

そのチームの主将がルカ・カラバティッチ。15ー16年シーズンからチームに所属して、リーグの連覇に貢献するとともに、多くの最高峰の舞台でも活躍している。大一番の決戦の前、彼はどのように心身を整えているのだろう。

ルカ・ カラバティッチ/ハンドボールをしている様子

「もちろんプレッシャーは大きな試合の前は感じます。トップアスリートは怖いと感じないというのはまったくの噓で、僕も本当に恐怖です。ただ、キャリアを積むにつれて、その気持ちを自分で少しずつ整理できるように変わってきます。経験するに連れて、その前の段階で心身をコントロールできるようになる。どうするかというと、その試合の前にできることを100%全部やるんです。自分でできることは試合に向けての準備でも、カラダ作りでも、ビデオの分析でも。そこはもう才能とかは関係なくやる努力です。つまり、これは誰でもできることで、とにかく実行することが大切。もちろん、試合では何が起きるかわからない部分はある。が、少なくとも前にできることは、100%やっておくことが必要なんですよね」

ルカ・ カラバティッチ/ハンドボールをしている様子

試合前までの行動。これに尽きるのである。自分をベストの状態にしておけば、アクシデントにもすべてではないにしろ、対応できる。そして、その対応できる数が多いほど勝利をつかめる。東京オリンピックでルカはフランス代表として戦い、見事金メダルを獲得した。そのときも、常と同じような準備をして世界一の称号を勝ち得たのであろう。

「もちろんです。フランスはベストチームのひとつで、優勝したいと思っていました。ただ、それは簡単なことではない。肩を並べる強豪国もいましたから。だから、優勝できたときは本当にうれしかったです」

ルカ・ カラバティッチ/ハンドボールをしている様子

日本の観客の熱意は伝わりましたかと尋ねると、「無観客試合だったんですよ」と笑う。そうだ、あのときはコロナ下だった。だが、パリ・サン=ジェルマンは2023年から4年連続でジャパンツアーを開催していて、日本チームと熱戦を繰り広げている。

今回の来日もその一環なのだが、取材のときの彼の最初の言葉は「ハンドボールを取材してくれてありがとう」というものだった。日本でこの競技を少しでも盛り上げたいという気持ちがあったのかもしれない。日本ではハンドボールの素晴らしさが、なかなかわかってもらえない現状があるからだ。

ハンドボールは、コンプリートな競技。

父親はユーゴスラビアの出身で、ハイレベルなゴールキーパーだった。その影響でハンドボールを兄と一緒に3歳から始めた。兄のニコラもまた歴史に名を残す名選手で、オリンピックに4大会連続で出場し、3つの金メダルを獲得している。

ルカ・ カラバティッチ/ハンドボールをしている様子

「小さいときはいろんなスポーツもしたし、すべて好きでした。けれど結局は、父親がやっていた競技に、子供たちも一番情熱を注ぐようになりました。それでニコラも僕もハンドボールに惹かれていったんです」

身長は2m2cm。もちろん、運動神経は抜群である。バスケットでもバレーボールでも一流になっていただろう。父の影響でハンドボールの道に進んだのだが、この競技には他にない大きな魅力があると言う。

「すごくスピード感があり、コンタクトも激しい。人はコンバットじゃないですけど……、戦いを見ることが好きじゃないですか(笑)。ハンドボールはコンプリート(完全)なスポーツ競技だと思います。常にアクションがあって攻防が即座に入れ替わる。それに、サッカーみたいに0対0で終わることもない。1試合で40〜50点ぐらい入ったりする。見ていて飽きないし、選手がジャンプをはじめとするすごく高い能力を持っている。それがなければプレイできないんですから。ぜひ、日本の皆さんにも見てもらいたいですね」

ルカのポジションはピボット。ディフェンスの中央でカラダを張って敵のポジションを崩したり、味方のシュートコースを作るために壁になったりするのが仕事だ。強靱なカラダが必要だし、「体力がいるし、常にコンディションをベストに保たないといけない」と言う。そして、彼にはもうひとつの重要な仕事がある。それが、主将としての仕事だ。

ルカ・ カラバティッチ/ハンドボールをしている様子

「まずは見本を見せることが大切です。今、38歳で周りは年下の選手ばかり。それだから、練習中に僕が率先してやることに重さがあると思う。僕が100%でやって見せることで、若い子たちの刺激になる。それが、各人のモチベーションにもなっていくし、パリ・サン=ジェルマンのユニフォームに最大限のリスペクトを持って、毎日を送ることもできるようになるんです。さらにひとつ。主将の仕事としては、全員が話しやすい雰囲気を作ること。コート上だけじゃなくて、他の場面でもその雰囲気があれば、それがプレイに繫がっていくと思っています」

年齢を重ねるごとにコンディションを整えるのは難しくなる。だから、ルカはオフシーズンの最初のバカンス中からトレーニングを始める。テニスなどの他競技を行ったり、自重での筋力トレーニングをしたり。そして、シーズンに入れば、ほとんど休みなく練習があって、週末には試合ということになる。

ルカ・ カラバティッチ/ハンドボールをしている様子

「誰よりも練習に早く来て、ストレッチやアップをたっぷりできる時間を作る。そして、終わった後に大切なのが日々のコンディショニングと食事です。バカンス中にも止まらないのは、一度止まってしまうと、また始めるときがきついから。進み続けるんです。それでも、フランス代表は昨年引退したし、パリ・サン=ジェルマンでプレイするのも最後の年になると思います。だから、このチームが戦うすべての大会を制覇するというのが目標。日本から帰るとリーグ戦が始まるのですが、チームは安定して練習を続けられていますし、準備もかなり早い段階で整うと考えています。さらに、チャンピオンズリーグ(EHFチャンピオンズリーグ=欧州ハンドボール連盟主催のクラブチーム大陸選手権)。ここ数年はファイナル4にも進出できないでいたので、まずはそこに至ることが重要。とにかく、自分としては集大成のシーズン。できることは100%やって、臨みたいです」