『 トゥルーライズ』(1994年)諜報部員がテロ打倒と浮気調査に挑む。|入江哲朗の筋肉映画論。
鍛え上げられた肉体は、なぜ人を魅了するのか。この連載では、アメリカ思想をバックボーンに映画批評を執筆する入江哲朗が映画史に残る名作を題材に、筋肉と映像表現の関係を読み解く。今回は、シュワルツェネッガーとジェームズ・キャメロン監督が再タッグを組んだ『トゥルーライズ』(1994年)。二つの顔を持つ男を、圧倒的な肉体とコミカルな演技でどう成立させたのか。
edit: Keisuke Kagiwada
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入江哲朗(いりえ・てつろう)/東京外国語大学世界言語社会教育センター講師。著書に『火星の旅人─パーシヴァル・ローエルと世紀転換期アメリカ思想史』。
アーノルド・シュワルツェネッガーの圧倒的筋肉のインパクトを活用してどれほど型破りな映画を作れるか。80〜90年代のハリウッドはこのチャレンジにさまざまな仕方で挑みました。どの例も私は好きでありベストを選ぶのは難しいです。しかし間違いなく、今回取り上げるジェームズ・キャメロン監督『トゥルーライズ』(1994)は最高傑作のひとつです。
本作でシュワルツェネッガーが演じる主人公ハリー・タスカーは、米国の諜報機関オメガ・セクターで働くスパイです。彼は15年連れ添っている妻ヘレン(ジェイミー・リー・カーティス)にさえ正体を明かしておらず、夫は平凡なコンピューター・セールスマンだとヘレンは思っています。
あるテロリスト集団を追っていたはずのハリーは、ヘレンの浮気を疑わせる出来事と遭遇し、浮気調査にオメガ・セクターのリソースを割くという公私混同に及びはじめます。その隙を狙ったテロリストたちがハリーとヘレンを誘拐し、米国への核攻撃をもくろむ敵との戦いにヘレンまでもが巻き込まれ……。
本作は、フランスのスパイ・コメディ映画『ラ・トータル!』(1991)にインスパイアされた作品です。しかし先述のあらすじにシュワルツェネッガーを主演俳優としてあてがうことは、いっけん暴挙にも感じられます。なにしろ彼の筋肉の印象は、ジェームズ・ボンド的優雅さやセールスマン的平凡さをかき消しかねませんから。にもかかわらず本作が破綻していないのは、ひとつには、シュワルツェネッガーの演技力が向上したためでしょう。
しかしより重要なのは、シュワルツェネッガーの使い方を完璧にマスターしたキャメロン監督が、ど迫力のアクションとコミカルな息抜き的場面を織り交ぜたジェットコースター的展開を緻密に組み立てていることです。ばかげたこと満載の物語ですが、それらにいちいちつっこめるだけの余裕を本作は観客に与えません。
開始30分後から始まるトイレでの戦闘→屋外でのチェイス→ホテル内でのチェイスの流れは見事です。屋外に出た敵はバイクで逃げ、ハリー・タスカーはなぜか馬に乗って追い、ホテルに入っても両者とも乗りつづけています。敵のバイクはホテル屋上のガラス塀を全速力で突き破り、向かいのビルの屋上プールへ飛び移ります。
ハリーも馬に同じことをさせようとするのですが、馬は当然ながら間際で急停止し、ハリーは屋上から落ちかけます。馬に屋上まで引き上げてもらったハリーが、自分が求める脳筋的問題解決のレベルに達していない馬を説教する場面は笑えます。
このとき、ハリーのシャツは戦闘のせいで破れており、シュワルツェネッガーの腹筋が見えています。終盤には映画史上有名な超弩級アクションがあるのですが、そこでもハリーのシャツはあちこち破れ、圧倒的筋肉が露わになっています。いまやシュワルツェネッガーを使いこなしているキャメロン監督は、筋肉の露出量を細かく調整しながら、脳筋的アクション、スパイ、コメディの3ジャンルを巧みに横断してみせました。
『トゥルーライズ』(1994年)
シュワちゃんとジェームズ・キャメロン監督が『ターミネーター』シリーズ以来の再タッグを組んだ作品。諜報部員を演じるシュワちゃんが、国家と家庭の危機に立ち向かう。彼の前で妻がセクシーなダンスを踊るシーンが、ネットで定期的にバズることでも有名。


